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カナダの学生陸上の一年の流れ

 欧米の多くの国と同様に、カナダでも大学の年度の始まりは9月です。うちの大学は9月から12月頃までの秋学期、1月から4月頃までの冬学期の、二学期制が取られていました。5月から8月までは春・夏学期と区分されてはいますが授業はほとんどなく、多くの学部生はインターンなどの課外活動やバイトをしているようです。一人暮らしや寮に入っている学生は実家に帰っていることが多い印象です。

 大学の学業におけるカレンダーと同様にvarsity teamの一年も9月に始まり4月頭に終わります。つまり、5~8月には大学の部活は活動していません。私は2023年5月~2024年3月までの11ヶ月間、カルガリー大学に在籍していました。5月に入学したときに、大学の陸上部に所属できないかといろいろ情報を集めていたのですが、大学の陸上部が「今は無い」と聞き、最初は全く意味がわかりませんでした。大学の陸上部がない期間に陸上をしたい場合、いわゆるクラブチームに入るか、個人登録で競技をする必要があります。
 とはいえ、大学で陸上部に入るような選手は、結局ほとんど全てがどこかのクラブチームに所属して春夏も陸上をしています。そして、どこの大学にも、varsity teamの選手が春夏に所属する受け皿のようなチームが存在しており、私も紹介されて、University of Calgary Athletic Club (UCAC)に5~8月まで所属していました(図1)。実家に帰る学生は、実家の近くのクラブチームに所属していたりするので、varsity teamのメンバーと受け皿クラブチームのメンバーは同じではありません。聞くところによると、だいたい大学1,2年生ぐらいまでは実家に帰ることもあるが、高学年になって陸上に熱中しだすと実家に帰ることもなく、基本的に大学近くのクラブチームで春夏もバリバリ陸上やる、みたいなことになるそうです。ちなみに、クラブチームはvarsity teamのメンバーの受け皿としてだけでなく、通年活動しているので、大学生以外の社会人や高校生以下は、一年を通してクラブチームに所属しています。つまり、5~7月の期間だけ一時的にチームの人数が増え、9~4月は少人数になり…を繰り返しているようです。

図1 UCAC時代のシングレット(ユニフォーム)
カルガリー大のスクールカラーを意識して、ここも赤いチーム。なお、下は黒系ならなんでも良いということになっていました。

 Varsity teamに話を戻します。各部(スポーツ)は活動期間(試合のある期間)が異なっており、私は秋(9~10月)にクロスカントリー部(XC)、冬(11~3月)に陸上部(TF)に所属しました。クロカン部と陸上部はチームとしては厳密には別個ですが組織としては同じで、クロカンの選手権が終了したら、クロカン部が陸上部の中長パートにほとんどそのまま移行します。地区インカレや全カレなど選手権大会が別々に存在しているため、便宜上別の部としているのでしょう。私が知る限り、どこの大学でも概ね、クロカン部と陸上部はほとんど一緒の組織になっているようです。例えば他の部活だと、サッカー部やアメフト部は秋学期しか活動していません。サッカー部やアメフト部にいる数人の足が速い選手は、そちらの部のシーズンが終了してから、陸上部に12月頃から合流していました。クロカン・サッカー・アメフトの各部は屋外競技であり、カナダでは10月末になると各地で雪が振り始めるため、屋外競技ができなくなるからだと思われます。私の住んでいたカルガリーでは、10月の時点ですでに最高-7度、最低-15度という日がありました(図2)。

図2 2023年10月24日のカルガリー大学キャンパス内
この日が初雪でした。気温も一気に落ちて、最低-10度までになりました。ちなみに、前日までは+10度ぐらいありました。

 ここまで読んで疑問に思われた方もいるかもしれませんが、そうです。カナダの大学スポーツでは、陸上は屋内競技に区分され、屋外陸上は存在しません。つまり、カナダの大学陸上にはインドアしかないのです。4月から8月はアウトドアのシーズンですが、varsity teamはすでに解散しているので、学生陸上としての選手権はありません。秋なら屋外陸上できるのでは?と思う方もいると思いますし、実際気候的にも十分可能なのですが、秋は中長距離はクロカン、短距離・フィールドはベーストレーニングをしているので、屋外陸上の試合はありません(カナダはそこまで陸上が盛んではないから無いのかもしれません。米国や欧州では秋にも屋外の試合が少なからずある気がします)。ちなみに、アメリカのNCAAでは、4月からの期間に屋外陸上があるので、インドアの選手権大会とアウトドアの選手権大会があります。NCAAでもそうですが、インドアのレースよりもアウトドアのレースのほうが一般的に盛り上がります。しかし、カナダでは大学生の陸上がインドアしかないこともあって、アウトドア陸上よりもインドア陸上のほうが盛り上がっている稀有な国かもしれません(図3)。


図3 2024年のU SPORTS 女子3000mのスタート前
盛り上がっていると言っても、200mトラックは会場が小さいので、そんなに盛り上がっていないように見えます。カナダなので全カレと言っても所詮こんなもんです。 カナダは面積がデカすぎるためか、気軽に応援に行くこともできないので、関係者(というか選手とスタッフ陣)しか来ていない印象でした。

 時期的なことについて考えると、各国の国内選手権が6-7月にあるのも自然なことのように思えます。日本選手権は世界大会の選考を兼ねるので、世界を基準にすると6月頃にあるのは仕方ないですが、日本の陸上シーズンが4月~11月であることを考えると、時期が中途半端で少々不思議です。一方、一年が9月から始まる欧米では、9月から11月はクロスカントリーやベーストレーニングをしています。その後、12月から3月までインドア陸上をして、4月から7月まではアウトドア陸上をして、世界レベルの選手は8月に世界大会に出て、一年が終わります。世界大会がない普通の選手は8月がオフ期間になり、9月からまたトレーニングが再開されます。日本では4~11月がシーズンで、海外では12~8月がシーズンなので、そのスケジュール感がそもそも合っていません。
 たまに、「日本の長距離選手が駅伝やロードレースをやっている11~2月に、海外の選手はインドア陸上でバンバンスピードを出している。これでは世界と日本の差は広がる一方だ」みたいな言説を耳にしますが、これは少々的外れな指摘です。なぜなら、海外の選手は9~11月に、日本の駅伝・ロードレースにあたるクロスカントリーをやっているからです。つまり時期がずれているだけで、シーズンを通してやっていることは実質変わりません。違いがあるとすれば、クロスカントリーは長くても10kmで、起伏もあってパワーが要求されるので、ハーフマラソン距離の駅伝とは要求される能力や身につく能力が異なる、ということでしょうか。

 ちなみに、カナダで屋外の大学陸上がない理由はよくわかりません。陸上に限らず、大学スポーツがそもそもないのですから、屋外の大学陸上がないのは当然といえば当然なのですが、そもそもなぜ大学スポーツが5~8月にないのかがよくわかりません。夏休みは実家に帰らせてくれというカナダ人の意向なのか、カナダではアメリカほど大学スポーツが盛り上がっていないか、文化的な要因かと想像します。

 次回はvarsity teamへの所属や大学内での位置づけについて書きます。


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