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ゆめのはなし



うそをついている。くだらないうそ。でもそんなうそをずっと、つづけている。


多分人を、好きになれないんだと思う。だから離れた方がいいと思う。わたしは君にそう言った。背中合わせで、これくらいの深夜で、手は握らなくても良くて、別に心臓が鳴るわけでもなくて、でもどこか触れていれば落ち着く、ような、そんな相手だった。

私が好きと言わなくても、いつも笑って。

わたしがしたいと言うことには何も言わず頷いて。

たまに君の目を見て、君も私の目を見た。

別に他の人と変わらない、綺麗な目だったけど、君だからたまに見ていた。意味がなくても。

そう、意味がなくても見れるなら、離れなくてもよかった。きっと君が明日いなくなったところで日常は変わらないし、世界もどうにかなったりもしない、私も多分少し考えたくらいで多分普通に生活できる。でもたぶん、きっと少しずつ日が経つにつれて、私が決めていない選択でそうなった日常を責めるんだろうな、とおもった。そうしたら、さきに自分がその日常を選んでおく方が理にかなっている。そう思って、言葉は口から溢れた。浅はかだけど、いつか離れるかもしれない大事なことは今離しておいた方がよくて、後から後悔するなら歯止めが効かなくなる前になかったにしたほうがよくて、いつか壊れるまでを大事にするなら、今のうちに壊して直して、修復できる期間があるほうがいい。

もし直せなかったとしても、自分の気持ちは多分、なおせると思うから。だから、その期間を得るためにうそをついた。離れないように、修復できるように、離れた方がいいよなんて笑って。人を好きにはなれないけど。本当の言葉だ、それはきっと君も知っているね。

だから、同じように私に言ったんだと思う。いつも頷く君が間髪入れずにあのときついた、一生誰も好きにならないなら諦めるよと、笑いながら放った言葉。

死ぬまで解けない魔法をかけられたような気がした。

それから数年、あいも変わらず私は今日も魔法が解けないまま、日々を過ごしている。

ずっとうそをつきつづけている。


おしまい。


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