#72 空や海のように深くて壮大【書評】父が娘に語る経済の話
◾️はじめに
第2週はベストセラー。
父が娘に語る経済の話、です。
タイトルからしてどんな本だろ?難しいのかな、と思いつつ。
◾️要約
今は市場社会。莫大な富と考えられないほどの貧困が存在する。
富は借金から始まり、返済のために人々は発明をした。
それぞれが関係し合うのが市場社会。
絡み合っているがゆえに、考えた通りにことは進まない。
それは人間らしさとも言えるのだが、市場社会一辺倒でいいのか、みんなで考えよう。
◾️感想
面白い。趣深さがある面白さがある。
名作などの物語が示唆する世界と現実をうまく織り交ぜて素敵な問いを与えてくれる。
イカロス、オデュセウス、ミダス王などなど。
民主化のためにはまず経済をこれくらい知らないといけない。
ちゃんと自分で考えられるようにならないといけない。
地域軸(イギリス、ギリシャ、オーストラリアなど)、
時間軸(産業革命から現代)
と、幅広く捉えており、壮大な話をわかりやすく書いている、とてもいい本。
◾️要約(詳細)
◆第1章 なぜ、こんなに格差があるのか 答えは一万年以上前にさかのぼる
アボリジニがなぜイギリスを侵略しなかったかは彼らの生活がそれで十分豊かだったから。
一方、そうでない地域で、つまり自然の作物だけで暮らせない地域で1万2000年前、農耕が発明され、余剰が生まれた。
それを管理するために信頼、そして通貨に近い概念が生まれた。
そこに支配者が国家や宗教と絡み、とんでもない富が生まれた。
一方、そうでない地域はそこに飲み込まれた。
※過去を自在に見ることができたとしたら、「今、この人が農耕を始めた。人類初だ!」って瞬間があったんだろうな、名もなき人によって。
◆第2章 市場社会の誕生 いくらで売れるか、それがすべて
市場のある社会では交換価値より経験価値の方が重要だった。
いくらお金を積まれようが、お金でそれを得た、ことの方が恥ずかしいと考える人が当たり前に存在する時代があった。
その時代が市場の”ある”社会。(あるんだけど全てではない。)
それに対して今は全てが交換価値の多寡により決まる”市場社会”。
ここでは全てが商品、つまり売ることができるものになる。
そして思いがけない富と想像できない苦痛が共存する世界になった。
※武士は食わねど高楊枝、的な考えかな。お金じゃない価値を尊ぶ世界。
◆第3章 利益と借金のウエディングマーチ すべての富が借金から生まれる世界
莫大な富はどうやって生み出すのか。それは借金から始めなければならない。
借金して事業を始め、利益を生み出し、返済する。
そうして経済が回る社会になった。
利益を生み出すために競走を行い、それに勝つためテクノロジーを開発、または買う必要が出てくる。
※何かを始めるにはまず金がいる。または信頼がいる。
◆第4章 金融の黒魔術 こうしてお金は生まれて消える
借金をどこからするか。銀行だ。
銀行は預金を集め、貸して利子をもらい利鞘で稼ぐ。のは昔。
今は債権を売りリスクを減らせる。そして経済の波に乗り、景気が良ければ貸しまくる。
循環させる基となる。
不景気では返済義務を国が帳消しにするのに抗いつつ、権利を確保し続ける。
公的債務を発行しないと大きな事業はやれないため国家は銀行ときってもきれない関係。
ただ依存しているのは銀行と政府だけではない。
労働者と起業家もお互いに依存している。みんなが何かに依存しているのが市場社会。
※これを見るに銀行が自分で事業をするなんて、と思っちゃうね。(人に資金を貸して、その債権をまた別の人に売ることや、国家との関係、つまり大口の顧客相手の仕事のほうが儲かるため)
◆第5章 世にも奇妙な労働力とマネーの関係 悪魔が潜むふたつの市場
労働力は賃金を下げれば雇い手が見つかる。
マネーは金利を下げれば流通が増える。こう単純にはいかない。
それぞれ悪魔が潜むから。
労働組合が賃下げを訴えれば、経営者は世の中が厳しいことを察知し、より支払いを拒む。
金利を下げれば、世の中は不景気と認識し、起業家は挑戦しなくなる。
そういう自分や他人の振り返り、推し量りがシンプルな行動原理から人を遠ざける。
それが悪魔。それは人間らしさそのもの。
※金利を下げれば流通が増えるなどの経済の原理通りには人は動かない、ということ。選択肢に対して疑い、抗うことは当然。
◆第6章 恐るべき機械の呪い 自動化するほど苦しくなる矛盾
自動化を突き詰めるとある時から市場で売れなくなる。買う人がいなくなるから。
どこかで人間が復権しないと経済は回らない。
その意味で労働者の抵抗には意味がある。
生産工程を完全に自動化するにはその設計や創造を機械ができるようにならないといけない。
これができると考えれば奴隷になるディズトピアになってもおかしくない。
そうではなく機械を全体で共有し、利益を分配させることで価格を安定させることができる。
労働者に利益を渡すことで購買力を維持できるから。
※この自動化を突き詰めると、の議論ってなかなか難しい。単純作業だけであれば機械がやるんだろうけど、単純作業だけじゃないよね、そこは人間でしょって話と経済理論のようにそれを単純化し、全ての業務を自動化してしまうと、買う人がいなくなるじゃんって話と。
◆第7章 誰にも管理されない新しいお金 収容所のタバコとビットコインのファンタジー
持ち運びでき、誰もが欲しがり、保存ができ、分けられるものが通貨になる。
収容所ではタバコがそうだった。それにより経済が生まれた。
だが(タバコ経済で)供給量を司る赤十字は中立であり、そして収容所の中では何も生み出さなかった。
それらが異なる外の世界では供給量を国家と絡み調整することになる。
するとどうしても政治的になる。
誰が(支配者が)どれだけ、どこまで何をするか、が関係してくる。
何をするにも金が必要になるから。
そうしたものに対するのが仮想通貨だが、これは危機を生み出すし(上限があるという点で)
危機に弱い(対策を打つ手段や機関がない)。
お金を民主的にする必要があるがそもそも国家を民主的にしなければならない。
※民主、って言葉難しいね。民主主義国家のはずだが、真に民主的ではない、ということか。
◆第8章 人は地球のウイルスか? 宿主を破壊する市場のシステム
市場社会では富のあるものが支配力を持つ。
51%の株式を持つものが絶対的な権力を持つ構造である。
排出権を取引するのも知恵だがそれは政府の力を借りなければならない。
ここに矛盾がある。
そうした全てを商品に、という主張に対して全てを民主化すべき、というのが著者の主張。
それが地球を守る唯一の手段。
※民主化については別の本で書いているとな。気になる。。
◆エピローグ 進む方向を見つける思考実験
※経済学者に経済を任せるのは危険、だぞ。
◾️アクション
全てを商品化することは正しいのか、
何が正しい選択か、考える。
◾️読みやすさ
★★
◾️ハッシュタグ
◾️まつわるショートストーリー
「自分の専門分野を歴史を交えてわかりやすく話せるってかっこいい」
「うん、そうだね」
「まさにその本がこれ。そして、知識だけじゃないんだ。スタンス、考えを持ち、その普及に勤しむ。」
「普及?こうしろって書いているの。なんかやだな。」
「けど強制はしてない。」
「どういうこと。」
「こう思うんだけど、それは自分の考えだ、と言っている。問題はちゃんとみんながそれを議論できるように知識を身につけなければいけないと。」
「なるほど。」
「本質はそこにあると思うんだ。」
「経済とはこうでしたよ、といいつつそこで終わらない。もちろんそれ(民主化)は主題ではないので多くを語ってはいないけど、そもそもそうした話できるか?って話。」
「難しいからね」
「そう、まさにそれ。それが経済学者側の狙い。任せるな、ということも書いている。」
「自分が経済学者でもあるのに?」
「うん、なんかロックでファンキーでかっこいいんだ、この作者。ギリシャの経済危機でも活躍したくらいの大物なんだけど。」
「すごいね」
「世界にはまだまだすごい人がいっぱいいるらしい」
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