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UTMR(Ultra Tour Monte Rosa)攻略ガイド

はじめに

本記事はUTMR(Ultra Tour Monte Rosa)というスイスのトレイルランニングレースについての情報提供を目的として書いたものです。私は2023年の9月に出場しましたが、規模がそれほど大きくないためかこのレースについてはほとんど情報がなく(日本語はもちろん英語でもあまりない)、事前の調査に苦労しました。

それでも私は運良く以前に出走経験のある方と同行できたため、情報収集という点では恵まれていました。その方から伺ったことと自分の体験にもとづき、記憶が鮮明なうちに今後出走される方の参考になる情報を残しておこうと考えたのが本稿作成のきっかけです。UTMRは素晴らしい景観を楽しめ、ホスピタリティにあふれた本当にいいレースでした。情報がないばかりに見過ごされているのはもったいなく、もっと日本のトレイルランナーにも興味を持ってほしいと思います。また後述するようにこのレースは今後も大きなコース変更がなく継続されそうなので、この記事も内容的に古くならないと思います。

UTMRはいくつかの距離カテゴリーに分かれていますが、本稿ではおもに170 km Ultra Tourに関する情報をまとめます。とにかく実用一辺倒に、なるべく客観的・ガイド的な内容となるよう心がけました。

1 UTMRとは?

レースの概要
UTMRは、スイスとイタリアの国境に位置するアルプス第2の高峰・モンテローザ山脈を舞台に開催されるトレイルランニングレースです。UTMBで5回優勝・24時間走の元世界記録保持者であるLizzy HawkerがRDを努めています。2015年に第1回が開催され、現在はステージレースから100マイル(170km)まで多様なカテゴリーがあります。

もともとTour de Monte Rosaというモンテローザを一周するハイキングコースがあり、そのコースをベースにルートが設定されたようです(Tour de Mont Blancをベースに開催されているUTMBと同じような発想です)。そのため今後も大きなコース変更はないものと思われます。

レースの魅力
天候次第ではありますが、雄大な景色が最大の魅力です。マッターホルンを間近に見ながら氷河を越える経験はなかなか他のレースでは味わえないと思います。

170 km Ultra Tourの場合、UTMBのタイムに比べて同じ人が走ると2割ほど時間がかかるそうです(例えば、UTMBが40時間の方なら170 km Ultra Tourが48時間)。山岳要素の強いコースが好きな方には特にチャレンジしがいのあるレースだと思います。

マッターホルンを見ながらの氷河越え

リザルトと完走率
2023年の優勝タイムがコースレコードとなっています(29時間28分、それまでのコースレコードは2017年の30時間14分)。

以下は2023年のリザルトです。出走者151名中完走者は94名で完走率62%、完走者の平均タイムは46時間30分、中央値は46時間23分でした。
2023年リザルト

2018年には山本健一選手が出走、3位に入賞しています。

カテゴリーと開催時期
スイスの山岳リゾート・ツェルマットの北にあるGrächen(グレヘン)という街がスタート/ゴールとなっています。毎年秋の初めに開催されており、2024年は9月4日から7日に開催、エントリーオープンは2023年10月16日となっています(既にオープンしています)。

2024年のカテゴリーと期日は以下の通りです。

  • 170 km Ultra Tour(スイスとイタリア):170 km、累積標高11,600m(2023年大会の累積標高は大会公式のGPSデータおよびオフィシャルコースマップによると13,000m以上でしたが、他の地図サイトデータや過去に出走された方の情報を総合すると、実際には11,000-12,000m程度と思われます)。9/5午前4時スタート、制限時間60時間、最大出走者数300名、ITRA6ポイント。

  • Stage Race (スイスとイタリア):Ultra Tourと同じコース(170 km・累積標高11,600m)。9/4午前6時半スタート、4日間(Zermatt、Gressoney-la-Trinité、Macugnagaで宿泊)、制限時間48時間、最大出走者数200名、ITRA4ポイント。

  • Mischabel 60 (スイス): 63 km、累積標高4,400m、9/7午前4時スタート、制限時間16時間、最大出走者数150名、ITRA3ポイント。

  • Grächen Berglauf(スイス) : 23 km、累積標高1,400m、9/7午前10時スタート、制限時間8時間。

2 エントリー方法

エントリー手順と参加費
2023-2024年時点では、抽選およびウェイティングリストもありません。エントリーシートにこれまでのレースや山岳経験を記入し申請すると、出走可能かどうかおって知らされるという流れです。170 km Ultra Tourの場合は、100マイルレースの完走経験(累積標高7000m以上)、または全行程を安全に完走できる十分な山岳経験が必要とされており、例として以下のようなレースの完走経験が求められています。

  • Ultra Trail Mont Blanc (UTMB)

  • Hardrock 100

  • Tor des Geants

  • Ronda dels Cims

  • Diagonale des Fous

  • X-Alpine 111 – Trail Verbier St-Bernard

  • Scenic Trail 113

  • Transgrancanaria 128 km

Stage Raceの場合は、山岳地帯を走るマルチステージ・レースの完走経験、または42km以上(累積標高1500m以上)の山岳レース完走経験が必要とされています。

エントリー手順と参加費
エントリーフォームからエントリーします。170 km Ultra Tourの参加費は298ユーロ(2024年)。参加賞のTシャツ代、完走賞(2023年は木彫りのメダルでした)が含まれています。

完走メダルは木製でした

3 移動ガイド

Grächenへのアクセス方法

  • スイスから:ジュネーブ・チューリヒといった空港から鉄道で移動します。St Niklaus VSという鉄道駅が最寄りで、そこからバス(POST BUS、後述)で移動することになります。所要3-4時間程度。

  • イタリアから:イタリア北部の都市から移動することもできます。鉄道で国境を越え、やはりSt Niklaus VSへ。所要5-6時間程度と移動は長めですが、イタリアの方が航空便も多く、滞在コストも若干安く済みます。私は2023年ミラノからGrächenに移動しました。ミラノからGoogleマップなどでGrächenへのルートを検索すると、中央駅からDomodossa行きのバス(Autobus)を指定される場合があります。一方で中央駅周辺には明確なバスステーションの案内がなく、中央駅有人チケット売場のスタッフに聞く必要がありました。2023年はExcelsior Hotel Galliaという中央駅南西にあるホテルの側道がバス乗り場でした(その場所にも一切の案内なし)が、今後変更の可能性もあるため、もしこのバスを利用する場合は有人チケット売場が開いているうちに確認しておくことをお勧めします。

Domodossa行きのバス

公共交通機関利用のポイント
スイス鉄道は料金が高く、一定期間滞在するならばスイストラベルパスなどの利用も検討していいでしょう。ただしパス自体もそれなりに高いので、費用対効果は要検討です。

St Niklaus VSからのバスは黄色いPOST BUSと呼ばれるもので、乗車前に運転手に料金を払います。しかし私はそのルールがわからず、結局払いませんでした。他の参加者も払っていなかったように思います(もちろん運賃未払は罰金が科せられるので、自己責任でお願いします)。

POST BUS

SBB Mobileというアプリで鉄道やバスのチケット購入ができるはずなのですが、私の場合は初期登録に失敗し、使えませんでした。住所を一覧から選ぶのですが、日本の住所が一覧と合致せず(当然)、エラーではねられうまくいかなかったので利用していません。

シャトルサービスについて
大会が空港からの直行バスをあっせんしているようです。2023年はレース翌日にGrächenからジュネーブ空港まで行くシャトルバスがありましたが、レース前にGrächen入りするバスはありませんでした(リクエストが多ければチャーターするとのことでした)。

4 現地滞在情報

ホテル/宿/商店
Grächen自体は小さな山岳リゾート地で、スーパーが3軒(COOPが1軒とミニスーパー2軒)、レストランやバーが数軒という規模です。ホテルも多くありません。COOPそのものは割と大きなスーパーで、自炊に必要な食品などは不自由なく揃います。ただしお昼休みがあり、夕方には閉めてしまうなど営業時間は長くありません。またGrächenに限りませんが、スイスでは日曜日に店舗やレストランが開いていないことが多いので注意が必要です。

私は同行した方に現地のサービス・アパートメントを予約してもらいました(恐らく9月はウインタースポーツのオフシーズンで、結構空きがあると思います)。アパートメント自体はBookingどっとcomやAirbnbなどで検索できます。

のどかな街Grächen
  • 現地の気候
    2023年の場合、昼間は25度から30度程度。日射しが強く、太陽が出ている時はかなり暑く感じます。日焼け対策も必要でした。現地の9月初旬頃の日の出は7時頃、日没は20時頃です。日没後は急激に気温が下がり、標高1500m地点では10度未満です。

※主要スポットの天気予報

通貨や電気の規格情報
通貨は基本スイスフランですが、ユーロも問題なく使えます。電圧は230V/50 Hz、コンセント形状はCタイプ(丸2ピン)です。現地の空港で変換アダプターも購入できますが日本よりも高めです。

5 コースの概要

全体像
170 km Ultra Tourの高低図は以下の通りです。最高標高は3,324mに達し(Teodul)、コースのほとんどは標高2,000m以上です。標高2,500mを越えるエリアは夜間0度近くになり、昼間は日射しが厳しく、寒暖差の大きい環境です。高所や夜間での降雨・降雪の可能性もあり、保温対策が必要です。


コース高低図

エイドは全部で14箇所、うちドロップバッグが3箇所(Zermatt、Gressoney、Macugnaga)です。2023年の各エイド間距離や累積、トップ選手の通過予想タイムなどは以下の通りです。

事務局公表資料をもとに筆者作成

エイドの内容については以下のようになっています。

  • Liquids:water, coca-cola, tea

  • Light:Liquids + bar or cake

  • Medium:light + bouillon, cheese, salami, bread, crackers, fruit, chocolate, cake

  • Big:medium + isotonic drink※ + hot food (minestrone or pasta etc)

  • ※isotonic drinkはブランド不明ですが、現地で「アイソ」と発音されています。「アイソいる?」と聞かれて最初なんのことかわかりませんでしたが、いわゆる電解質ドリンクです。提供されていたものはポカリスエットよりも甘み控えめ・酸味強めでした。

実際にはLiquidsのエイドにもスナックやパワーバー(オーガニック)などが置いてありました。またイタリア側のエイドではリクエストに応じて淹れ立てのコーヒーが提供されていました。コーラは全てのエイドにあったと思います。


コースを上から見ると以下のようになっています。ティアドロップ型のコースは北部がスイス、南部がイタリアに属し、国境付近にモンテローザがあります。ツェルマットが近づくとマッターホルンが見えてきます。

2023年は、トップ選手ゴール予想が27時間13分、最終選手が58時間07分の想定となっています(上掲通り実際の2023年優勝タイムは29時間28分でしたし、そもそも2022年までのコースレコードが30時間以上でしたので、トップについては相当に速い設定でした)。

最初のドロップバッグであるツェルマット(3:Zermatt)の関門はスタート7時間後、最終選手は足きりにあうと想定されています。まずはこの関門を越えることが目標となります。

ルート的には、最初のエイド(Europahütte)まで2000mアップ、その他にもTrockenerstegとTeodulの合計で1850mアップ(Trockenerstegは氷河が始まる地点、Teodulは氷河の終了地点で、実際には登りルートがつながっている印象です)、Passo Salati、Quarazza、Monte Moro、Hannigalpとそれぞれ1500mアップが4箇所あります。

トレイル率は高く、エイドの設置された街中を進む以外はほぼトレイル(林道含む)だったように記憶しています。ITRAのサイトでは85%がトレイルという表記でした。路面は岩がちで固く、ガレ場の急坂やトラバースもあります。TrockenerstegとTeodulの間は氷河の登りとなっており、徒渉(または湧き水で不意に足が濡れる箇所)も数カ所あります。

エイド間が非常に長い箇所もあり、たとえば最も遅い選手の第一エイドEuropahütte到着予想はスタートから約5時間半後、最後半のSaas FeeからHannigalpの間は最も遅い選手で7時間、トップ選手でも3時間半以上となっています。補給および給水も切らさないよう、計画が必要です。しかしながら後述するように沢水は豊富で、浄水器を1本携帯していれば給水に困ることはないでしょう。

マーキングは非常にしっかりしており、ほぼ迷うことはありません。私は1箇所だけロストしました(後述、TeodulからRifugio Ferraroへの下り)。

全般には、高所適応、長い登りへの対応、テクニカルな下りへの対応が攻略のカギとなります。さらに補給計画と天候変化への配慮も求められます。

区間ごとの概要
Grächen→Europahütte
区間距離17.7km(上昇2,018m・下降1,377m)
予想タイム:トップ選手2:48/最終選手5:36/46時間ゴールの場合(完走者平均タイム)4:30

午前4時にスタートし、市街地を抜けてトレイルへ向かいます。スタートから17kmで2000mアップと長丁場で、モンテローザへと繋がる巨大な山塊の山腹をトラバースしていくようなルートです(最初のエイドまで遅い選手なら5時間以上かかる設定になっています)。大きな上り下りはありませんが、短くシャープな急登が多かった印象です。少なくともスタートから2時間くらいは周囲も暗く、あまりトレイルの様子は記憶していません。

道は細く、前の選手を抜くのに苦労します。外国人選手に多いのが、登りは速いのに下りがかなり慎重というパターンです。そのため少人数のレースにもかかわらず、下りで若干の渋滞気味になる場面もありました(参加人数は少ないため、たいした詰まりではありません)。

多くの選手は、明るくなった頃に最初のエイドEuropahütteに到着します。ここまで速い選手でも2時間以上はかかりますが、沢水を補給すれば水切れの心配はありません。

Europahütte→Täschalp
区間距離9km(上昇665m・下降705m)
予想タイム:トップ選手1:11/最終選手2:22/46時間ゴール1:54

Europahütteは標高2200mに位置する小さな山小屋で、この段階ではどの選手もまだまだ余裕がありました。屋外の小さなテーブルに水やコーラ、スナックが置いてあります。エイドを出てしばらく進むと、全長494mの世界で3番目に長い歩行者専用吊橋(2023年時点)、チャールズ・クオーネン橋を渡ります。床が格子状ではるか下の川が透けて見え、吊橋なので結構揺れます。高いところが苦手な人は下を見ない方がいいでしょう。

吊橋以外にも岩を削ったトンネルがあったり、滝があったりとバラエティに富んだ区間だった記憶があります。

Täschalp→Zermatt(1st Dropbag)
区間距離10km(上昇337m・下降954m)
予想タイム:トップ選手0:54/最終選手2:07/46時間ゴール1:38

下り基調でそれほど難所はありません。しばらくするとツェルマットの街が見えてきますが、見えてからの下りが結構長いです。

ツェルマットには大きなエイドブースがあり(2023年はスポーツショップ・チェーンDecathronの裏に設置してありました)、最初のドロップバッグポイントとなっています。スープやスナックなど補給物資も豊富です。このドロップバッグからは忘れずに必携品のアイゼン(Microspikes)を取り出す必要があります(後述しますが、もちろんスタートから携行しても構いません)。

この関門が最も厳しく、スタートから37km・3000mを9時間以内(スタート当日の13:00)に突破しなければなりません。一方ここを越えれば残りの関門はだいぶ余裕があります。

Zermatt→Trockenersteg
区間距離9.5km(上昇1,391m・下降60m)
予想タイム:トップ選手1:43/最終選手3:25/46時間ゴール2:45

約10kmで1400mアップとひたすら登りが続くルートです。Trockenerstegの標高は2900mほどあり、2500mを越えるとペースを保つのが難しくなってきます。

Trockenersteg→Teodul
区間距離4km(上昇456m・下降71m)
予想タイム:トップ選手0:38/最終選手1:17/46時間ゴール1:01

短い区間ですが、氷河を越える印象的なルートです。コース最高標高・約3300mのTeodulに向かいます。晴れていれば水が溶けてはリアルタイムに凍っていく様を見ることができます。4km450mアップですが、斜度はそれほどキツく感じません。

2023年は昼間の時間、半袖短パンで通過できました。仮に悪天候であった場合には厳しい区間になると思われます。

Teodul→Rifugio Ferraro
区間距離16.9km(上昇420m・下降1,661m)
トップ選手1:41/最終選手3:22/46時間ゴール2:42

Teodulのエイドはスイス・イタリア国境となっています。食料も豊富でした。この先は下り基調ですが後述の通り水切れの危険性もあり、十分な補給をお勧めします。

先ほどの氷河から一転して土埃の立つ荒涼としたエリアに変わります。下り基調でつい飛ばしてしまいがちなため、ロストには要注意です(私はここで20分ほどロストしました)。

一帯は石灰の採掘場のようで、これまであてにしていた沢水が強アルカリなのではという疑念が生じ飲むことができませんでした。晴れた場合には標高2500mにおよぶ高所だけに直射日光が強く、遮るもののないトレイルを進むことになるため水切れに注意が必要です。区間の後半は緑が豊かで下り基調の、走りやすいトレイルになります。

Rifugio Ferraro→Gressoney(2nd Dropbag)
区間距離12.4km(上昇788m・下降1,240m)
トップ選手1:42/最終選手3:44/46時間ゴール2:56

前半は800m弱を登り、後半は1,200mを一気に下ります。Gressoneyはドロップバッグがありますが、2023年は151名中12名がリタイヤと、最も離脱率の高いポイントでした。ボリュームゾーンはこの区間から夜になります。夜で景色はあまり覚えていませんが、街中をぐるぐる巡らされる変なコースレイアウトでした。

Gressoney→Passo Salati
区間距離9.5km(上昇1448m・下降156m)
トップ選手2:06/最終選手4:12/46時間ゴール3:22

標高2,980mのPasso Salati峠を目指してひたすら登ります。ボリュームゾーンは夜の通過になりますので(私が通過したのも夜で、かつ濃い霧が出ていました)、あまり覚えていません。Passo Salatiのエイドでは淹れ立てのコーヒーを出してくれた記憶があります。

Passo Salati→Rifugio Pastore
区間距離14.9km(上昇700m・下降2048m)
トップ選手2:02/最終選手4:05/46時間ゴール3:16

Passo Salatiから一気に2,000mを下ります。山頂直下はテクニカル、標高が下がると緑にゴロゴロした岩が混ざり始めます。ボリュームゾーンはこの区間も暗いうちの通過となり、足元に注意が必要です。下りが終わると700mの登りが待っています。

早朝スタートのため実質二晩目の朝となり、ここまで距離100km、累積8000mに達します。151名中10名がRifugio Pastoreでリタイヤするなど、Gressoneyに次いで離脱率の高いポイントでした。

Rifugio Pastore→Quarazza
区間距離16.5km(上昇1548m・下降1,733m)
トップ選手2:53/最終選手5:45/46時間ゴール4:37

前半に1,500m登って標高2738mのトゥルロ峠(Colle Turlo)を越え、後半は1,700mを下るという難所です。前半の登りはひたすら長いつづら折りのルートです。峠にはチベットのタルチョがはためいています。下りは石が敷きつめられており、20世紀初頭につくられた軍用道路跡とのことです。固い路面で足には優しくありません。

当時とコースが異なる可能性がありますが、山本健一選手がビデオで3時間か4時間に渡って登り続けたと言っていたのはこの区間と思われます。

Quarazza→Macugnaga(3rd Dropbag)
区間距離5.7km(上昇169m・下降251m)
トップ選手0:53/最終選手1:45/46時間ゴール1:24

Quarazzaのウォーターエイドを抜けて最後のドロップバッグMacugnagaに向かう短い区間です。

Macugnaga→Monte Moro
区間距離6.3km(上昇1,454m・下降-24m)
トップ選手2:13/最終選手5:56/46時間ゴール4:28

Monte Moroまでの登りは、6kmで1,500mアップという本コース最強の急登です。前半は一般的な緩い傾斜ですが、標高が高くなるにつれて岩がちになり、最後半は登山道を無視して天に向かうような直登ルートがマーキングされていました(私とパックになって進んでいた選手はマーキングを見て「F**k!」を連発)。標高の高さもあいまって厳しい登りですが、山頂のエイドはホスピタリティにあふれています。Monte Moroはイタリア・スイス国境になっており、これ以降は再びスイスに入ります。

Monte Moro→Saas Fee
区間距離16.5km(上昇285m・下降1,275m)
トップ選手2:21/最終選手6:15/46時間ゴール4:43

ガレ場の前半、湖畔沿いの中盤、林道の後半と3つのパートに分かれており、変化に富んでいる分長く感じられる区間です。

まずは前半、Monte Moroのエイドを出て少し登ると山頂に黄金の像が設置されており、そこからはガレ場の下りに転じます。テクニカルな下りでハイカーも多く、あまりスピードが上げられませんでした。

山頂の黄金像(エイドからここまでの登りもまあまあキツい…)
崖のような下り

徐々にガレ場は緑の多い緩やかな下りとなり、ターコイズブルーのダム湖が見えてきます。湖畔沿いを走りますが遮るものがなく、好天の場合は水の消費に注意が必要です。

ターコイズブルーのThe Mattmark dam

後半はいったん街に出て、林道や舗装路を上って次のエイドSaas Feeに達します。Saas Feeは有名なウインターリゾートの観光地、家並みが見えたらすぐにエイドと思っていると意外とそこからも長くかかります。

Saas Fee→Hannigalp
区間距離17km(上昇1516m・下降1,188m)
トップ選手3:37/最終選手7:15/46時間ゴール5:49

ここまでおよそ150km走ってきたところに1,500mアップ・1,200mダウンを強いられる最後の難所です。どちらかというと細かいアップダウンが多いのですが、そもそも標高も高くごろごろした岩場のトラバースが続くなどサーフェスもラフで山岳要素が強い区間です。そのため所要時間も長めに設定されています。

ヒツジに進路をふさがれる

Hannigalp→Grächen
区間距離3.8km(上昇35m・下降535m)
トップ選手0:31/最終選手1:01/42時間ゴール選手0:49

長い旅が終わり、再びスタートのGrächenに戻ります。わずか4km弱でほぼ下り一辺倒、難しい箇所はありません。(夜なら)街の灯りが見えたらもうゴールです。

6 スケジュール

レース前日(受付)
2023年はレース前日の15:00-19:00が受付時間でした。必携品のチェックが行われ、チェックをパスすると、ビブとドロップバッグ(3個)、参加賞(Tシャツ)の受け取りとなります。ドロップバッグは1個を順番に輸送するパターンではなく、3個それぞれになります。ドロップバッグの色によって受取場所が決まっていますので、色=場所の対応表を写真に撮るなどして間違えないようにしましょう。

また小型のGPSトラッカーを配付されます。その場でザックに強めのテープで貼り付けられてしまい、ゴールまで取り外すことができません。

必携品チェック。参加者も少ないため混み合いません

レーススタート日
ドロップバッグやゴール後に受けとる荷物を預けます。人数も少ないためそれほど混み合いませんが、前述通り第1エイドまではまあまあ追い越しにくいので、目標タイムが早い方は先に並ぶといいでしょう。午前4時スタートです。

レース終了日と翌日
2023年は制限時間60時間でしたので、翌々日の午後4時が終了時間となります。

レース最終日の翌日にはバンケットが催されます。ミールチケットは事前にオンラインで購入しておく必要があります。オンラインではパスタやライスなどメニューを選択するようになっていましたが、実際にはライス系一種類のみでした。現地でピザなども売っており、そちらの方がコスパも味もよいと感じました。

7 必携・推奨装備

必携品は国内の一般的な100マイルレースとそれほど変わりありませんが、注意が必要なのは以下のアイテムです。

Fully functional head torch(s) with replacement batteries
一般的な100マイルレース同様に、ヘッドライト2個&それぞれの予備バッテリーが必携品です。上の記述から1個でいいかと思いましたが、実際には2個チェックされました。

Bottles or bladders with capacity to carry 1 litre
よほど速いランナーを除き、1リットルでは足りないと思われます。カタダインなどの携帯浄水器を携行することをお勧めします。日本の山と異なり高所の稜線でも沢や湧き水は豊富にあり、浄水器があればまず水切れの心配はありません。ただし標高の高い場所にも結構ウシやヒツジなどの家畜がいるため、そのまま飲用することは控えた方がいいと思います。

水場はとにかく豊富

Emergency bivvy bag
エマージェンシーシートではなく、寝袋型のビビィが必携品です。エントリー時に申し込んでおけば現地での購入も可能です。

Elastic bandage / strapping
最小サイズ100cm*6cmの自己粘着タイプ伸縮包帯です。6cm幅のものは薬局や100円ショップに売っています。

Microspikes (STAGE RACE and 170 km ULTRA TOUR only)
軽アイゼンやスノースパイクは必携品です。実際にはスタート時に持つ必要はなく、氷河区間だけ携行します。具体的には第1のドロップバッグ(Zermatte)に入れておき、Trockenerstegを越えた氷河区間で装着、第2ドロップバッグ(Gressoney)のドロップバッグに返却すればOKです。エントリー時に申し込んでおけば現地での購入も可能です。

Sheet sleeping bag (170km ULTRA TOUR only)
いくつか休憩(就寝)できるエイドがあります(上掲一覧表で「休憩場所-有」の箇所)。その際にはインナーシーツが必要です。

ここが重要ですが、「レース会場(Grächen)には何も売っていません!」。いわゆるエキスポブースのようなものもなく、スポーツショップやブランドの出展もありませんので、必携品を忘れてきた場合には大きな街で調達の必要があります。
※一応Grächenにもスポーツショップらしきものはありますが、小規模で必携品がそろうかどうかは怪しいところです。Grächenから比較的近い場所にあり必携品が揃いそうなのはZermatteにあるデカスロンです。

また悪天候の可能性も高く、過去にはコース短縮になったこともあるようです。UTMBでいうところのCold Weathe Kitにあたる防寒装備やギアの故障にそなえた予備など、上掲の天気予報もご参考いただき十分な備えをお勧めします。

おわりに

現地への移動も含め簡単なレースではないと思いますが、一方で制限時間そのものは長く、最初の関門さえクリアすれば、以降は多少のトラブルがあっても立て直せる可能性はあります。天候さえよければ完走率も高いと思われます。冒頭の繰り返しになりますが本当にいいレースですので、本記事が出走を検討される方の参考となれば幸いです。

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