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「ケモナー学会」 in OFFF2024を振り返る|聴講ノート#3

〖2024年6月17日更新〗

Osaka Furry Fun Festa(OFFF)は、年に1回大阪で開催される「ケモノ好きのためのコンベンション」です。第1回は2019年9月、ホテルフクラシア大阪ベイを会場として開催されました。その後、COVID-19パンデミック期に入り、同大会も休止を余儀なくされましたが、2023年7月に同会場で2回目(OFFF2023)を開催。今回(OFFF2024)で3回目の開催となりました。

会場を大阪南港ATCホールに移し、2日間(2024年5月18日(土)〜19日(日))の会期で開催されたOFFF2024は、総参加者数が1,631名を数えたとのこと。OFFF2024の2日目(19日)には、同会場にて第9回となる関西けもケット(関西けもケット9)もおよそ4年振り(前回開催は2019年9月)に開催され、大いに賑わいました。

標題の「ケモナー学会」は、OFFF2024の2日目に実施された企画の一つです。実施のねらいについて、OFFF公式ウェブサイトの当該ページに説明がありますので、引用します。

『ケモノが好きであること,ケモノが好きでいられること』
ケモノ文化と呼べる領域の規模は,年々大きくなってきています。
そんな中,我々『ケモノ好き(Furry)』と社会との関係も変化し続けています。
過去から現在までを振り返り,そして未来のケモノ好きの在り方を考えてみませんか?
はじめて好きになったケモノキャラクターの調査,そしてコンベンション文化の変遷の発表を元に,我々をとりまく社会との関係性について省察していきます。

「ケモナー学会」、OFFF公式ウェブサイトより引用(2024年5月22日閲覧)

以下、筆者(豅)による個人的な(=非公式)聴講ノートです。内容に誤りなどありましたらご指摘いただけますと幸いです。

【演題】
〇びわびわ|ケモノたちはどう生きるか?──最初に好きになったキャラクターの調査から
〇まんぐ|「好き」とどう付き合うか──イベントの様相から考える

(敬称略)

びわびわ|ケモノたちはどう生きるか?──最初に好きになったキャラクターの調査から

発表の概要

発表の詳細は、びわびわさんご本人がTwitter(X)で公開していますので、ぜひご参照ください。

調査の動機

こんにち、OFFFのようなケモノコンベンションを開催(ホスト)できるようになったのには、日本におけるケモノ界隈(ファンダム)の(規模の)拡大が礎となっている。界隈の拡大は、言い換えればユーザー(ファンダムで何らかの活動を営む者、消費活動を含む)数の増大である。

発表者は、ケモノコミュニティーの構造——界隈へとアトラクトし、ユーザー(ケモノ好き)化するプロセス——について、従前では「(一般の)企業・営利団体が制作・発信したコンテンツでケモノ好きになる」だったものが、いまは「ケモノ好きが制作・発信したコンテンツでケモノ好きになる」という段階に来ているのではないか、と感じていた。

  • 従前|企業・営利団体→コンテンツ→ユーザー

  • 現在|クリエイター・ユーザー→コンテンツ→クリエイター・ユーザー

この感覚が現実に即しているかどうか、調査した。

調査の方法

(2024年)4月10日~5月6日の期間に、調査紙(アンケート)による調査をオンライン(Googleフォーム)で実施した。調査紙はフェイスシート作成用の質問(3問)と本調査用の質問(4問)で構成した。

本調査用の質問は下記のとおり。

  • ①はじめて好きになったケモノ/ケモノキャラクターは何か(そのケモノ/ケモノキャラクターが登場する作品があればそれも記入)

  • ②そのケモノ/ケモノキャラクター(が登場する作品)は一次創作(※)か、それとも(ファンメイド)二次創作か
    ※ここでは公式(版権元の企業・営利団体の制作物)もファンメイド一次創作も含んでいる。

  • ③そのケモノ/ケモノキャラクターを好きになるきっかけとなった媒体(※)は何か
    ※発表者の例示をそのまま挙げると、コミック、アニメ、イラスト、きぐるみ、YouTube、動画など。

  • ④そのケモノ/ケモノキャラクターを好きになったのはいつごろだったか(おおよそを西暦で回答)

以下、①の質問~④の質問と略記する。

調査の結果・考察

362名が回答した。【回答者の年齢層は20〜30代を中心として、40代から急激に少なくなる傾向。回答者の性自認は8割以上が男性】で、前回の調査(※)と同様の傾向が見られたとのこと。

※前回の調査について、詳しくはびわびわ(2023)「日本におけるファーリーのシチュエーションの選好について」、『Philosofur』[4]、Philosofur編集部を参照してください——筆者(豅)がこう書いてしまうと宣伝のほかでも何でもなくなってしまうのですが、そこはご放免願います……!

以下、筆者(豅)が関心を持ったことを箇条書きで列挙する。

  • ①の質問で、「ケモノが好きになったきっかけ」ベスト25に、犬工房(着ぐるみの製作工房)とプロダクション体育館(きぐるみ芸能事務所風サークル)の名が挙がるところとなった。

  • ②の質問の回答の結果を3カテゴリー——⑴公式、⑵ファンメイド二次創作、⑶ファンメイド一次創作——に分類したうえで、③の質問の回答の結果と照らし合わせたところ、この約20年間で⑴→⑵→⑶への推移がたしかに見られることが判った。

    • びわびわ氏はこの推移のデータをもとに、ケモノコミュニティーの構造の変化について4つの年代区分(過程)を設定した。

      • 黎明期(〜2000前後[〜2003(※)])
        商業ベースの作品からケモノを見つけて好きになる

      • 創成期(2000~2010前後[2004〜2011(※)])
        インターネットの普及に従ってケモノコンテンツが浸透(見つけやすさが向上)、二次創作も徐々に増加

      • 発展期(2011~2020[2011〜2019(※)])
        公式コンテンツとファンメイド二次創作コンテンツが拮抗。ソーシャルメディアの普及に従ってケモノコンテンツとの接点が増加
        ※スライドによって年表記が異なっている。角かっこの表記は結果3の図を参照した。

      • 新世期(2020〜)
        ファンメイド一次創作が急増し、ファンメイド二次創作を逆転。YouTube、VRChatなど従前の同人文化以外の経路の登場でケモノコンテンツとの接点がさらに増加し、多様化

まとめ・課題の提起

調査の結果、ケモノ好きになるきっかけを与えうるコンテンツ供給者の主流が、公式→ファンメイド二次創作→ファンメイド一次創作へと徐々に移り変わっている様子を見て取れた。

ケモノ界隈は、ファンメイド二次創作までは、(アンダーグラウンドな側面を持つ〝いわゆる〟)同人文化に即して、セクシャルな部分を内包するコミュニティーだったと言えるかもしれないが、「界隈の人が界隈の人を増やす」いまの時代、成人コンテンツに触れずにケモノ好きになることができるほど、界隈やケモノコンテンツの界隈外への認知度の高まりや、それに伴う界隈の構成員の若年化の様子が見て取れる。

こうした状況の中で、(一般)社会と界隈との軋轢の増大も予期され、こうした衝突を防ぐ健全で無害なコミュニティーを模索する向きもある。アングラに戻りたい人もいれば、社会と折り合いをつけたい人もいる——ケモノ(好き)たちはどう(どんな態度で)生きるか?

質疑応答

フェイスシートの【回答者の年齢層は20〜30代を中心として、40代から急激に少なくなる傾向。回答者の性自認は8割以上が男性】について、同様の研究が海外にあったのか?

Furscience(International Anthropomorphic Research Project)による研究がよく知られている。なお、ファーリーファンダムの構成員について、欧米では10〜20代が中心であることが判っている。

筆者(豅)の感想

この発表を聴講してまず想起したのは、(ワークショップイベントの)Furry研究会の第4回(2016年10月1日)で実施されたワークショップだった。参加者(16名)が、「ケモノに関係し(てい)そうな作品」を思い付く限り書き出し(ブレインストーミング)、下記の情報を付記したうえで年表として整理(KJ法の変形)して、できあがったものについて感想をシェアする場だった。

  • 作品に触れた年齢

  • 自分の今の年齢

  • (作品の)ジャンル

  • 作品の初出年

このワークの目的は、もちろん「ケモノ作品の年表を作る」意図もあるにはあったが、ワークショップイベントなのでむしろ作ったあとの会話が重要だった。すなわち、

  • ポピュラーな(ケモノ好きが共通して好きだった)ものがあるかもしれない。

  • 私たちは作品の「旬」(たとえば再放送やリメイクが発表されたタイミング)に影響を受けやすいはずだ。

  • 好きさ度合いや影響された度合い(つまり年代のズレ)が見えてくるかもしれない。

ここに結果——年表写真ブレスト年表——がある。びわびわ氏の調査のような正確さはないので、至らない点については目をつむっていただきたい……が、いずれにせよ、何歳のときにどんなコンテンツに触れていたのかは、文化史を遡るうえでも多くを語りうる鍵だと考えている。

まんぐ|「好き」とどう付き合うか──イベントの様相から考える

発表の概要

問題の提起

(今回の「ケモナー学会」のテーマとなっている)「ケモノたちはどう生きるか」という問いを考えるにあたり、まずこの「ケモノたち」を「ケモナー」と仮定したい。ケモナーとは、(オンライン辞典をおしなべて見れば)「ケモノが好きな人」と説明されうる。これは共通理解としてよさそうだが、それでは「好き(愛好)」はどう説明(判断)しうるか?

好きについて、「活動している」ことに着目するなら、下記が例示できる

  • キャラクターやグッズなどを消費する
    ※消費するだけ(ROM専)でも関与はしていると考えられる。

  • 創作活動、表現活動を行う

  • コミュニティー(集まり)に同席する(イベント、SNSなど)

——が、これらの傾向はそれほど典型的なものではない。これらは「好き」の本質なのだろうか?

一方で、ケモナーという呼称そのものに対して、一部ではもやもやが持たれていることも無視できない。仮に言い分ける(≒「ケモナー」と「ケモノ」とで違いがあるとする)とき、「性に結びつくか否か」は「好き」の本質なのだろうか? それとは逆に、性に結びつく部分を完全に削ぎ落とすことはできるのか、そしてそれが適切なのだろうか?

参考:Ash Coyote(2020)『The Fandom』

イベントの様相

  • 1990年代のアメリカ

    • 豊島ゆーさく(1995)『BREEDER』ツカサコミックス
      ※成人向けのマンガです。

      • 「動物趣味」と呼称

      • ConFurence参加レポートあり

        • セックスポジティブで、かなり自由奔放だった
          (たとえば「奴隷オークション」、お金はチャリティーに)

  • 2000年前後のアメリカ

    • マスメディアによる変態さを強調したファーリー紹介

      • 偏見へのカウンターとして、メディア対応の重要性が強調される

ファーリーファンダムとメディアの関わり合い方について、Uncle Kage氏(Anthrocon代表)が2013年に行った講演のvlog(Uncle Kage’s Furries and the Media)がある。

  • 2020年前後のアメリカ

    • Anthroconなどはかなりクリーンな印象に

    • そのほかではかなり奔放なところもある(炎上がないわけではない)

  • 日本では

    • ケモノイベントには同人誌即売会の軸あり

      • 同人誌即売会は、欧米には珍しい
        but 自主規制という形で苦心しながら社会とバランスを取ってきた

        • 表現の可能性を残すために不断の努力をしてきた

    • ケモノコンベンションでも規約で定められている

      • OFFF2024では参加証確認で頒布可、JMoF 2024では頒布不可

  • アフターコロナについて

    • 全世界的にファーリーの人口が増えている

      • イベントの内容が多様化

        • 参加者を成人に限定するイベントが出現

    • 東アジア圏でこれまでにない動きあり

      • もふもふ系以外のファッション(ゼンタイなど)

        • タイではFORFANなどがコンベンション後援に

まとめ

イベントにはそのイベントとしての思想(ポリシー)があるので、決して断じることはできないが、界隈(ファンダム)全体の思想は一人ひとりの思想の集合であることに疑いの余地はないだろう。

  • アングラであってほしい vs 日の目を浴びてほしい

  • 好きをとことん表現したい vs 社会と折り合いをつけたい

本来は二元論ではないはず、ましてや善悪だけで語れないはずだが、難しい議題である。

質疑応答

(感想)
なぜケモノが好きなのか、その「好き」はケモノじゃないといけないのか、自分の中にある「ケモノ」を考え直す必要があるのではないか。

筆者(豅)の感想

まんぐ氏のまとめにあるように、筆者(豅)にとっても(真面目に考えようとすればするほど)難しい議題だと感じている。

犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズー」に密着取材した『聖なるズー』(2019)を著した濱野ちひろ(濱野千尋)氏による論文「“ズー”になる——ドイツにおける動物性愛者たちによるセクシュアリティの選択」(、『コンタクト・ゾーン』[11]京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野)に目を通してみると、4つ挙げられている事例のうち2つに「ファリー」、「ファリー・ファンダム」の話が出てくる。

ヒヤッとした方もいらっしゃるかもしれない。《「ファーリー」と「ズーフィリア(動物性愛者)」は似て非なるものである》という言説は、筆者(豅)もよく仲間うちから耳にした。この言説は、ケモノ好き(ファーリー)の社会的な地位を保護するよう機能することを期待しているものと推察される。しかし、グローバルなレベルで物事を見たとき、両者が漸近する地点はたしかに存在するようだ。

ここで「ズー」を紹介したのは、「好き」を定義するのは難しいという感覚を補強するためである。少なくとも、日常的な実践の積み重ねの結果、ようやく当人の脳裡に輪郭線が描かれるようなもののように、いまは感じている。

もうひとつ、筆者(豅)が頭を悩ませていることがある。ファーリーファンダムの本質が「性に結びつくものではない」としたとき、代わりによく強調されるのが「創造性(クリエイティビティー)」だと見受けられる。とくにアメリカを中心として、各人が創造性を発揮することを慫慂(しょうよう)し、ファーリーアートに囲まれたライフスタイルを積極的に肯定しようとする向きがあるように感じている。

参考:Anthrocon「What is “Furry”?」(2024年6月17日閲覧)

しかし、これも「表現の自由はどこまで許されるのか」という難題を孕んでいる。そもそも、表現ないしアートには本質的に、見たもの聞いたもの、感じたものを多少なりとも傷つける可能性——〝暴力性〟(※)を持っている(だからこそ、私たちは印象(impression)——〝心に不可逆的な傷〟——を受ける)。この〝暴力性〟は誰が説明する(している)のか、そして誰の責任になる(なっている)のか?
※本義とは異なる用い方をしているため、ダブルミニュートで括った。

あるいは、ただ好きなだけ——創造性を発揮しない者はファーリー(ケモノ好き)ではないとでも……?

謝辞

「ケモノたちはどう生きるか」——この難しいテーマに正面から取り組んで、これだけまとまった発表となったことに、ただただ感嘆しております。何度も人前で発表をされた経験がおありで、スライドのまとめ方や説明の時間配分などといった諸技術をすでに身につけている、びわびわさん、まんぐさんのお二方の手腕によるものと感じました。

当記事でなんとかまとめようと尽力しましたが、筆者(私)の力量ではうまく本意が引き出せていない箇所もあったかもしれません。繰り返しになりますが、内容に誤りなどございましたら、ご指摘をいただけますと幸いです。とにもかくにも、貴重なお話をしてくださり、誠にありがとうございました。

最後に、このような場を創出してくださいましたOFFF実行委員会のみなさん、ATCホールのみなさんに、改めて深甚なる御礼を申し上げます。

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