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奇妙な銃 #春ピリカ応募

「お元気で……」
「いってまいります」
 太平洋戦争末期に、学生の俺に召集令状が来る。五輪のライフル射撃の選手に選ばれたこともある、腕が見込まれた。幼なじみの里江に敬礼をする。彼女は少しだけ笑って、少しだけ悲しそうに見えた。

「四九式改狙撃銃だ」
 歩兵銃を改造した狙撃銃は、精度の高い物を選び専用の器具を取り付けて完成させる。その銃は奇妙なほど大きな光学照準器が付いていた。

「お前達はこれを使い、仲間を助けてくれ」
 密林に狙撃用の弾丸を持たされて俺たちは残された。敗戦は誰もが感じている、肌感覚で負けるのは判る、弾薬も人員も居ない。だから転進する。ここで捨て駒になり、敵を食い止めろと命令された。

「これは……M1カービンと同じか?」
 新型の狙撃銃は従来の口径と異なっていた6.5mmではなく、7.62mmだ。でかい口径はそれだけ殺傷力が上がる。ただし発射炎も大きくなり、狙撃した場所も見つかりやすい。五名の狙撃兵は弾を分け合い米兵を狙撃し続けた。すぐに弾切れになるが、敵の銃から弾を調達できる。移動しながら敵の弾と食料を奪いながら密林を駆け抜ける。

「指が痛い」
 引き金を引きすぎて指が痛みだした、精密な射撃が徐々に出来ない。敵を倒し損ねると集中的に撃ち返される、一人また一人と仲間が死んでいく、俺は歯を食いしばり撃ち続けた。だがもう限界だ、指が真っ赤に膨れあがる。

 俺は銃剣を取り出すと腫れた指先を切り落とす。そして引き金に指を入れる、血まみれの指先から血が滲むが気にならない、俺は光学照準器で敵を探す。

 俺は最後まで頑張れたと思う、敵兵に半死半生で捕虜にされた時は殺される覚悟だった、狙撃兵は憎まれる、真っ先に殺される。

「神業デスネ」

 俺は特殊な銃と数百人を殺した事で特別視された。生き残る事ができる。少しばかりの尋問と、快適とも思える拘留が終わると終戦後に、俺は日本に戻された。多分、四九式改狙撃銃の情報と引き換えに罪が免除されたと思う。

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「お帰りなさい」
 里江は待っていてくれた、結婚して子供を産み育てる。一番楽しい人生を過ごせた。子供は孫を作り、俺は隠居した。たまに孫が遊びに来る。俺の手を見て不思議なのか、無骨な手をいつまでも触る。

「おじいちゃんの指はちょっと短いね」
「ああ、仲間を助けるために短いんだよ……」


《959文字》


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