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SS 猫探偵01

※四コマとは別設定です。
子供の頃はテレビの探偵物が好きで見ていた。さえない中年が事件を解決する。アクション、恋模様、社会へのメッセージ。その多彩さは飽きない。

「旦那、あっしは帰りますぜ、子供が待ってるんで」

ネズミのチュー助は張り込みに飽きていた。俺はうなずく。ベンチで丸くなる。公園を眺めていると少女が歩いてきた。

「探偵さん…」

俺は目をつむったままヒゲを動かす。いつもの事だ、行方不明の父を探してくれと頼みにくる。俺は断る。繰り返しだ。失踪の理由は様々だし、発見も難しい。遠くに逃げる場合もある。

「生活はどうだ?」

「レストランで働いているわ」

この都市は機械と融合した不思議な世界だ。様々なAIマシンが利用されている。意識拡張や超知識を得る事も容易で便利な世界。それでも生活のためには働く必要がある。昔と何も変わらない。

「あんたの親父は探しているよ」

顔写真と住所だけで、裏は取らない。AIによる広域探査でも父親の所在は判らない。検索に出ないなら死んでると考える方が自然だ。死体も見つからない。

「お父さんは夢を持ってたの…」

何回も聞いた話だ。父親は生活に飽きていた。AIが生物を凌駕した時点で機械に劣ると考える人間は多い。無気力になり自殺する。ありきたりの結末だ。

「きっとどこかで生きてるさ…」

少女は悲しそうに戻って行く。俺は何も出来ない。

ガシャガシャと機械が歩いてきた。

「ムスメハ マダ サガシテイル?」

「ああレストランで働いてる。安心しろ」

奇妙な機械は公園を掃除している。娘の父親だ。機械になれば無限の命を持てる。自分のメンテ代以外は、彼女に仕送りをしている。

それが父親の求めた幸せ。だから事実は話さない。俺は見張りを続ける。

終わり


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