ストーリーの種:あいつが転校してくるまでは、俺がこの中学校いちの変人だったのに。
「あなたは変人じゃないわ」
俺にとどめを刺すように転校生は宣言する。俺は胸に手を当てると片膝をついた。
「君は俺を殺す気か! 」
「お芝居が大根」
冷静に分析されると俺も冷めてくる。確かに芝居している自覚がある。心から本気で演じているわけでもない。それどころか信じてすら居ない。自分の作った設定を利用して、自分は他人とは違う事をアピールしているだけ。大人しそうなメガネの美少女は、俺の心をえぐる。あいつが転校してくるまでは、俺がこの中学校いちの変人だったのに。
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「転校生の結灘好恵さんだ」
先生が紹介するとペコリと頭を下げる。短めの髪の毛に黒縁の眼鏡している彼女はオタクに感じる。きっと俺とは話が会うと直感する。休み時間になると結灘の席に行く。
「俺は黒田広一、転生名はブラックワールドワン」
俺はこの設定により、この小さな村の中で変人扱いされている。俺はギークを目指してオタクが見るようなマンガやアニメや小説を読む。中学生の俺は当然のようにはまる。転生した世界で魔法を使ったり、大都市で美少女を助ける夢を見る。俺はそれを周囲のクラスメイトに吹聴した。当然のように敬遠された。オタクの理屈についていけない。
「私の字は、五台山金蛇水天涯よ」
「は? 」
俺は意味がわからない。彼女は滝から水が落下するように高速詠唱を始めた。ほぼ聞き取れないが、単語から推測すると神話世界の龍で、まだ覚醒していないらしい。
「それどんなマンガ? 」
結灘は鼻で笑うと、凡人には理解できないとつぶやく。彼女はこの調子でクラスからも浮いてしまうが、気にしていない。
「結灘さんの話は判る?」
幼なじみが俺の机に来ると俺に聞くがもちろん判るわけがない。彼女の特有の設定だ。俺は首を横にふる。彼女はため息をつきながら、どうすれば友達になれるのかと相談される。俺は彼女とクラスメイト達の仲介役にさせられた。
結灘が教室を出るタイミングで俺もついていく。色々と話をしてみるが、なにしろ話が中国の歴史だったり架空の世界の設定なので理解できない。
「なぁ俺も変人だけど、もう少しクラスに馴染もうよ」
「あなたは変人じゃないわ」
俺はショックで立ち直れない。俺よりも本気で信じている彼女をどうすればいいのか判らない。そんな俺を見ている結灘は、見せたいものがあると河川敷に連れて行かれた。
「○△□×」
中国語らしい言葉を発すると俺に手の甲を見せる。鱗がある。魚?トカゲ?ワニ?三角形の禍々しい鱗を見せる。俺は声も出せない。
「な……なに? 」
「中学に上がったら声が聞こえて、すべてを教えて貰ったの、私は人ではない」
呆然と彼女を見ているとちょっとだけ笑う。
「秘密よ」
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彼女とは中学の終わりまで一緒だったが卒業間近に家出してしまう。警察も両親も探したが見つからない。俺は彼女が、あの架空の世界に旅立ったと今でも信じている。
終わり
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