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SS 鳥獣戯画ノリ #毎週ショートショートnoteの応募用

 灯明皿とうみょうざら橙色だいだいいろの炎が風を感じないがゆれる。動く自分の影はあやかしにも感じた。まるで生きているように障子しょうじに流れる。和紙を見つめながら若い絵師が苦悩していた。

「なにか怖い絵をお願いします」
「はぁ……」

 百物語で飾る掛け軸の絵が、欲しいと頼まれた。妖怪、幽霊、鬼のような怪異を描いて欲しい。裕福な商人の余興よきょうでしかないが、売れるツテになる。真剣に考えたが何も思いつかない。

 しばらくして商人は絵師から連絡が来ないので家に訪れると誰も居ない。勝手にあがりこんで仕事部屋に入ると絵が出来ていた。鳥獣戯画のようだが、描かれているのは鬼だ。鬼が相撲をとっている。時間がないので、その絵を使わせてもらう。

「なに、飾るだけだ」

 百物語は、深夜に人を集めて怖い話を披露ひろうする。最後に怪異が起きると噂がある。その日も最後の話でロウソクが消された。

 何か起きるかもしれない、闇の中で不安を楽しむ。そんな遊びだ。

 べきべきと音がする。人体のねじれる音、暴れる音と逃げ回る足音で、みなが恐怖で叫ぶ。女中が来て行灯あんどんに火を入れると、客が何人も死んでいる。部屋の真ん中に鬼が居た。

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 朝になると検分けんぶんが始まる。役人が来て調べるが客の大半が体をねじられて死んでいた。相撲取りでもできない殺し方で犯人は見つからない。

 不思議な事に、絵師も居た。まだ息があるが、体は、たたまれて四角い箱のようだ。死ぬ間際まぎわに、彼は鬼と約束をして絵を描いてもらったとつぶやいた。

 彼の体の肌には文字が書かれている。「鳥獣戯画ノリヲ所望シタ」と落款らっかんが書かれていた。

 どうやら地獄の鬼と契約したのだろうと噂された。


落款らっかん
作品が完成した際に作者が署名・捺印する事。


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