ご免侍 二章 月と蝙蝠(十二話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。
琴音に見送られて武家屋敷を出ると陽が沈み始めていた。
(まいったな寝過ぎたな)
一馬が預かった木片には、集会の日時のみが記されている。場所はいつもの船宿だ。神田川の土手を歩いていると、昨夜の女がゆっくりと近づいてきた。
昨夜の黒い着物のままだ。真正面に一馬を見つめる顔は、出会い茶屋で見た表情とはまるで違う。まるで獲物を狙う虎のような顔をしている。
(相当、腕に自信があるのか……)
昨夜は女を抱く事だけを考えて完全に油断していた。今なら対応できる。一馬もゆっくりと近づく。
「お侍様でしたか」
「お月さん、脇差しを返してくれ」
「ええ、お返ししますよ」
「なにゆえ十手持ちを襲う」
「……調べているから……お役目ね」
(お役目……お月も何者かに頼まれて仕事をしているのか)
「そのお役目を教えてもらえるか」
「ぬしさまには関係ありません」
お月は三味線を見せると、棹の部分をゆっくりと引き抜いて細身の刀を見せる。仕込み杖と同じだ。
「あんたは危険だねぇ」
ゆらりゆらりと体を左右に揺らすと幻惑されるように体が動かない。
(なにかの術か……)
一馬は相手を切る覚悟を持っていない。
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