ご免侍 二章 月と蝙蝠(十一話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。
祖父の藤原一龍斎が、孫の一馬を見ながら笑っているのが判る。
(隠居したとは言っても人助けが好きだからなぁ)
父親に家督を譲っても悪人を退治したい、この一点に曇りがない。庶民の弱さは、誰よりも知っているのが一龍斎だろう。近所の困りごとや争いごとに、やたらと首を突っ込んでいた。
(父上が尻拭いをしていたな……)
しかしさすがに年齢には勝てない、腰をやられて動きが鈍くなると父親の藤原左衛門が、体を休めてくれと湯治場の近くに家を用意した。そんな祖父の一龍斎が、一馬に面を上げろとやさしく肩を叩いた。
すっと顔を上げて祖父の顔を真正面に見る。琴音も一馬の横に座る。祖父は、にやけながら一馬に、一緒に遠くの大烏城まで、旅をしたいという。
「仔細は、文で判っておる。琴音殿と旅をしてもかまわん」
「お爺々様は、お体は大丈夫ですか」
「平気じゃ」
(腰を悪くして隠居した筈だが……)
「お爺々様、今夜は琴音を、私が帰るまで見守っていただきたい」
また頭を下げて頼む。
「うむうむ、安心していってこい」
琴音を孫娘あつかいをしている藤原一龍斎は、長屋のじいさんと何も変わらないように見える。
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