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SS 鋼こむらがえり #毎週ショートショートnoteの応募用

「これがはがねこむらがえりだ」
 師匠がいびつな刀を見せる。ソリが深い刀は異様に見えた、普通の日本刀には感じない、異質な力がある。俺の師匠は並の刀は作らない、大陸で使われるような武器ばかり作る。

「なぜこのような刀を? 」
「切られた相手が苦しむためだ」

 首切りは慈悲じひとも言える。苦しめないために殺す。そうしないと祟りがあるからだ、殺す相手に憎しみを与えるのは、禍根かこんを残す。師匠は逆の考えで、罪人だから最後まで苦しめて死なせるから罪は浄化される。

「恨みは俺が受ける……」

xxx

 その日は、某家から使者が来ていた。師匠は自作の刀を持って屋敷を出るが夜半になっても戻らない。朝になるまで待っていると、師匠が戸板といたに乗せられて玄関先にうち捨てられていた。

粗相そそうがあって、切り捨て御免ごめん
 それだけ言うと某家の使者は戻る。裸身の師匠は試し切りされたのか五体がバラバラだった。上下関係が厳しい社会だ、某家の殺人は不問にされて罰は受けない。座棺ざかんを用意して、バラバラの体を詰めて土に埋めた。俺は黙って師匠の仕事を受け継いだ。

 しばらくすると夜になると誰も居ない鍛冶場かじばで音がする、見ると師匠が刀を作っている。俺は黙って座ると声をかけた。

「満足できる刀は作れませんか……」
「痛いと、恨みが残るな……」
 某家で刀を侮辱されたので言い合いになり切り捨てられた。自分の刀で胴切りされたと言う。刀を作り終えると俺の前に置く。ニヤリと笑うと師匠は消えた。

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「刀を所望しょもうだ」
 某家がまた刀を買いたいと言う、俺は師匠が作った刀を持って行くと当主が刀を抜いて喜んだ。

「これぞ最高傑作、褒美ほうびをやろう」
 庭先に連れ出されて、当主が俺に刃を向けた、最初から金を払う気はない。当主が刀を振り上げた瞬間だ、腕がねじれると当主が自分の首を切り落とした、大騒ぎになると首無しの当主が一家郎党いっかろうとうを師匠の刀で斬り殺してしまう。当主は庭先で腹を切った。

 俺はそのまま逐電ちくでんした、今では普通の包丁を作っている。人斬り包丁はこりごりだ。



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