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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(15/60)

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第三章 近所づきあい
第三話 公園の彼

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、長男が死んだ事で榊原さかきばら家から逃げたいと考える。


 私は飲み終わった缶コーヒーを見る。その若い男性は大学生にも見えるがもっと汚れていた。若い彼は中性的なのか女性のようにも見える時がある。

「なんだよ、オカマに見えるってか? 」
「ごめんなさい」
 ジロジロ見過ぎた、私はコーヒーの空き缶を渡すと彼はコンビニの袋に入れる。空き缶回収をしているようだが、わざわざ学生に声をかけるだろうか?

「なんかあんたは、変にぼーっとしているからさ」
 見透みすかされたように言い訳する、その後に彼は三杉良太みすぎりょうたと名乗ると、公園で体を売りながら生活をしていると、聞きもしない事を話す。

「なんか仕事が続かないんだよな、もうめんどうになってね」
 私が黙っていても延々としゃべっていた、まるで誰かに聞いて欲しい今朝の私みたいだ。気がつくと公園の照明に光がともる。家に帰らないと。

「ごめんなさい、帰らないと」
「いいよ別に、なんで長時間俺の話を聞いているのか不思議だったよ」
 彼は体を清潔に保っていた、体を売るからだろうか? 清潔に保つ事で客に喜ばれるのかな? まだ誰も愛した事が無い私は妄想する。男性が男性とするってどんな感じなんだろう。

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「なにしてんだい! 」
 玄関先に祖母の八代やよが立っていた、手には長い竹製の布団叩きを持っている。それをぶんぶんと振り回し、壁を叩く。

「遅いよ、遅いよ、遅いよ」
 子供が駄々だだをこねる、自分の望み通りにならないと暴れる、同じに見えた。私は玄関から外に逃げ出すと、八代やよも外に出て大声でわめきだした。

 近所の人達が出てくる、しばらくするとサイレンも聞こえる。パトカーが呼ばれていた。八代やよは、ずっと怒鳴っていた、老人とは思えない大声で私は体が固まる、道路まで逃げる。

「うるせえぞ、糞婆」
 川口勝かわぐちまさるが怒鳴り散らしながら右隣りの家から出てきた。手には包丁を持っている。一触即発いっしょくそくはつなのに、私は体が動かない。驚いた事に、八代やよ川口勝かわぐちまさるを見るとよたよたと近寄り、布団叩きで彼の手を殴り、包丁を叩き落とす。凝固する彼を叩き始める。

「お前の嫁はクズだ! 」
 怒鳴る八代やよ悪鬼羅刹あっきらせつに見える、まるで地獄の鬼だ。人間の人相がここまで凶悪になるのかと私は呆然ぼうぜんと見ている。その頃には警官も来て八代やよを取り囲む。


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