ご免侍 二章 月と蝙蝠(七話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。
お月と名乗る芸者は、小さな橋のたもとの店に一馬を案内する。店は小ぎれいに見えるが、一階の酒場には客がいない。
(ずいぶん客足が悪いな)
「ここは、男と女がよいことをする店でね」
「はぁ……なるほど」
芸者のお月は出会い茶屋だと言いたいのだろうが、客足が少なすぎる。二階に案内されると三帖ほどの部屋に通された。
「お酒をもってきます」
茶店ならば、店の下女が対応するのに、お月が一階に降りる。
(ますます怪しいな……両隣にだれか居るのか)
ふすまの向こうには気配はない、よほどの達人でなければ気配を完全に消すのは難しい。
「何を難しい顔してるの、おまちどうさま」
お月が、四角いお膳に酒を運んでくる。そっと一馬の横にすわると手を肩に置いて体を寄せてきたので、一馬はお月に酒をすすめた。
「おまえさんも飲みなよ」
「じゃあいただこうかしら」
お月は、盃を一馬に向けると酌を要求する。先に飲ませて毒味させるつもりだが、そんな用心も不要に思える。酒をそそいで、お月が酒を仰ぐと返杯するために盃を渡された。
一馬は酌をされて、酒を飲む。普通の酒だ、いや良酒にも感じる。酒肴もある、二人の酒宴が始まる。
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