ご免侍 二章 月と蝙蝠(六話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。
暗い道を芸者と並んで歩く、おしろいの匂いが強く香る。芸者は小さな橋のたもとにある家を指さす。
「あそこですよ、一正ってお店」
「二階がありますか」
藤原一馬は、町人言葉を使いながら、ふところの金子はあるかと確かめる。二分金が二枚はある。(十万円弱)
(これだけあれば、抱けるだろう)
相場とは思うが、ぼったくりの店ならふっかけられる。しかしあまりに高いと評判も悪くなる。
(ただ、この女は絶品に思える……)
見るたびに印象が変わる不思議な女だ、憂うような顔をすると年期の入った年増にも見えるが、少し笑うと若い少女にも感じる。この女なら吉原で稼げば一晩で小判が飛ぶ。
(どんな素性で流れ着いたのか……)
「姐さん、お名前は」
「……お月……ですよ」
少しだけ言いよどんで嘘と判る。本職ならば客に名前を覚えてもらうのが仕事だ。素性を知られたくないなら、影女郎かもしれない。巷で地獄とも呼ばれている。
娼婦のような専属で仕事をしていない女が体を売って稼ぐ場合、夫に知られると姦通罪になる。姦通は死罪だ。
(なかなか厄介かもしれない)
一馬は身を引き締めた。
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