SS 過去の自分 猫探偵10
あらすじ
奇妙な機械が歩き回る都市では動物と人間が会話しながら生活していた。人間の娘のニーナを助けると猫探偵のロイは家で飼う事にする。ニーナが生きていると障害に感じる親族は彼女の命を狙う。婚約者がニーナを助けたいと接触をするが現場に来たのはカラス男だた、ロイはカラス男に昏倒させられた。
目が覚めると清潔なベッドの上だ、起き上がり腕を伸ばす。五本の指がある、俺は人だ。
「ロイ、コーヒーは熱くする?」
「ああ、そうだな……」
クロミがすらりとしたスラックス姿で現れる、仕事に行く前に俺にコーヒーを入れてくれる。懐かしい時間だ、俺は古い記憶を掘られている事に気がついた。
「彼女はどこに居るの?」
お決まりの尋問だ。俺が答えるまで仮想現実で俺をいたぶるつもりだ、夢の中で俺は白状するまで拷問される。
「そんな事はしないわ、クライアントは誠実よ、本当に助けたいの」
「本人が断ったよ」
ニーナは戻らないと決めていた。家族の問題、婚約者の問題、そして自分の命の問題。自由に生きられる喜びを感じている。今から戻るつもりはない、そう硬く決心している。
「でもあなたを殺すと脅したら?」
「ニーナはそれでも戻らないよ……」
たかが猫だ、死んだ所で気にもしない筈だ。
「あなたは自分の価値を低く見過ぎね」
俺に端末を見せる。四角いプレートには俺が助けを望んでいるメッセージと俺が椅子に縛り付けられて、プラグが差し込まれている映像がある。俺は頭にネットワークに接続するプラグを刺されて仮想現実に接続されていた。
「これをばらまいて、返答が無いようならあなたを解放するわ」
「……ずいぶん諦めがいいな」
クロミに扮装したカラス男が笑う。
「逆よ、今度はあなたが無差別に狙われる」
なるほどお尋ね者にしてしまえば行動が狭まる。殺し屋も狙う。次から俺は問答無用で殺されるかもしれない。ネズミが上手く逃がしてくれるだろうか?ちょっと心配だ。あいつはたまに失敗する。
サイレンが鳴る、空襲警報のように甲高い音が鳴り響く、うるさい、俺は自分の耳を塞ぐ。
「一〇秒で到達する」
機械音声だ、俺は目をつむると数えた。数え終わると眼を開ける。薄汚れた地下室で俺は縛られている。近くにある脳波コントロール装置は焼き切れていた。煙が充満して咳き込む。水が突然散布される。スプリンクラーが怒り狂ったように水を巻きはじめる。
鉄のドアが破壊されると奇怪で大きな蜘蛛のようなロボットが入ってきた。所長だ、培養脳を思考戦車に乗せて救出に来てくれた。
強烈な電磁パルスが部屋中を駆け巡る、電子砲をぶっぱなされた。生体脳ですら影響が出る、頭がクラクラすると椅子を持ち上げられて地下室から猛スピードで廊下を駆け抜けた。
「すまんな遅くなった、喧嘩を売られたのは久しぶりだ」
「所長、ありがとう」
電子音声なのに怒りを感じる、錯覚だが笑ってしまう。俺はそのままニーナと逃げる事を選択する。ネズミはもう逃がしただろうか?
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