SS お弁当と彼 【#月曜日】#シロクマ文芸部参加作品(1300文字くらい)
月曜日は日直なので早く家を出る。お弁当を作って登校すると、あの曲がり角で彼がいた。
「よぉ」
「おはよう」
彼はお弁当を見ると、ばつが悪そうに眼をふせる。
「まだ気にしているんだ」
「あの時は悪かった」
ぶっきらぼうな彼と、この角でぶつかって、お弁当を落としてしまった。びっくりしたような彼の顔が面白く私はクスクスと笑った記憶がある。
「今日も学校か」
「当たり前でしょ」
一緒に学校へ歩きながら、不良っぽい背の高い彼はクラスメイトだった。校門の所まで来ると、彼はいつものように足を止めて手をふってきびすを返す。そして肩をとんとんと指でつつかれると、同じクラスの女子が立っている。
「どうしたの」
「なんでもない」
「そうだ、会わせたい人がいるんだ」
「私はそうゆうのは、いいよ」
「やさしいんだよ、本当に」
彼女は、やたらと人と人をくっつけたがる、くっつけ魔だ。善意でやってるのは判るが、やはり迷惑にも感じる。
「会ってくれない?」
「――わかった……」
放課後に彼と歩く。にこやかでやさしい顔は、どこか草食動物にも感じた。
「手作りお弁当なの? 僕も食べたいな」
「上手じゃなくて……」
「そんな事はないよ、君のならきっとおいしい」
やたらとほめるしベタベタと触ってきた。見た目よりも積極性があるのかコミュニケーション能力が高い彼は、私の心を掌握するように誘導する。
「本当にかわいいね、やさしくておだやかでとてもステキさ」
「そんな事はないですよ」
彼のいらだちが徐々に伝わる。これだけ褒めれば、それなりに親密になりそうなのに、私は心を閉ざしていた。
「ねぇ、僕が嫌いなの?」
「……」
「ねぇ、君って……とても……××××」
卑猥な言葉にショックを受けて、イヤダーとかヤメテーとかリアクションを期待していたのだろうが、私は……ただ黙って彼を見つめてしまう。
「んだよ、馬鹿にしているのか? ふざけんなブス」
「……馬鹿になんてしてません」
「じゃあ、なんだよ。ちょっとかわいいからって」
絶句する彼は、私の後ろを見つめている。顔から血の気がひくと蒼白に近い、眼がつり上がると黒目が消えた。がっくりとヒザをついて肩で息をした。
(もう大丈夫だから)
そっと後ろの彼に伝えると気配が消えた。
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あの月曜日の朝に彼と出会ってからずっと一緒に登校していた。あの日は、運が悪かっただけで、車道側を歩いてた私に居眠り運転のトラックが突っ込んできた。手を引っ張られ、私と入れ替わるように彼が車道側に立っている。まるで、また会えるような顔をしていた彼は、そのままトラックに巻き込まれてしまう。
「おはよう」
「なんなんだあいつは」
「大丈夫よ、つき合わないから」
はじめは驚いた、破壊された顔は最初にあったころの面影はないが、それでも彼は彼だ。
「卒業したら……あえなくなるね」
「その時は成仏するさ」
「成仏できるの?」
「ああ、卒業するまで一緒にいたかった」
「じゃあ、お墓まいりするね」
「墓に俺はいないぞ」
クスクスと笑いながら穏やかな日が、ゆっくりとはじまる。
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