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SF 願い

 修道士が白いチョークでレンガの床に円陣を描いている。

「あと少し、あと少し……」

 つぶやく言葉は疲れている。円陣ができあがると文字を描く、ローマの数字や占星術の記号をガリガリと地面にきざむ。

「出来た……」

 白い円陣は魔方陣で、悪魔からの自分の身を守るための仕組みだ。彼は羊皮紙を取り出すと古い呪文で悪魔を召喚した。赤黒く床が光ると地獄の門が開き不気味で巨大な顔がゆっくりとせりあがる。

「なにが望みだ」
「俺を未来に連れて行ってくれ」
「変な願いだな」
「俺は……死刑になる」

 彼の罪はありふれた姦淫と殺人だ。恋した人妻から捨てられて逆上して殺した。このままでは生きたまま火あぶりにされる、その前に拷問もある。

「魂はやる、俺の事を知らない未来に行きたい」
「罪から逃れたい……わかるよ、ただ魂はいらない」
「魂が不要だと?」
「お前のような汚れた魂は価値がない、悪魔が欲しがるのは純粋でケガレのない清らかな魂だ」
「俺はそんなものはもっていない」
「ああ、だからそれを作る機会をやろう」

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「それで殺したのか?」
「ああ、約束なんだ」
「精神鑑定に回そう……」

 スチールの椅子から立ち上がると刑事は取調室から廊下に出る。

「悪魔だと……」

 苦笑いする刑事は、実の娘を殺した男のいい訳を忘れる事にした。やさしい父親、愛情を注いで誰からも好かれる少女の内臓を魔方陣の外に並べた男、理由なんて意味はない。

 悪魔は刑事の座っていたスチール椅子で、男を指さす。

「また未来に飛ばしやるよ」
「俺は、これからどうなる」
「極上の魂だった、また育ててくれ」
「殺してくれ、お願いだ……」
「お前は死ねない、お前は永久に俺の手下として働いてくれ」

 涙を流しながら男は懇願し続けた。

一応、悪魔でてくるのでSF

#SF
#怪談
#小説

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