弟の憂鬱:魔女の娘【魔女のミナリア、洞窟へ行く】(12/50)
第三章 弟の憂鬱
第二話 魔女の娘
あらすじ
魔女のミナリアは洞窟に居た黒髪の少女レオノーアに出会う、ミナリアは封印を解く仕事をまかされて【赤の洞窟】の攻略が終わる、封印の祠のルビーを手に入れる
「まちなさい! 」
子猫を追いかけて姉が走り回る。母は厳格な人で僕は子供の頃から厳しく育てられ、行儀作法に関してはうるさく言われた。だが姉は、先妻の娘で自由奔放に育っている。感情が豊かで泣いたり怒ったりと起伏が激しいので見ていると面白いが、母からすればどう接すれば良いのか判らない様子だ。
「ごめんなさい! 」
母が叱責すればボロボロと涙を流す。まるで継子イジメのようにも見える。もてあましているのは僕から見ても理解できた。姉は叱られてもすぐに遊び回るので、何とも思ってないのかもしれない。だが躾ける側からすれば扱いにくい。
父親は温厚な人で、僕をかわいがってくれた。同じように姉も甘やかしていた。他家の子供よりは、わがままに育っている。
「リュカ」
姉が僕を呼ぶ時は本を見せてとか、書庫から資料を出してとかそんなお願いだ。女性には学問は不要とされていたので、ミナリア姉さんは、行儀作法の先生や音楽の家庭教師からしか学べない。
その日は昼下がりで僕は本を読んでいた。中庭で騒ぎが起きる、召使い達があわてている。僕も好奇心から立ち上がり庭に出ると……温室が壊されていた。
「なにかあったの?」
幼い僕を見ながら召使いが、大丈夫ですよと部屋に連れ戻した。後で母から話を聞くと、姉が温室のガラスを魔法で破壊したと憂鬱そうに語る。姉は大量のガラス玉を生成していた。
「私はあの子を育てる自信が無いわ……」
母は僕を抱きしめる。姉は魔女として力を得ていた、国の大半の女性は魔女にはならない、適正もあるが呪文を知らなければ発動はしない。幼い頃から訓練をしないと前線で戦えるようにはならないので、中途半端に力を持つと危険だ。貴族の娘を戦わせるために魔法を学ばせる事は出来ない。
もちろん魔法を使える子供が居れば、召使いも怖がる。力を使われたら大人でも怪我をするし、働けない体になれば、僕の家から追い出される可能性もある。家の中で姉は自然と孤立したが、姉は気にせずに自由に生きていた。僕はその姿が羨ましい、まるで小鳥が自由に空を飛び回っているように見えた。地面に居る僕は小鳥を眺めながら空を飛びたいと願う。
「旦那様が事故で…………」
父が死んだのは馬車の事故だ。道ばたの石に車輪が乗り上げた拍子に、車軸が折れて横倒しになり、乗車していた父は頭を強く打ち亡くなる。悲しいというよりもこんな事で死ぬんだと呆然とした、姉も母も泣いている。姉は特に大泣きして大変だった。感情的になる女の子が魔法を使うと危険だ。もちろん姉はそんな事はしないが、周囲の人間はそう思っていただろう。
「姉さん大丈夫だよ」
姉のそばで僕が慰める。だけど姉はあまり僕に心を開かない、やはり母が違うと他人に感じるのかもしれない。僕は悲しいはずなのに、その状況を淡々と感じているだけだった。
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