見出し画像

SS 古い二人用 #爪毛の挑戦状

「古い二人用の脱出艇ね」

虚空 こくうが広がる深宇宙で探査船は故障した。脱出艇は二人用だが片方に問題がある。自動点検ボタンを押してもNGで戻る。間近には巨大なクォーク星がある。ブラックホールにならない超重力星だ。

船はゆっくりとクォーク星に落ちて行く。今なら脱出艇の跳躍装置ワープ で戻れる。

「使えないわ……」
年上のミランダはため息をついた。彼女には子供が居る。未婚の私は身軽だ。

「私が残る、ミランダ脱出して」
「ヨシエ、くじ引きでいいわ」

ミランダが悲しげに私を見る。私は頭をふる。母を待つ人が居る。彼女が帰るべき。

「あなたは子供を作れる若さがある、私は残した。もういいのよ」
私も死にたいわけじゃない。葛藤がある。戻って研究成果を出して、誰かと結婚する。私はその絵空事のような想像を笑う。

「私はクォーク星に落ちたい」
ミランダと私はくじを引いた。公平だ。どちらも覚悟している。ミランダが脱出艇に乗る事になる。

「ヨシエ、データをお願いね…」
薄く笑う彼女は涙が流した。お決まりのようなお別れをすると彼女は脱出艇を無事起動させる。

私の船はクォーク星に落ち始めた。いきなり宇宙船の内部が変化した。真っ白の空間の中に私は居る。天国なのかな?冗談みたいに考える。私は死んだときの走馬灯が起きたと判断した、ここは重力が高い。時間遅延がある。走馬灯もそれだけ長く維持できる。(と仮定した)

白の空間が薄くなると私は元の場所に居た。宇宙船の中だ。変化したのは船でクォーク星から離れ始めていた。私は急いで操縦席に座ると跳躍装置ワープ で地球に向かう。

「メーデー、メーデー。遭難しかけたの、応答して。ミランダは戻った?」
地球から通信が入る。戻るなと命令される。

「理由は?それよりもミランダは?」
長い説明の結論は、私は人間ですらない。ストレンジ物質に変化していた。この物質は通常物質と接触すると、相転移で相手をストレンジ物質に変化させてしまう。

私は危険な存在。

ミランダが脱出装置を使った時にクォーク星の表面のストレンジ物質を引きずりこんだらしい。そして爆発した。ストレンジ物質が宇宙空間にばらまかれると同時に相転移で宇宙船と私がストレンジ物質に変化をした。

もちろんそんな状態では宇宙船も人間も形を保てない。地球から見れば奇怪な物体が地球に向かっているように見えた。私が通信している事が異常事態だ。

「私は戻れないのね……」
私の意識があるのは超重力による時間遅延のせいだろう、死んでいる筈なのに周囲の世界よりも時間が極端に遅い。宇宙船の内部も時間遅延だ。宇宙船全体が他の宇宙の時間から切り離されていた。外の世界と会話できるのはワープ通信で別の仕組みで外の宇宙と繋がっているため。

私はクォーク星に戻る。ストレンジ物質の私はそのまま惑星の上に着陸する。本来は超絶な高温な筈だが、ストレンジ物質の私は平気だ。高い重力のせいで丸い表面に起伏はまったくない。目が慣れたのか暗い表面を歩く。

「脱出艇に乗ってた方が良かったかも」

私は薄く笑う。時間切れまで私はぼんやりと星の表面で寝そべる。私はクォーク星と一体化した後の事を夢想する。

終わり


ハードSFにしましたが突っ込まれても説明できません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?