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SS 盲目の彼女 #たいらとショートショート

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
盲目の彼女はカウンターから注文を聞く。俺はこれから保安官と早撃ちで勝負だ。「スコッチ」コインをテーブルに置くと彼女は手探りでコインを見つける。ショットグラスにスコッチを注ぐと俺に手渡してくれた。「勝てるの?」彼女は心配そうに俺の手の甲を探る。目が見えなくても手から情報を得られる、発汗や脈拍で緊張が判る。

「平気だよ」俺は彼女が好きだ。ベッドで何回か愛し合った。彼女からすれば行きずりの男だろうが俺は本気だ。「勝てるさ」俺は彼女の手を、そっと戻す。相手はこの町の保安官だ。悪徳保安官が町を牛耳っている。

正午の鐘がなる。俺はバーを出ると保安官と取り巻き連中と対峙する。「遅かったな、あの女に最後の挨拶をしたのか?」下卑た笑いが広場に充満する。深呼吸をすると俺は数を数える。集中する事で冷静になれる。挑発が不発と悟った連中は合図もせずに銃を抜いた。

俺はバーに戻ると「スコッチ」と告げるコインをカウンターに置いた。彼女はコインを探す。きっと彼女は勝利を確信したのだろう、昼飯を用意してくれる筈だ。ずるずるとカウンターから崩れ落ちた俺は彼女の最後の言葉を聞いた。
「ご注文はいかがなさいますか?」

(510文字)


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