ご免侍 二章 月と蝙蝠(二十五話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。芸者のお月が一馬に傷を負わせる。
「旦那、銀蝙蝠が」
後ろに気配を感じると体をぐるりと回しながら座るように体を沈める。ぶんっと音がして八角棒が振り下ろされると地面を叩く。抜いた刀を下段から上段に向けてふるう。
「仕留め損ねたか」
立っているのは坊主頭の男だ。ひげが濃いのか垂れ下がるように顔の下半分をおおっていた。背丈は一馬と同じくらいだが、横幅が広い。ずんぐりとした体は、強靱な筋肉で盛り上がっている。一馬が相手の名前を聞く。
「名は」
「そんなものは無い」
一馬が名を聞いても言わぬ、名乗りをしないのは武士ではない。八角棒の先には、細い鎖から垂れ下がる銀色の蝙蝠(こうもり)が見える。銀細工の作り物だ。羽が軽いのか、羽ばたいて見えた。
八角棒を回すと蝙蝠も回る、その蝙蝠が徐々に近づく。
(間合いが詰められている、幻惑されているのか)
ぶんぶんと大きく円を描く八角棒の射程の中に入るのが難しい。キィキィと声がするのは銀細工の蝙蝠だった、中が空洞で鳴っているのかもしれない。その蝙蝠が突然、一馬めがけて飛んでくる。
(鎖鎌と同じか)
細い鎖でもからまれた動きが鈍る、腕を取られたらねじって腕が折れる、足も首も同じだ。刀ではらうが、鎖がからまる。横に引っ張られると刀をもぎ取られた。
「旦那あぶない」
平助が叫ぶ、八角棒が一馬の頭に振り下ろされる。
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