SS 隣の家まで、一本の蜘蛛の糸が伸びていた。 #ストーリーの種
隣の家まで、一本の蜘蛛の糸が伸びていた。蜘蛛の糸なんてすぐ切れそうなのにしっかり見える。触ってみる。しなやかで弾力はある。そして切れない。
「本当に蜘蛛?」
隣の窓が開くと幼なじみの結菜が顔を出す。
「朝陽なにしているの?速く寝なさい」
黒髪のショートの丸顔だ。狸っぽいと思うが絶対に言わない。殺される。
「いやこの蜘蛛の…」
言わない事にした。些細な事で好奇心を刺激すると結菜が騒ぐかもしれない。俺は判ったとうなずくと窓を閉める。朝起きると、キッチンで朝食を食べる。蜘蛛が天井から落ちてきた。俺は驚くが朝蜘蛛は殺すなと言い伝えも知っている。新聞を丸めて糸に引っかける。壁際に新聞を置く。
「蜘蛛?」
母が見ていた。少し笑うと蜘蛛は殺さないでねと頼まれる。俺は別に殺すつもりもない。母は生き物を朝に殺すと運気が下がるとスピリチュアルな事を言う。俺は信じてないが、うなずいた。
「朝陽、学校に行くわよ」
彼女の元気さを分けてもらいたい。俺はだるそうに歩く。最近は調子が悪い。そして授業中に根を上げた。早退する。家には誰も居ない。母はパートだ。俺は自室で眠る事にした。こんなに疲れが溜まるほど運動も勉強も俺はしてない……
「汝は死ぬぞ」
目の前に古風な着物を着た年上の女性が居る。夢だなと思う。しかしこんな夢は見たことがない。
「お前は祟られておる、古い呪いじゃ」
長い髪の女性は俺の頭をなでる。まるで家族のように感じた。
「悪いが贄を用意した、隣の娘に縁を作る。だからお前は無事じゃ」
「隣?何をしたんだ」
俺は嫌な予感しかしない。俺は起き上がる。ベッドの上だ。夢から覚めた。
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母が夕飯を作る。俺は聞いてみる、俺の家系に蜘蛛との関係があるのか?すると
「蜘蛛?私の実家は蜘蛛相撲をしてたわ」
知らない話だ。蜘蛛相撲は、大きくて美し蜘蛛を飼育して戦わせる。遊びだが、蜘蛛を大事にしていた。あの夢の女性は蜘蛛の化身なのか?呪いとはなんだろうか?俺はキッチンの椅子から立ち上がろうとして倒れた。
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「我は八束脛、汝は我の子孫じゃ」
目が覚めると病院のベッドに居た。看護婦から貧血と言われる。寝ているとまた夢を見る。自分はリアルで妖怪の祖先が居た。八束脛は、俺が祖先と同じように血を求めている。だが人の身では、血は吸えぬ。だから彼女が他人から血を与えると言う。
「やめてくれ、結菜が死んでしまう」
俺は起き上がる。病院のベッドだ。俺は決意した。
翌朝は点滴を受けて家に戻る。自室の部屋の窓を開ける。蜘蛛の糸がある。俺は引きちぎる。かなり頑丈だったが所詮は蜘蛛の糸だ。俺は呪われている。今回は問題が無くても一生このままだ。俺は適度な高さのマンションの階段を上る。外階段は無防備だ。十分な高さまで昇ると俺は身を投げた。
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俺は地獄に落ちている、真下は血の池地獄。真っ赤に煮えたぎり湯気を上げている。強烈な腐敗臭で吐きそうだ。これで良かった。呪いは消えない。しかしいつまでも下に降りない。俺は落ちていなかった、背中に糸がついている。ぐんと力がかかると俺は釣り上げられた。
……また病院のベッドだ。結菜はベッドの横で泣いている。俺はマンションから落ちた筈なのに無傷で地面に倒れていた。八束脛に助けられた。その日は病院で夢を見る。
「なんと軽率な奴じゃ、誰も殺すまで血はとらん」
蜘蛛の女性は俺を叱る。そして力を伝授すると言う。動物や人から蜘蛛の糸を使い少量だけ血や生気を抜く。誰も死なない。お前が量を決めろ。俺はうなずいた。
その日から俺は他人から血を抜くようになる。動物でもいいが本当に少量だ。大人なら貧血にならない程度に抜くだけでしばらく持つ。
「朝陽、最近は血色いいわね」
結菜が笑いかける。俺はにっこりと笑い返した。
終わり
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