SS カラスに慰められたことはあるかい。#ストーリーの種
「カラスに慰められたことはあるかい。」
老人はぼんやりと公園のベンチで座り中学生の私を見ている。遠縁の親戚が老人ホームに行くため、家族は老人の家の整理をしている。私は彼を見守る係だ。部屋は汚れているために大人達が部屋を掃除して、必要な書類や通帳を探している。
老人とは面識はあるが、どんな人だったかは忘れてしまった。両親も老人のことを知らない、孤独な老人だ。
「俺の部屋にカラスが居るんだよ」
私はどう返事をすれば良いのか判らない、鳥をペットにしていた様子は無いからだ。鳥かごがない。
「カラスは、俺の愚痴を聞いてくれる……どんな話も、カァーカァーと返事をくれる」
精神が失調しているのか老人は遠くを見ている、小柄で体力も無いが、暴れたら子供の私では制御できない。大人に電話をして来てもうおうか?
「でも。たまに姿が見えなくなる。だからまたカラスを呼ぶんだ」
老人は私を見つめる眼つきが変わった気がする。カラスは妄想なのかな? それともエサを使って呼び寄せたのか? どちらにしろ老人は黙る。虚空を見つめる眼には感情が無い。
だれかが公園に向かって走ってくる、父親だ。私を呼ぶとすぐに母と一緒に居ろと言われる。私が動こうとすると、老人に腕をつかまれた。
「まだだ、カラスはここに居ろ」
腕を垂直に引っ張られると動けない。老人は背後に回り私の首に腕を回すと絞め始めた。首の血流が止まれば失神してしまう、素早く動いた老人から私は逃げようともがいた。
「やめろ! 」
父親が老人の顎を殴る、彼はそのまま崩れ落ちた……
◇◆◇
「怪我はないですか? 」
警察官が私を心配してくれる、老人の住んでいた二階の部屋から複数の遺体を見つけた。少女や少年の遺体だ。彼はそれをカラスと呼んでいた。
「……喉を薬かなにかで潰されて……」
別の場所で肉親に説明している声が聞こえる。老人は幼い子供を捕まえて二階に閉じ込めて話し相手として飼っていた。拘束されていた子供達はしばらくすると体調不良で死んでしまう。老人は記憶も無いままに起訴されて、今は警察病院に居る。
私はカラスを見ると、この事件を思い出す。孤独は人を狂わせる。いや狂っているから孤独なのかもしれない。
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