SS 戦場の少女【#戦国時代の未来】 #爪毛の挑戦状
ザムザ844は、センサーから入力したデータをフィルターで選別する。
(人は居ない)
思考はあるが感情は無い。そもそも感情が判らない。気分の高揚なのは判る。楽しい、嬉しい、悲しい、怒り。その状態になると行動にメリハリがつく。
(ノイズに思えるけど……)
戦場は長く爆撃されたせいで荒廃している。鉄くずと骨のかけら、人だったものが銃を握っていた。ゆっくりと歩く、敵がいれば……。ザムザ844は、人の形をした兵器だ。
少年はとぼとぼと歩く少女を見つけると駆けよる。敵兵にしては幼すぎた。
「どうした、地下壕から逃げてきたのか」
「おかあさんがいないの」
少年も地下壕から逃げてきた。薄汚い大人達は子供を食い物にしようと監視している。母親が居ない少女は格好の餌食だ。
泥がついた顔と洗濯もしていないワンピースは黒く汚れている。少年は、レーションを取り出すとアルミの袋をやぶいて少女に渡した。
「まだ食える、兵隊の簡易食料だ」
「うん」
むしゃむしゃと夢中になって食べる少女を見ながら、少年は彼女をどうするか悩む。
(長くは生きられない……地表は汚染がヒドイから……)
自分の腕を見ると黒く壊疽が広がっていた。少女は少年の顔を見る。
「あなたは、どこの国の人?」
「国? そんなものは無いよ」
ずっと昔、ロボットを使って殺し合いが始まる。徐々にそれは世界に広がり、ロボットが無数に作られて、ひたすら人は殺された。もうなんで殺されるのかもわからない。
ゴンゴンゴン
地響きがすると、思考戦車が姿を見せる。重く図体がでかく壊れない。少年を見つけると銃撃してきた。
ゴンゴンゴン
「逃げるぞ」
少女の腕を引っ張ると軽い、こんな幼い子を守れずに自分は死ぬのかと思うと泣きたくなる、さみしい、かなしい、誰か助けて。
少年が必死に銃で応戦するが、敵の弾丸は彼の手足を吹き飛ばすと彼は地面に倒れる。
「ニゲロ……」
もう言葉にならない、ザムザ844は、少年も見て少しだけ心が偏重する、バイアスのかかった思考をふりはらうように頭をブルブルすると腕に仕込んである重粒子レーザが展開した。
「おいしかったね」
少年は白濁した眼で虚空を見つめている。重粒子であたり一面が白熱化して溶けていた。手に持ったレーションもすでに灰だ。
またとぼとぼと歩き出す。戦国時代の未来は、もう終わりだ。生き残った人間もわずかしかいない、ザムザ844は、なぜまだ人間を探しているのか覚えていない。
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