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魔王アデル誕生 アデルシリーズ

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俺は目を開けると豪華な天井が見える。見知らぬ天井だ。病院にしては派手だ。この世界に来てから考えた事が、アニメの一シーンみたいな感想だ。起きようとすると頭が重い、そもそも体も小さいし手も小さい。

シャンデリア

ぬっと目の前に顔を出したのはひげ面の西洋人に見える。髪の毛は黒いが日本人でない。同じように横から顔を出したのは金髪の美しい人だった。あまりの美しさに俺は目の焦点を合わせられない。もし目が合ったらいきなり嫌な顔をされるかもしれない。メンタルにダメージを受ける。

「※◎▲」
何かを言ってるがさっぱり判らん。そしてこの時点で理解をした。俺は死亡して転生したのだ。確か夜勤明けで俺は二日は寝ていなかった。それでもMMOの日課はしたかった。急いでプレステを立ち上げるとそこで気を失った。死因は心不全なのか脳溢血なのかは知らないが一人暮らしの部屋でゲームコントローラを握りしめて死んでいるのだろう。誰か早く見つけてくれる事を望んだ。

「日課はもう無理かぁ」
苦労してレベル上げをしてクラフターも上げている最中だった。仲間も俺がログインできないと、また誰かを募集しないといけない。申し訳ないと責任を感じる。

ひげ面の西洋人は俺の額に触れると言葉を理解できるようになる。
「なんだ転生人か 魔王の息子に産まれてしあわせだぞ」
どうやら父親らしい上に、魔王?
「そうね 幸せかもしれないわ」
少し悲しそうな母親は俺の髪の毛に触る。まだ生まれたばかりだからろくに毛も無い。

姫様

それからは幸せだったのだろう。父親は魔王で強力な結界魔法を使えた。そのためにどんな攻撃に対して効果が無い。不死身と同じだ。母親は人間の女性だ。父親がどこからか姫様をさらってきたらしい。まったくけしからん。母は俺を大事に世話をしてくれる。

「人間には優しくしてね」
口癖だが、願いでもある。父親の魔王は横暴で気まぐれで人間も魔族も縦横無尽に滅ぼした。それだけ憎まれた。母親はとばっちりで他の魔族に殺されてしまう。俺がまだ十歳にもならない時だ。魔王の怒りは激しく相手の魔族を根絶やしにした。お陰で魔族の力が全体的に弱まるほど駆逐をする。

それを機会にして人間側の攻勢が始まる。魔王の父親は内外に敵を増やしすぎた。戦いを続ける事で想定より老け込む。そして俺が十六歳になる頃には、ボケが始まっていた。魔王でも老化に勝てないのか。と俺はがっかりする。

「後はお前がやってくれ」
魔力の使い過ぎなのか急激に老け込んで手が茶色で皮膚がゆるんでいる。見ているだけで痛々しい。俺は父親を引退させると結界のある遠くの安全な城に退避させる。そこから俺は持ち前の魔力で無双したかって?そんな事はしない。

俺はサラリーマン時代の苦労を知っている。部下には仕事を与えるが無茶をさせない。きちんと報連相(ほうれんそう)をさせて、システムとして機能をさせようとした。無駄だった。所詮は異世界の連中だ。自分の領土が安全なら非協力的な態度で見守るだけだ。

魔族の貴族達は、俺を値踏みをして無視するようになる。反乱さえしなければ俺はそいつらに手を出さない事にした。なにしろ俺は無敵に近い魔力がある、白魔法も黒魔法も自在に使える。反乱する奴が居ればテレポで城ごと消滅すら可能だ。もちろんやらない。反乱した奴だけつるし上げた。

他の貴族からすれば弱腰に見える。それでも俺は人間の時の善悪の倫理観から逃げられなかった。もし転生した世界で、そのタガを外せるなら、きっと元の世界でも外していたと思う。

鏡を見ても俺は自分の容姿が嫌いだ。この顔で女にもてても、だからナンだとしか思わない。夜とぎのための女魔物が頑張ってくれても、喜びは感じない。俺は転生前の俺から逃げられなかった。

魔王城

「人間の勇者達が来ました」
コウモリみたいな羽で飛んでいる小さいガーゴイルが俺に報告をする。こいつらは報告するだけで撃退とかはしない。命令もされてない事はしない。人間はどうも魔王の城をさえ潰せばなんとかなると考えているようだ。実際は俺から人間の世界に影響を与えてない。そもそも広い魔族の土地だけで食ってけるわけで、他の国の領土まで踏み込む意味が無い。

「世界の悪を滅せよ」
むさい男や女が俺に挑戦をする。俺は詠唱をすると勇者達を一撃で石化させた。なんで万能薬とか持ってこないんだといつも不思議に思う。石化した奴は庭に飾って置く。

「退屈だな」
俺は長い金髪をかきあげながら、ガーゴイルから酒をもらう、この金髪だけは母親ゆずりで好きだ。やっぱり黒髪とか見た目が悪い。金髪こそ正義だ。ロン毛の俺は次の勇者が来るのを待つ。

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「また勇者達です」
ガーゴイルが報告をする。遠目からでも判る子供達を送り込んできた。少女達は俺を見ながら自信に満ちていた。子供っていいよなと俺は思う。無敵感があるよな、自分は何にでもなれると信じている。俺は高い玉座から立ち上がると、少女達を見下ろした。

終わり



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