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SS 朝の時計 #爪毛の挑戦状

「起きて」
体を揺らされる、夢を見ていたが忘れてしまう。俺は時計をつかむとまだ朝の六時だ。ベッドから起きる。朝食の用意をする。昨日買った食パンをレンジに入れてチンする。朝の時計は電波時計で正確だが、鳴る前に起きてしまう。目覚ましの意味が無い。

仕事場でパソコンを使いながらデータを処理していると夢の事が気になる。

「どんな夢だったかな?」
夢を見ている時は鮮明だ。夢の中で生きている自分がいる。中断されるとそれが霧散する。現実が消滅して後には何も残らない。

「夢みたいもんか……」
職場の端末を操作しながらこの数字の羅列が何を意味するのか判らなくなる。俺は疲れていた。

夜寝る時は、また目覚まし時計を使う。一人で寝て一人で起きる。今日は誰かに起こされた気がした。夢の中で起こされたのかな?と思う。でも体は揺すられた。

「気のせいかな?」
布団をかぶると俺は速攻で眠る。体をゆすられる。

「起きて」
目を開くと深紅の空と漆黒の大地が広がる。月が巨大だ。恐ろしい大きさの月には目鼻がある。まるで睨むように俺を見ている。

俺は巨大な剣を抱えて寝ていた。体をゆするのは銀髪の少女だ。まだ未成年の彼女は子供にも見えるが豊かな胸は女性の体型をしていた。

「銀骸骨兵士が来てる」
無表情な彼女は無感情に見えるが焦ってるのは理解できた。俺は剣を両手で構えると敵を探す。前方二十メートルくらいの場所に銀色に光る骸骨が片手剣を持って歩いて来る。俺は突進をして上段から唐竹割りをする。頭から切られた骸骨は左右に分離する。

「あなたも暢気ね、敵のど真ん中で寝てられる」
俺は寝不足のままだ。そう言えば夢を見ていた筈なのに忘れている。とても平和な世界の夢だ。甘えるように銀髪の美少女が抱きつく。

「まだ敵が居るわ、稼いでね」
敵を倒しきると宿屋で休む。少女とベッドに入ると疲れている俺にかまわず体を求めてきた。俺はもう半分寝ていた。

「起きて」
誰かが俺をゆすっている。目が覚めると銀髪の美少女が笑っている。俺は夢を見ていた。退屈でも静かに暮らせる世界だ。いつものようにレンジでパンをチンする。そして巨大な剣をかついで会社に行く。

「今日は誰を倒すかな」

xxx

夕方のニュースで俺の事を報道している。
「○○商事で殺人事件が発生しました、銃刀法違反で社員の……」

どうせ眠れば俺はあの巨大な月の世界に行ける。そして銀髪の少女と……

終わり


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