SS ドローンの課長 #毎週ショートショートnoteの応募用
蒼穹には何も無い。ただ青く下方に雲が広がっている。何も無い空を飛ぶのは気持ちがいい。
「ドローン課長」
新人のアシスタントは親しみを込めて愛称で呼んでくれる。自分もそう呼んでくれると嬉しい。怪我をした顔は、プラスチックのマスクでおおわれている。趣味がドローンの課長は、気さくで好かれていた。
「UAV(無人航空機)のテストが始まります、チェックしてください」
航空自衛隊を辞めて、民間の研究施設で勤務をしている。テストパイロットだった私は事故で二度と飛べないと思っていた。書類に目を通すとアシスタントに返す。
「問題ないよ、また飛べるのは嬉しい」
「ドローン課長なら、大丈夫です」
彼女の笑顔にはげまされる。本当は怖い。今度のテスト飛行は、無人戦闘機を監視するための訓練だ。親戦闘機から、UAVを多数発射して、連携して敵を倒す。主任が私を推薦してくれた。
「君なら適任だよ、UAVに指示を出すだけだ」
戦闘はもうロボット同士で戦う。戦闘機がドッグファイトする時代じゃない。
晴天の飛行場に到着すると、最新鋭機の「迅天」が準備をしている、パイロットスーツを来てコクピットに座り、テストを開始する。
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「迅天、飛行に問題ないなら、自律型無人機を展開してくれ」
「展開します」
通常は爆弾を格納する場所から、ドローンが何個も射出される。V字型のドローンはブーメランにも見えた。突然、コクピットのアラームランプが赤く灯る。
「……緊急事態だ、某国のUAVが誤動作で首都に向かって飛んでいる……、訓練中止」
「近くですか」
「近くだ」
「私は民間人です、事故ならば問題になりません」
「迅天は、武装していないぞ」
「大丈夫です」
頭上を見れば青く薄く雲もない。自機のUAVに進行妨害を指示して、某国の自立兵器を攻撃させる。武装した某国のUAVは、自分のUAVを次々と破壊する。そいつは俺を敵と判断した。
「ああ、そうだ、一騎打ちだ」
いつか人は争わなくなる、きっとロボット同士が誰も見ていないところで静かに戦う。
「人とロボットの最後の戦いか……」
迅天は、被弾しながら巨大な敵の自立兵器に特攻する。洋上のどこかで爆散すると海に破片がばらまかれた。
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きれいな青空は平和に見えた。
「そろそろかな」
アシスタントが、ドローン課長のお昼を用意して待っている。
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