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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(60/60) (終わり)

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第十章 幸せな私
第六話 世界の終わりと希望

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、連続殺人に巻き込まれる、黒い家と噂される榊原さかきばらの家族の生き残りは……


「成人したら結婚しよう」

 斎藤輝政さいとうてるまさが、落ちついた表情で私にプロポーズする。私のことを子供の頃から好きだった。だから私の記憶をよみがえらせて、何が問題だったのか知りたい。

「健康な君を取り戻したいんだ」

 にこやかに笑いながら私の手首をつかむ、そっと椅子から立ち上がらせると私を抱き寄せる。私は涙を流しながら微笑む。きっと幸せになる。私は……

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「薬の時間よ」

 乱暴に肩をゆすられた、看護師がカップに入った薬を突きつける。ベッドから起き上がると、カップを受け取り薬を飲んだ。安く変な匂いがするプラスチックのカップから水を飲む、ちゃんと服用したか、看護師に口の中を見てもらう。

「診察は十五時よ……」

 外来が終わってから集団で私たちを見る、ちょっと質問をして返答して終わりだ。いつここから出られるのか判らない。

 斎藤輝政さいとうてるまさとは、たまに往診があるときに、二人で会える。彼は無表情で私の話を聞くとカルテに何かを書いてうなずくだけだ。

「あの、宮田健太みやたけんたさんは、ここに居ますか?」
 今日は自分の事は質問をしなかった、斎藤輝政さいとうてるまさは、無関心そうにうなずくと面会させてくれた。

 閉鎖病棟へいさびょうとうの中で縛り付けられた彼は身動きを取れずに、目だけギョロギョロと動かす。必死に何かを訴えていた。私は震える、黒い家の呪いの強さに恐怖する。これが結末なのか……

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「先生、好きです!」

 往診の時に大声を上げてしまう、たちまち看護師達が集まると私をベッドに縛り付けた。斎藤輝政さいとうてるまさは、その夜に私に会いに来た。

櫻井彩音さくらいあやね君、大声をあげてはだめだよ」

 彼は私の体をゆっくりと触れながら我慢できないようにキスをしてきた。

「子供の頃から君は愛らしく僕のモノにしたかった。薬を使ったり催眠術中に触れたりしたが、あと少しだ。成人すれば君を僕のペットにしてあげよう。もうちょっとだから我慢してくれ」

 彼は延々と私に、自分がした事を語る。私がトラウマで精神的な病になり、大人からのイタズラに対して抵抗できない事を知ると診察のフリをして、私の体に触れながら時期を待った。

「あの両親は障壁だったよ、母親を騙して父親のカウンセリングをする名目で、薬で眠らせて殺したんだ」

 自慢げに彼は白状する、完全犯罪だ、ダムに自動車ごと落とした、もう私はかごの鳥。私が警察に何を話しても信じるわけが無い。私はゆっくりと笑う、幸せな笑いは彼の心を溶かす、彼は病院の中では絶対だ、そしてそれが油断だ。

 原初の意識は私を活性化する、新しく生まれた意識は強靱だった。

 彼は我慢できずに拘束具こうそくぐを外すと無抵抗な私を抱こうとした。私の握力と筋力は成人男子と同等らしい、私は彼のあごに掌底しょうていを打ち込むと、彼の体はぐらりとゆれる。倒れたところでノドを踏み抜く。ノドの骨が潰れると同時に彼は絶命した。

 私は至福しふくの気分を味わう、この万能感は何なの? 復讐は最高の気分だ、両親を殺した医者をねじり殺す。ゆっくりと病室のドアを開けて、閉鎖病棟へいさびょうとうの鍵を探す。宮田健太みやたけんたを助けよう、ここに居る病人をすべて助けよう。

 暗い精神病棟の廊下を歩きながら、私は誰にも負けない力を感じた、リミッターを外した私は無敵だ。

終わり


ご愛読ありがとうございました、真っ暗な話ですいません。次回作をお楽しみにしてください。

櫻井彩音(さくらいあやね)

#ミステリー小説
#推理小説
#黒い家の惨劇


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