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SS 空と水面と葉っぱ 【お題枠】

※放送生主さんから、お題を貰って書いてます。

青い空が湖に映る。それを見ている少女はため息をつく。制服姿の少女は十六歳だ。入水自殺のために湖に来た。秋口の寒い湖面を見ていると心も冷えた。自殺するから寒いも暑いも無い。それでも足を進められない。

「死ぬのも気力が必要ね……」

水面が空を映す。綺麗な青空に高い空に雲が見える。反転した世界。そこに進むと空に落ちるような錯覚もある。自殺の原因は単純だ。教室でいじめられる。好きな男子に告白すると断られる。頭が悪いので就職が厳しい。趣味も無い。やる気も無い。生きているのが普通に苦痛だ。混乱している自分を制御できない。楽になりたいから自殺する。

湖面を見ていると落ち葉が大量に浮いていた。葉っぱは、水面下にもたまっている、腐らずに残る。大量の葉が湖の下に埋まっている。

「湖に入ると葉っぱに埋まるのかな?」

私は足を進めた、靴のまま水面の中に入る。私は靴を脱がない。よくあるような靴を脱いで自殺する意味がわからない。私はここ居た。と主張したい?

靴の中に水が入るとしびれたような冷たさを感じる。鼓動は速くなり体を温めようとした。足首まで入る、ふとももまで入る。体温が下がると体に震えがくる。もう戻れない。スカートが水面に広がる。下着が水に濡れる。使命感のような死ぬための決意が、私の中で広がる。死ぬんだ。私は死ぬ。もっと進め。

ふとももに何か触れていた。落ち葉が水中で舞っている。それが触れている?違う。枝が触れている。私は水面を見る。白い骨だ。指の骨が私のふとももを触る。

なでるように触る指の骨は、快感を生む。初めての快感。私は恐怖よりも快感で気が遠くなる。このまま快感に溺れたい。私は胸から肩まで沈めた。なにかがぶつかる。体にぶつかる。見ると大きな鯉が集まっていた。

鯉が私の体をまさぐる。急に私は正気に戻る。手を広げて岸辺に向かって泳ぐ。鯉も一緒に後についてくる。寒気で体が重い。鼓動は私の体を熱くするために速くなる。鯉は岸辺で口を開けている。エサが欲しいらしい。鯉は私がエサをくれると勘違いをして集まっていた。

「おい、なにしている」

近くの宿から中年の男性が来た。私は観光客用の宿につれて行かれると警察を呼ばれる。風呂に入り着替えをして待つ。事情を話すと、骨の話で警察と宿の従業員が顔を見合わせた。

「秘密だけど、ここは自殺者が多いんだ」

ただ死体は上がらない、遺品は岸辺にある。死体を見つけられない。湖の底にたまる落ち葉で捜索が難しい。

「死体は本当にあるのか……」

予算不足のせいか死体の探索はしないと言う。私は両親を呼ばれて家に戻る。学校は行くけど、毒気が抜かれたように私は周囲の事が気にならない。死に触れると、現世の事がどうでもよくなる。あの骨の主が誰なのかも知らない。

ただ気になるのは鯉だ。鯉は単に私を食べに来ただけと思う。結果として私は助かる。死体に群がる鯉を想像した。

終わり

少女と湖



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