SS 熱帯夜の夢【#夏は夜】シロクマシロクマ文芸部参加作品(750文字位)
夏は夜に氷を食べにいく。熱帯夜は湿度が高く蒸し風呂のように不快で眠れない、もう我慢できずに駅前の暗い商店街を目指した。その氷屋は、夜通し店を開いている。中に入ると古びた木製の壁と青白いタイルの床。
「いらっしゃい」
「いつもの」
二十代後半の女性が水色の氷かきのハンドルを回す。カットガラスの器にシャクシャクな真っ白な氷がもりあがる。赤いシロップ、青いシロップ、緑色のシロップ、三色かき氷ができあがり、金属製のスプーンで食べる。
シャクシャクシャク
「冷たい」
シャクシャクシャク
体の芯まで冷える、舌がしびれてゾクゾクする。
「お茶をどうぞ」
にがくて熱いお茶を飲む。この熱さが心地よい。冷える体、暖まる体。交互に繰り返して体の熱がさめていく。
「おいしかったよ」
「今日もする?」
彼女が手を伸ばして腕をつかむ、行き先は氷室だ。中は氷が保存されていて、氷のベッドに女性達が眠っている。一人のボブカットの女性を選んだ。
「彼女で」
「そこでまっていて」
眠る女性の腕を引っ張ると眼を見ひらく。僕を見るとかすかに微笑んで抱きついてきた。冷える体が心地よい、彼女を抱いたままステップを踏んでダンスを踊る。
イチ・ニ・サン イチ・ニ・サン
くるくるとまわりながら体が温まるが、冷えた彼女の体で熱くはならない。
イチ・ニ・サン イチ・ニ・サン
氷室の冷気、自分の体温、彼女の冷えた肌。
イチ・ニ・サン イチ・ニ・サン
もう眠い、もう疲れた、今日もとても良い気分で夜を眠れる。
xxx
「イチ・ニ・サン イチ・ニ・サン」
老いた男がうわごとをつぶやいている、救急隊員は熱中症の彼を助けようとしたが、間に合わなかった。炎天下の路上で彼はゆっくりと熱を失う。
#夏は夜
#夢
#小説
#シロクマ文芸部
#ショートショート
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?