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シロクマ文庫用と青ブラ文学部等の企画参加作品

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企画された作品を置いときます
運営しているクリエイター

#ショートショート

怪談 木の実と少女 【#木の実と葉】#シロクマ文芸部参加作品

 木の実と葉がちらばる深い森の中を少女が歩く。カサカサと草履が地面を踏む。ただ踏むわけではない、足でクルミを探している。 (あった、クルミ)  少女が足で見つけたクルミをカゴの中に入れる。手に持ったカゴには村人が一つずつ食べられるだけの量がある。 「おい」 「はい」  みれば、みすぼらしい子供が手を出していた。 「クルミをくれ」 「探せば、まだあるわよ」 「そのカゴのクルミを全部くれ」 「だめよ、村の人に食べさせるの」 「いいがらぐれ」  子供は大人のような声色で

SS 濃い愛 【#感情の濃度】#青ブラ文学部(700文字くらい)

「…………」  感情の濃度が最高潮の時は声は出ない。ゆっくりと目の前が暗くなり、ナイフで突き殺す。ふいに目の前が明るくなると彼は死んでいた。 「大好きなのに!」 xxx 「好きです」 「……ああ、うん……」  バイト先の休憩室でくつろいでいた彼は驚いた顔をする。とてもかわいい顔で、私は見つめているだけで幸せに感じた。彼が驚いたのは無理もない。年齢が離れているが、かまわない。それからはずっと彼のために尽くした。尽す、言葉で言えば簡単だが、心を込めないといけない。 「

エロ話 痛い! 【#今までで1番痛かった】#青ブラ文学部(360文字くらい)

「今までで1番痛かったってやっぱり、アレだよね」 「アレって?」  初心そうな同級生が、かわいく首をかしげる。 「その……彼氏と……」 「ああ、イタクないよ」 「え?」 「潤滑ジェルをドバドバ使うのよ!」 「ちょっ、声が大きいから」  その声でクラスのちょっとやんちゃな女子が近寄ってきた。私の肩をつかむとぐいぐい揺らす。 「なんだ、痛いのか」 「いや……あの……痛いかなと」 「大丈夫だ、シリコンダイレーターを使え!」 「何それ?」  初心そうな同級生が興味津々だ。

SS 鏡台 【#月の色】#シロクマ文芸部参加作品

 月の色は真綿のように白く見えた、大きな鏡台を庭に置いて月を映す、そして鏡を見つめる。 「何が見えるんだろう……」 xxx  美咲は、大学生の夏休みを利用して祖母が住む鎌倉の古民家に滞在している。大きな鏡台はそこにあった。古民家は、海を見渡す高台に建っており、夜になると窓の外には満月が大きく見えた。その鏡は昭和の初期くらいの古いもので、美咲はとても欲しくて、祖母から鏡台の由来を聞いてみた。 「これかい、古くて歪んでるよ」 「私が見た時はきれいだったけど……」 「これは

SS なつかしい玩具【#懐かしい】#シロクマ文芸部参加作品

 懐かしい……と感じて地面からベーゴマを拾う。黒い三角形の鉄のコマは、友達とよく遊んだ玩具。仲良しだった友達の一人一人の顔を思いだす。 (みんな……どこで暮らしているのか……)  しばらく歩くと、おはじきも落ちている。キラキラしたガラスの塊もなつかしい。妹とつきあいで遊んだ事もあったがルールがよくわからなかった。 (妹は……もう……)  だいぶ前に亡くなった妹は、幸せなのかもしれない。老いた手にベーゴマとおはじきを握りしめる。  南海トラフの震源域で発生した大地震と

SS ミリーのレモネード 【#レモンから】#シロクマ文芸部参加作品

 レモンから果肉をとりだして皮をジャムにするために鍋で煮る。果肉をしぼりレモネードを作り、道で売る。 「嬢ちゃん、一杯くれよ」 「はい」  少女はスラム街でレモネードを売る。危険な場所なのに、誰も彼女に手を出さない……なぜなら彼女は伝書鳩だ。 「ミリー、今日は調子どうだい」 「二十二時に港、三番倉庫」 「レモネードくれ」  十ドルを渡してうまそうに飲み干すのは、マファイアのボスだ。誰が見ても善良な市民が少女からレモネードを買っているようにしか見えない。誰も疑わない……

SS 川船の娼婦【妬いてるの?】 青ブラ文学部参加作品

 大きな花火が打ち上がると小舟で抱き合っている二人を明るく照らす。 「大きいな」 「きれいだね」  隅田川で体を売って暮らす。船饅頭になったのは勘当されたからだ。男は粗末な手ぬぐいで一物をぬぐうと川船に寝そべる。櫓で、こいで船着き場に戻り客を帰す。安い駄賃で、そばを食べるだけの生活。  船を下りて夜鳴きそばを探した。 「一杯ちょうだい」 「あいよ」  三十二文を払って月見にする。黄色のお月さんが、そばのどんぶりで輝く。こんなことで幸せを感じた。 (ああ、おいしい)

★怪談 人魚の恋 【#流れ星】#シロクマ文芸部

残虐です  流れ星が夜の天空を、ゆっくりと右から左に横切る。海面から顔を出して澪は、それを目で追う。海に浮かんでいた男の上半身は、ゆっくりと沈みはじめた。男のどろりとした目は、もう何も見てない。  流れ星は、次から次へと暗い空に白い軌跡を残した。 xxx  漁師の伊之助が澪を助けたのは、容姿に惚れたからだ。 「網にからまったか」 「タスケテクダサイ」  人に捕まれば殺されると教えられた。人魚の肉は不老不死の薬として売られるので当然だ。他の魚を売るのと変わらない。漁

SS 残月 【今朝の月】#シロクマ文芸部

 今朝の月は半月で薄く白く感じる、次郎兵衛は深い山から里に戻るところだ。 「おっかあに肉を食わせるべ」  母親と二人暮らしの彼は猟をして暮らしている。今日は年老いた母のために鹿を殺してきた。里は数軒の家があるだけで、小さな集落だ。 「おっかあ帰った」 「次郎兵衛、良い知らせだよ」  家に入ると薄暗い囲炉裏に白い上品な服を着た女が座っている。 「どなたでしょう」 「お前の嫁さ」  うつむいた顔はやさしげで大人しそうに見える。嫁といってもこんな山奥に人が来る事はまれで

SS 夜の廊下 【花火と手】#シロクマ文芸部

 花火と手蜀をもって廊下を歩く。花火を夜店で買ってきたが、夕飯を食べて少しばかり寝てしまうともう夜中だ。家人には気づかれぬように音をたてずに進む。 (女中のサトも寝てるかな)  子供一人で花火をするのは怒られると思い、サトに頼もうと女中部屋に見ると誰もいない。布団はもぬけの空で厠かもしれない。明日にすればいいのに、どうしても花火を見たくてたまらない。  手蜀のロウソクには火はつけておらず、暗い廊下を忍び足で歩むのは、いけない事をしている楽しさがある。だがおかしい、進んで

SS 秘剣白雪 【夏の雲】#シロクマ文芸部

 夏の雲を見上げて塩をなめる。川原はごつごつとした、こぶしよりも小さな石が敷き詰められている。 「面倒だな……」  真之介は、和紙に包んだ塩をなめながらジリジリとした炎天下で相手を待っている。相手は女武者だ。  話は十日前にさかのぼる。 「冬殿と勝負ですか」 「望みは丈夫なやや子だろう」  父親は、ぼんやりと庭をながめながら十日後に川原で真剣勝負だと告げた。 (そこまで強い男が欲しいのか……)  真之介は、次男で家督を継げない。だから婿養子になるか、長男が死なな

SS 決意【#大予言】ボケ学会のお題参加作品

 客が占いの店に入ると、醜い男が座っている。金色の鎧に包まれた指揮官が男の前に座る。 「いらっしゃい」 「占ってもらいたい」 「なにを占う?」 「戦の行く末だ……」  男が目の前の大きな水晶玉を見つめる。 「予言は、大中小とある」 「どう違うんだ」 「小さい予言は明日の勝敗、中くらいの予言は戦の終わり、大予言はお前の運命」 「では……中予言で」 「お前は戦に勝つ」 「本当か?」 「国は平和の喜びにつつまれる」 「良かった……」  店を出ようとする指揮官に男は声をかける

SS 古屋敷の怪 【風鈴と】#シロクマ文芸部

 風鈴と夏がやってくる。チリンチリンと鳴る風鈴の屋台を引きながら老人が街中で売り歩く。風鈴は音にひかれるように売れていく。 「いい風鈴ね」 「とても良い音ですよ、夜に眠るときにぐっすりです」  涼しげな音色は人を安心させる。老人はゆっくりと裏通りを進むと古くて大きな屋敷が見える。 「おい、風鈴屋、入ってくれ」 「毎度どうも」  老人は風鈴を何個か、みつくろって屋敷の裏口を通って中に入ると、縁側で太った男が着物姿で座っている。 「風鈴をくれ」 「これはいかがでしょうか

SS 神様【#大予言】ボケ学会のお題参加作品

「大予言です」 「大きくでましたな」 「予言つうものは大きくしないと面白くありません」 「確かに、道で十円拾ったなんて予言されても困ります」 「その通り、大きな予言は夢がある」 「ありますな、宝くじが当たるとか夢ですな」 「そんな小さいものじゃない」 「もっとですか? そうですな国の大統領になるとか夢ですな」 「もう君は視野が狭い」 「狭いですか」 「もっとね、宇宙的なスケールですよ」 「大きく出ましたな、そうですな、宇宙人にさらわれてスーパーパワーを持つとか夢ですな」 「小