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シロクマ文庫用と青ブラ文学部等の企画参加作品

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企画された作品を置いときます
運営しているクリエイター

2024年6月の記事一覧

妖怪笑い話 鬼が笑った【#ボケ学会のお題】(1000文字弱)

「こんなこともできないの」  掃除洗濯家事料理、何をしても姑は機嫌が悪い。夫の母親と同居する事になったのは、彼のお父さんが死んで遺産が入ったためだ。一人は不自由だと家に転がり込んできた。 「もういいから」  手で猫を追い払うようにしっしっと手を泳がせる。はじめは仲良くなろうとしたが、姑は変わらなかった。 (遺産のため、遺産のため……)  呪文のように自分に言い聞かせる。いずれ体が動かなくなり施設に入れるまでは、おとなしい妻の演技をしよう。そんな毎日でも、姑が笑う事も

SS 田舎の池【ラムネの音が】シロクマ文芸部参加作品 (940文字位)

 ラムネの音がする。かすかで小さくて聞こえない。栓を抜くとビー玉が容器の中に落ちてくるりと回る。神秘的な蒼い瓶をいつまでも、あきずにながめる。  ラムネの飲み口に耳をよせるとシュワシュワと小さくつぶやくような音が聞こえた。 「――なにかしゃべってるみたい……」 「よう子ちゃーん」  遠くで母が私を呼んでいる。池のほとりでラムネを飲むのが好きだ。池の蒼い色で心がやすらぐ。田舎の舗装されていない農道を、雑草を踏みながら家に戻ると母がにこやかに笑っていた。 「お父さんがおみ

SS お弁当と彼 【#月曜日】#シロクマ文芸部参加作品(1300文字くらい)

 月曜日は日直なので早く家を出る。お弁当を作って登校すると、あの曲がり角で彼がいた。 「よぉ」 「おはよう」  彼はお弁当を見ると、ばつが悪そうに眼をふせる。 「まだ気にしているんだ」 「あの時は悪かった」  ぶっきらぼうな彼と、この角でぶつかって、お弁当を落としてしまった。びっくりしたような彼の顔が面白く私はクスクスと笑った記憶がある。 「今日も学校か」 「当たり前でしょ」  一緒に学校へ歩きながら、不良っぽい背の高い彼はクラスメイトだった。校門の所まで来ると、

SS 笑った娘【隔週警察】#毎週ショートショートnoteの応募用

 夜のガードレルに女が座っている。誰かを待っているようにも見える。 「おい」 「なに……」  男が近づくと胸ポケットから紙巻きを取り出す。女がマッチをすって火をつけた。 「いつまで続けるんだ」 「説教するなら帰って」 「聞いただけさ」 「いつか終わる……」 「文字通りの意味か」 「……」 「なぁ……」 「今日は非番なの」 「ああ……隔週警察さ……」  深夜に見回り、彼女たちを箱に閉じ込める。そんな仕事だ。 「ねぇ、銃ある?」 「俺にそれを言うのか」 「だって売人のは

SS 天才少女の誤算【復習Tシャツ】#毎週ショートショートnoteの応募用

「助手、復習Tシャツができたぞ」 「はぁ……」  ツインテールの少女が助手の男の子を指さす! 見た目はかわいいが超天才のIQ測定不能の彼女は突飛もない発明が好きだ。 「このTシャツを着ると」 「まだ昼ですよ」  白衣をぬぎぬぎしながらスポーツブラ姿になる。だが本人は気にしていない研究のためなら体も捧げる。 「平気よ、あんた子供でしょ」 「同い年じゃないですか」 「このTシャツはね、なにかの事象が起きた後に結果を記述できるのよ」 「なるほど……わかりません」  真っ白

SS 醜聞【#スキャンダル】#青ブラ文学部参加作品

「いいからパンツ脱げよ」  暗い眼をした少女の前に不良生徒が数人とり囲んでいる。不良生徒の中には女子生徒もいる、残忍な顔をして少女に詰めよる。誰も居ない準備室に転校生を呼び出した。 「お前が悪いんだからね、Aとつきあわないから」 「Aって誰なの?」  憤怒の形相でAが少女の肩をつかんでゆする。 「俺だよ、俺、俺を知らないのか?」 「転校したばかりなの、ごめんさないね」 「Aに謝りなさいよ」 「もう、謝ったわ、ごめんなさいって」  暗く冷たい眼が、威嚇する不良を見つめ

SS 戻った男 【#紫陽花を】シロクマ文芸部参加作品 (910文字位)

 紫陽花を手に取りハサミで切り取る。毒はあるが煮詰めれば薬として使えた。  吊られた蚊帳の中で畳の上にあおむけに女が横たわっている。青白い顔で生気がもう無い。 「ケホケホ……」 「姉さん、お薬よ」 「もういいわ……早く死にたい」 「いつも、そればかりね」 「だって苦しいんだもの」 「あの人が帰ってくるわ」 「戻らないわ」  姉の許嫁は、仕官のために武者修行で旅している。剣客として認められれば俸禄をもらい家を持てた。姉と私は戻らないと確信していたが……  雨が降り続き、