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創作民話 関係

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2024年3月の記事一覧

SS つながり【錦鯉釣る雲】 #毎週ショートショートnoteの応募用(450文字くらい)

  錦鯉 釣る雲間に 老爺かな  池を見ている老いた侍。節句の鯉が水面にゆらゆらと泳いでいる。 (子がいれば……)  隣家の鯉は黒と赤で美しい、孫も産まれて安泰だ。 「――跡継ぎが死ななかったら」  自分の子は素行が悪かった、隣家の長男と女を取り合い決闘で死んだ。 (馬鹿な息子だ……本当に馬鹿だ)  老人は池に涙を落とす。 「あの……」  あわてて涙をぬぐうと隣家の嫁が孫を抱いて庭で立っている。 「どうしました」 「赤ん坊を見せたくて……」 「ああ……かわ

SS 夜の蜘蛛【命乞いする蜘蛛】 #毎週ショートショートnoteの応募用(500文字くらい)

 前足をスリスリ、蜘蛛がじっと男の顔を見ている。 「命乞いする蜘蛛か……」  前足をこするのは蜘蛛の習性だ。夜の蜘蛛は縁起が悪いから、よく殺された。男は叩きつぶす手を止める。 「どうぞ、お許しください」  庄屋の旦那が、手を前に出して命乞いする。 「顔を見られたから……」  背中から横腹を突き刺した。男は夜盗だ、夜の蜘蛛は泥棒に入られる縁起が悪い生き物。 (確かに、この家じゃ縁起が悪いな……)  畜生働きをする夜盗は、庄屋から金を盗んで逃げ出すと、どこかで呼子

SS 魯鈍な男 【#一陣の風のように】#青ブラ文学部

 平三は魯鈍な男だ。下働きとして口入れ屋から仕事をもらうと薪割りや掃除をする。 「平三、これやれ」 「平三、のろまか」  仲間内からは馬鹿にされている、頭がにぶくて人の言っていることを理解できない。軽くあつかわれるとイジメもある。飯のおかずをとられるなんてのは普通だ。そんな時でも、平三は黙っていた。  こんな具合なので、女中からも馬鹿にされていた。でも、お道だけは平三にやさしい。 「なんか弟みたいで」  器量は良いとは言えないが、落ち着いて愛想も良い。そんな彼女が店

SS 宝玉【うんこかき】 #爪毛の挑戦状

「松さん、またお願いね」 「あいよ」  威勢のいい声で厠にはいり、長い杓で中身をすくいとって桶に入れる。大事な商品だ。肥桶をかついで百姓に売れば金になる。松にとっては、うんこは宝と同じだ。うんこかきは天職に思える。 (まぁくさいから嫌われるけどな……)  汚れた格好で銭湯にもいけない、匂いで敬遠される。手を洗っても臭い。うんこが金になることは判っても、この職業では嫁をもらう事もできない。  そんな時に、厠の中で、七色の玉をみつけた。 (これは、お宝か……)  便の

SS 丘の上の旗 【#朝焼け】#青ブラ文学部

「これをもってけ」  うす暗闇の中で渡されたのは手榴弾だ。使い方を教えてもらうと洞窟から追い出される。兵隊は、苦しくなったら使えとだけ言い残して、自分は銃をくわえて死んだ。 (そうだ、旗のある場所にいけば、みんながいるかも)  幼い少年は、まだ暗い空の下で丘にある旗を目指す。最初は女先生や同級生と一緒だったが、敵の上陸でみんな死んだ。 「おなかすいたな」  空腹でふらふらする。丘の上には旗がなびいている。銃も置いてある。大事な場所だから、ここを守るための武器だろう。

SS 尼寺にいけ【お返し断捨離】 #毎週ショートショートnoteの応募用

「断捨離、断捨離」  長屋の外で物売りの声がするので、八さんが外に出ると勧進聖がいた。 「物乞いなら、よそでやんな」 「あなたの心の断捨離をいたします」  八さんは、断捨離がわからない。 「何か食えるものなのか?」 「いえいえ、余分なものを捨てて幸せになることです」 「余分な物は、ねえよ」  八さんは自分の狭い部屋を見せる。物なんぞ置く場所がない。 「いえいえ、心の断捨離です」 「心は捨てられないぞ」  心を捨てたら石の地蔵と同じだ。 「いえいえ、余計な心です

SS 石の塔【#暗暗裏】#青ブラ文学部

「おい誰か倒れてるぞ」 「本当だ、起こしてやれ」  男は他人の玄関先で倒れたふりをする詐欺師で、病気だと騙して飯を食って宿にタダで泊まる気だ。 「おいおい。大丈夫か?」 「いえいえ、もう動けません」  道中奉行令により旅行者が病気の場合は、地元の村が金を出して治療する義務があった。 「しかたがない、暗暗裏様に頼むか」 「うむ、そうしよう」  大八車が来ると男を乗せてガラガラと街道から村はずれまで運ばれる。そこは、石組みされた異様な塔だった。 (なんだこれは……)

SS 熱い太陽【満月ガスとバス】 #毎週ショートショートnoteの応募用

「バスが来るのか」  月夜のバス停には、誰もいない。薄暗い照明の下でベンチで休む。どこに行けるのか時刻表を見ると深夜にしか表記がない。行き先は太陽だ。 (遠いな……)    道路が明るくなるとバスが来た。興味があるので小銭を出してバスに乗るとスイスイと空を飛びはじめた。 「お客さん、お客さん」 「なんだい」  車掌が呼ぶので運転席に行くと、燃料がないという。 「燃料の満月ガスとバスメンテのために月に行きます」 「かまわないさ」  ハンドルを月に合わせて満月を目指す

SS 暗い川【ムーンリバー杯参加作品】(改)

 月夜に流れる川は、深く暗く何も見えない。 「おっかぁ、おっかぁ」  おっかぁは川の中に入ったまま出てこない。怖くてさみしくて悲しいけど岸辺で待っていた。いつのまにか寝てしまい朝日で目が覚めると、私の横でおっかぁが立っていた。 「おっかぁ、なんで川に入った」 「なんでもないよ、家はどこだい」  おかしな事に、おっかはまるで記憶が無いのか、家に戻っても家事をいろいろ教えろと言われる。 「おっかぁ、みんな忘れたの? 私も忘れた」 「覚えてるよ、ごはんをもらったよ」