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2024年1月の記事一覧

SS 竹林の宿【新しい】 #シロクマ文芸部

「新しい道か……」  後ろから声が聞こえる。盗賊はしくじった自分を呪う。商人の家を襲って大金をせしめて逃げられると算段したが、警備が厳重すぎた。 (とにかく逃げないと、拷問されて死刑だ……)  自白で罪を認めない限りは有罪にはならない、過酷な拷問は死ねないが体が戻らないくらいに厳しい。  山に逃げ込んだが、後ろから松明の火も見える。追い立てられる恐怖で暗闇の中を手探りで逃げた。いつしか獣道だろうか、踏み固められたような道を歩いている。 (登っているのか……)  山

阿蘇へ (14/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:幸蔵は鬼の王を倒す。 「幸蔵ありがとう」  静が幸蔵の頭をなでる。幸蔵は不思議そうに静を見る。彼はもう彼女が遠くに感じていた。 「解毒丸があったぞ」  仙人が鬼達から薬のありかを聞き出していた。薬を持って故郷に戻る事にする。仙人は白い雲を作ると、みなを乗せて空を飛ぶ。姉の千を助けるために急いでいた。 「解毒丸を早く持っていくだ」 「効能どおりなら助かるだろうが……」  仙人は難しい顔をしながら考えている。万能の薬である仙丹を使えば治せるが人

SS 蟻地獄 

「私を買わない?」 「……やめとく」  ぼんやりとした顔は生気が無い。感情を持たない娘は、冗談を言う雰囲気は無い。まるでコンビニのやる気が無い店員にも見える。発せられた言葉は衝撃的で魅惑を感じる。こんな若い娘から誘いをかけられたのは初めてだ。 「……安くてもいいけど……」    彼女は傷ついている風には感じないが、それでも意外そうな声に聞こえた。断られるとは思って無かったような、とまどい。それよりも自分のような初老の男に声をかける理由がわからない。いや逆だ、若い男の方が危

旅の終わり (15/15) 最終回【幸蔵の旅】

前話 あらすじ:姉を助けるために狻猊に会いに行く  阿蘇の火口からゆっくりとマグマの塊が起き上がる。狻猊は数千年前に、九州の縄文人を滅亡させた、破局噴火を起こした妖怪だった。狻猊は、マグマから立ち上がり、ゆっくりと山頂に立つ。 「わしは世界を破壊するつもりはない」    狻猊は、妖怪達から頼まれて力を与えただけで、人と敵対を望んでいなかった。だいたい人ごときが彼に影響を与える事はできない。 「たまに人のイケニエを与えられたが……無意味だ」  大地の神は自然発生しただ