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旅の終わり (15/15) 最終回【幸蔵の旅】

前話

あらすじ:姉を助けるために狻猊さんげいに会いに行く

 阿蘇の火口からゆっくりとマグマの塊が起き上がる。狻猊さんげいは数千年前に、九州の縄文人を滅亡させた、破局噴火を起こした妖怪だった。狻猊さんげいは、マグマから立ち上がり、ゆっくりと山頂に立つ。

「わしは世界を破壊するつもりはない」
 
 狻猊さんげいは、妖怪達から頼まれて力を与えただけで、人と敵対を望んでいなかった。だいたい人ごときが彼に影響を与える事はできない。

「たまに人のイケニエを与えられたが……無意味だ」

 大地の神は自然発生しただけで、目的があるわけでもない。地の力の偶発的な流れで噴火をするだけの存在だ。

「姉様は……姉様はどこだ」

 幸蔵こうぞうが叫ぶ。狻猊さんげいは、巨大な手を作り自分の腹を指さした。姉は国を救うために半妖の自分をイケニエにしていた。幸蔵こうぞうは絶望を感じながらも、妖怪達に力を与えた狻猊さんげいを憎む。

「仙人様、どうすれば倒せます……」
「地の力が強い、倒すのは難しいが力を使わせて封印しよう」

 仙人は雲を呼ぶと雨を降らせる、猛烈な雨はマグマを冷やすが力は削れない。

「無駄だ、こんな水で……」

 狻猊さんげいは、ゆっくりと体が崩れはじめた。マグマの中の一点の不純物、幸蔵こうぞうの姉が半妖の状態で生きていた。

 イケニエは対象物を封印する、姉は最後の力を使い弟を助ける。

「姉様!」

 幸蔵こうぞうは、近くの川から水を巻き上げると天狗の力で水と風で狻猊さんげいを冷やした。冷えた狻猊さんげいは徐々に固まると大きな山となる。仙人はぽつりとつぶやく。

狻猊さんげいは、マグマから外に出たのがまずかったな」
「姉様……」

 村に戻るとしずかが待っていた、幸蔵こうぞうは、もう人ですらない。天狗の力と仙人の薬で神に近い存在として生きていた。

 幸蔵こうぞうは、しずかと京の実家へ帰ると彼女と一緒に暮らす事にした。長く生きてしずかと幸せな日々が過ぎて、しずかが、天寿をまっとうすると、幸蔵こうぞうも、いつしか姿を見せなくなった。


あとがき
 書き始めた頃は、紆余曲折がありながらの英雄譚にしようとしましたが、構想力不足で中途半端になりました。今回は本にせずに、noteで供養させていただきます。

#昔話
#天狗
#創作民話
#幸蔵の旅


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