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創作民話 関係

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2023年7月の記事一覧

SS スライダーの偉大な滑り方#毎週ショートショートnoteの応募用

 曇天の昼は蒸し暑く汗がにじみ出る。巨大な処刑装置は木製で平衡錘投石機は、城の中に石を打ち込める。元は攻城用の兵器で、今は処刑に使われる。私が捕らわれた時のドレスのままで投石用の台に乗る。死刑執行人が合図を待っている。  死刑には様々な方法がある、石を投げる、首を切る、肉体を痛めつけて血を流させて殺す。一番ポピュラーなものは水死と墜落死だ。道具もいらないので簡単に死ぬ。敵国に捕らわれた私は見せしめで殺される。  籠城している兵士に自分たちの姫が泣き叫び死ぬシーンを見せて戦

旅立ち(01/15) 【幸蔵の旅】

次話  幸蔵が旅に出たのは姉を探すためだ。流行病で村人が減り、父母も死ぬと自分では、生きる術がない。姉は遠い山向こうに嫁いでいる。 「ほったらことむずいべな」 「あねこをさがしてもどる」  村人は止めたが田畑を頼み探しに行くことにする。山には山賊や妖怪がいると噂されていて強い大人以外は安全ではない。しかし幸蔵は子供だし、すばしっこいので自分は平気と自信があった。  食い物は山で取れる、山育ちの幸蔵は竹筒に川の水をくむと一人で山に入った。山道は暗く静かだ。さみしいが気楽

SS 損の一部、真イカ#毎週ショートショートnoteの応募用

「イカ喰いねぇ、イカ喰いねぇ 」 「イカとか気味わるいよ」  パンパンと手を叩く棒手振が長屋の住人を集めている。見れば白くみずみずしいイカが桶の中で一匹だけ売れ残ってた。長屋の女将さん、イカを見ながら顔をそむけている。見かねた長屋の八さんが、買い取り刺身にでもしようかと部屋に戻ると、助けを呼ぶ娘の声がする。 「堪忍してください、助けてください」  イカが声をあげていた。八さんがイカを皿にのせて箱膳の上に置くと、むっくりと起き上がる。 「私は竜宮城に仕える侍女、助けてくれた

SS 木のふりをするのも、もう限界だった。#ストーリーの種

 木のふりをするのも、もう限界だった。お師匠様から習った木遁の術は隠れるための術で木になりきる。動物の擬死と同じで死んだふりだ。 「めっけ、太郎丸が居たよ! 」  でっかい声で椿が叫ぶ。おかっぱ頭の眼のくりくりした女の子が俺を指さす。 「まだまだじゃな、太郎丸、椿も修行を続けなさい」  仙人風の老人が杖で体を支えながらよろよろと立っている。お師匠様も歳で弟子を取るのが難しい、里の幼い子供達を教える事しかできない。 「なんで判ったんだ? 」 「だって太郎丸は、立っているだ

格子の中の娘(02/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:姉に会うために山を越えようとした幸蔵は山賊に捕まる。  その日は、山賊達は上機嫌だ、酒を飲み、今日の獲物から酒樽を奪ったと騒いでいた。宴で大騒ぎの山賊は油断していたのだろう、みなが眠ってしまう。幸蔵は寝たふりをしていたが、夜半に起き出すと娘を探す。 「ここにおったか?」  森の中で少しだけ開けた場所があり、地面に穴が掘られていた、上には格子戸がかぶせてある。娘の力では持ち上がらない。 「私の事はいいので逃げてください、私は旅人を油断させる役目があ

SS 食べる夜 #シロクマ文芸部

 食べる夜が近づいてくるのは本能で判る。 「もう別れようか? 」  蛍光灯の下で見る男の顔は幽霊みたいに青白い。もちろん本物は見たことは無いし居るわけも無い。冷たく汗ばむ体から体温が急激に下がる感覚、見捨てられる事の恐怖よりも生理的なさみしさで体が小刻みに震える。この感覚になれるとは思えない。 「飽きた? 」 「そうだな、体が冷たすぎる」  私は体温が低い。肌を合わせても、お互いの肉の冷たさばかりを感じる。それでも私は男の熱が欲しかった。男を食べたい、夜に食べたい。狂う

SS 響く礼節をペンペンしてみる#毎週ショートショートnoteの応募用

 私はレディに生まれ変わっていた。図書館の本の虫だった私は超有名なライトノベルの新作を楽しみにしていた。そこで事故った。本屋にファンが殺到してエレベーターが停止して巻き込まれて死んだ。 「読みたかったなぁ」  流行の転生ものだ、自分が悪役に生まれ変わる不思議な話。悪役だとヒロインから命の狙われる危険もある。そこを上手に回避してハッピーエンド、それが楽しい。 「この服は? 」  私は寝室で横になっていたが、西洋風のベッドで、私はナイトドレスを着ていた。明らかに私の居た世界と

SS 最後のおつかい #ストーリーの種

「最後のおつかいだよ」  手渡された握り飯を手に持って家を出た。十歳になると村の風習で子供を山に送り出して山の神様に挨拶をさせるのが習わしだ。山頂に登り藁葺き屋根の村を見下ろすと、霧が濃いのかよく見えない。ゴホゴホと咳が止まらない。体が弱いのか僕は両親から疎まれていた。 「最後かぁ……」  山の神様に出会えない子供は殺される。そんな噂がある。年上の何人かが消えたことがあるが、誰も何も言わない。村人に殺されたのだろうか? 「神様いますか! 」  声を出して探す、元からどう