創作したのに著作者じゃないの?!|著作者の要件の話
先日のオリンピックの開会式。入場行進では、日本を代表するゲームミュージックが使われましたね。
しかし、SNS上で著作権侵害の心配の声が上がっていたことをご存知でしょうか?
この騒動の発端は、入場行進で流れた「First Flight」の作曲者である小林啓樹さんのツイート。
あれっ!? 俺の曲がオリンピックで流れてる(笑)
いやぁ、ほんとに知らんかった。手震えたわ
これをみた一部のファンからは、「作曲者に連絡入れずに使っていいの?」「無断使用なら、著作権の侵害では?」というリプライが寄せられていました。
その後、小林啓樹さんは、
今回使われた楽曲「First Flight」は、私がかつて会社に雇用されていた時に作ったものです。社員として作った成果物ですから、全ての権利は会社にあります
私へ事前連絡がなかったのは事実ですが、かつて所属していた会社へは、当然ながら事前の連絡が入っているはずです。運営側としての手続きとしては、間違っているところは一切なく、なおかつ十分なのです
と説明。しかし、作曲者が著作者でないことに、いまいちピンと来ていない人もいるのではないでしょうか?
そこで、今回は「著作者の要件」についてご紹介します。
そもそも、「著作者」の定義とは?
著作権法第2条では、著作者とは「著作物を創作する者」だと定義されています。
著作者に生じる権利は、特別な申請をせずとも、創作と同時に自動的に発生します(著作権法17条)。
著作者の権利については、こちらのnote記事をご確認ください。
複数人で創作したものはどうなるの?
複数人で創作した場合、著作者はどうなるのでしょうか。
3つのケースをみてみましょう。
◯創作物が分割できる場合
創作物が分割できる場合は、要素ごとに著作者が設定されます。
例えば音楽の場合、歌詞の著作者と楽曲の著作者が存在します。
◯創作物が分割できない場合
創作物が分割できない場合、「共同著作物」に該当します(著作権法2条)。
創作した全員が著作者となり、権利を共有する形をとります。
分割できない例としては、複数の作曲家が議論しながらひとつの楽曲を創作した場合が挙げられます。
著作権の譲渡や利用の際には、全員の承諾が必要です(著作権法65条)。
◯映画の場合
映画の著作者になれるのは、「全体形成に創作的に寄与した者」だと定義されています。
つまり、原則としては、映画プロデューサーもしくは映画監督が著作者になるということです。
しかし、著作権者(映画プロデューサーもしくは映画監督)が映画制作者(映画会社など)に対して、映画制作への参加を約束している場合には、著作財産権は映画製作者に属します(著作権法29条)。
大勢のスタッフが関わる映画の制作では、全員を著作者として認めてしまうと、権利上の不便が生じるために、このような特別な規定が設けられているのです。
会社の従業員が創作したものはどうなるの?
会社の従業員が仕事として創作すると、「つくった人」が著作者にならないこともあります。
これは、「職務著作(法人著作)」という制度で、著作権法15条に記載されています。
法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
著作権法15条
わかりやすくまとめると、4つの要件があります。
・法人等の発意に基づくこと
・法人等の業務に従事する者が職務上作成すること
・法人等が自社の名義のもとに公表すること(※プログラムの著作物は例外)
・作成時に、従業者を著作者とするといった契約等の特別な定めがないこと
この要件を満たした場合、「つくった人」ではなく「法人(会社)」が著作者になります。
著作財産権はもちろん、著作者人格権も会社のものです。
自分が創作したものだからといって、会社の許可を取らずにネットに載せたりするとトラブルになる可能性もあります。
くれぐれも注意してくださいね。
*まとめ
今回は、「著作者の要件」についてご紹介しました。
【原則】
著作者は、著作物を創作した本人である。
◇複数人で創作した場合
分割できるなら、要素ごとに著作者を設定する。
分割できない場合は、「共同著作物」として扱い、著作者の権利を共有する。
【例外】
◇映画の場合
全体形成に創作的に寄与した者(映画プロデューサーもしくは映画監督)が著作者となる。
◇職務著作の場合
次の要件を満たした場合、法人(会社)が著作者となる。
・法人等の発意に基づくこと
・法人等の業務に従事する者が職務上作成すること
・法人等が自社の名義のもとに公表すること(※プログラムの著作物は例外)
・作成時に、従業者を著作者とするといった契約等の特別な定めがないこと
ということを押さえておきましょう。
これらを踏まえると、最初に紹介した小林啓樹さんの件は、「職務著作にあたるから、会社に使用許可を取ればOK」ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。
著作権制度について大まかに知りたい人は、文化庁の「著作権制度の概要」をぜひ読んでみてください。
著作者の権利や著作物の利用方法などについてわかりやすくまとめてあります。
特にクリエーターの皆さん。
自分の権利を守るためにも、著作権法についてしっかりと学んでおきましょう!
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