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状況Aを状況Bへ変革する。それがキャッチコピーのいちばんの使命。

ライターの方でも、キャッチフレーズを書くのが苦手という方は多いですね。「見出しを書く時とは使っている頭が違う気がします・・・」。そういう声をよく聞きます。

そして、それはほぼ事実なのです。コピーライターはキャッチコピーを書く時に、実は文章の流れはまったく考えていません。そもそも文章の感覚は皆無で、言葉だけを拾い上げている感覚です。

役割、あるいは目的が違うことをしていると言ってもいいでしょう。ひとつの例をあげて話をします。

コピーライターの名人・眞木準さんに「踊れるバーバリー。」というキャッチフレーズがあります。1997年当時、バーバリーはトラッドなブランドで、イギリスの紳士淑女が着ているもの、普通の人にはいいものだとは思うが手が届きにくいもの、でした。40代になりたての僕も、やっとバーバリーの財布を手に入れて、ちょっと自慢げにしていたものです。このブランドに自由でカジュアルなサブ・ブランド<ブルーレーベル>が誕生しました。そのデビュー広告のキャッチフレーズが「踊れるバーバリー。」だったのです。

もうお分かりだと思います。時代は動いていました。若者を中心とした生活者が、のびやかに生きよう、自分らしさを大事にしよう、いろんな価値観を持とう、そうした「新しい意志」を持ち始めていたのです。ブルーレーベルはその新しいターゲットを獲得するために、古いマーケットを変革するミッションを持って生まれたのです。

状況Aを状況B へと変革する。その変革のベクトルを作るのがキャッチコピーの役割であり、目的です。理解しやすいように伝える、中身がわかるように伝えるという見出しのセンスでは、かなり足りません。

キャッチコピーは、メッセージなのです。文章ではなく、それを見た人間が行動を起こすためのトリガーなのです。

「踊れるバーバリー」はインパクトを持って、ファッションのマーケットに受け入れられ、状況を変えていきました。たった8文字の言葉で、です。

そのたった8文字に凄まじいチカラが宿っていたのです。

眞木さんとは仕事をしましたし、夜、青山の歩道で「黒澤くん!」と呼び止められて、行きつけのお洒落なバーに連れて行ってもらったこともあります。そう、そこでコピー談義に花を咲かせましたね。遠いような近いような夜のことです。

10年ほど前、眞木さんは若くしてこの世を去りました。突然でした。博報堂の先輩コピーライターのなかでも、眞木さんはきらめく星のようなコピーライターで、きらめく星のようなキャッチコピーをこの地上に数多く残しました。

ブルーレーベルの続編広告のキャッチフレーズです。

バリバリのバーバリー。

うまいなぁ。心がバリバリと自由になって、踊り出したくなります。


(おわり)


*写真は、青山の宣伝会議があるビルから見た、東京タワーとビルと青空。この界隈には、デザイナー、コピーライター、カメラマン、スタイリスト、モデルなどの事務所が多くあり、夜はそんな人間たちであふれていました。今はどうなのでしょうか。

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