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広島東洋カープのファンが増えた時期と理由について

 今や人気球団の1つとなった広島東洋カープ。広島市民球場時代は空席をバックに投球をする黒田博樹さんの姿が印象的で、黒田さん自身も現役の最後にカープに復帰して、毎試合のように満員になるカープファンの声援を受けて、25年振りのセ・リーグ制覇を果たすとは思っていなかったかもしれません。

 カープ戦となれば、日本全国どこの球場でもカープの応援席が真っ赤に染まるようになりましたが、実際いつからカープファンが増えたのか、その理由も含めて今回は考えていきます。

◯関東はセ・リーグの球団を応援する環境が整っている

 カープファンの観客動員力が注目されるようになった要因として、MAZDAスタジアムの観客動員数よりも、関東で開催されるカープ戦の観客動員数が増えたことのほうが大きいのではないでしょうか。関東でカープファンが増えた理由として、セ・リーグ各球団の立地が大きく関係していると私は考えています。

 2023年現在、セ・リーグは読売ジャイアンツ・東京ヤクルトスワローズ・横浜DeNAベイスターズ・中日ドラゴンズ・阪神タイガース・広島東洋カープの6球団で構成されており、3球団が関東に本拠地を構えています。2023年シーズン、カープは東京ドームで10試合、神宮球場で12試合、横浜スタジアムで12試合、ZOZOマリンスタジアムで3試合、合計37試合を関東で戦っています。間近で観戦できる機会がこれだけあるため、本拠地が関東の球団ではなくても、関東ではセ・リーグの球団のファンが増えやすい環境だといえます。

◯生え抜きの選手が多く、応援しがいがある

 今でこそ多くの観客を動員できるようになり、資金力がついたカープですが、かつてのカープは貧乏球団の代表的は存在で、多くのOBが広島市民球場の劣悪な環境について語っています。カープは他の球団とは違い、親会社を持たないため、自力で経営をしなければなりません。赤字になったからといって親会社の資金を投入することができず、赤字=倒産が十分にあり得る状況のため、FA権を取得したカープの選手を無理に引き止めることはせず、当然、他球団のFA宣言した選手の獲得に名乗りを上げることもほぼありませんでした(現在はFA権を取得したカープの選手の残留、FA移籍ではないものの、秋山翔吾選手を獲得するなど、状況は変わってきています)。その分、生え抜きの若い選手がチームの中心になりやすい環境にあるため、カープが応援のしがいがあるチームであることは間違いありません。

◯プロ野球唯一の赤のチームカラー、映えとの相性が抜群

 他のスポーツでは赤をチームカラーにしているチームは多いのですが、プロ野球(NPB)ではチームカラーが純粋な赤なのはカープしかありません(東北楽天ゴールデンイーグルスはクリムゾンレッドがチームカラーのため、純粋な赤ではないと私は思っています)。

 しかし、カープは赤がチームカラーという唯一無二の魅力を昔から持っていたにも関わらず、ビジターユニフォームの色はグレーや水色など、赤以外を基調としていた時代が長く、その強みをあまり活かせていませんでした。その状況が変わったのが2009年シーズンです。この年からカープのビジターユニフォームは赤を基調としたデザインに変更、MAZDAスタジアムの開場もあり、チームのイメージが大きく変わりました。また、当時はSNSが世の中に浸透してきた時代だったため、赤いユニフォームを着用してカープを応援して、それを世の中へ発信すること自体に価値が出てきました。一時期に比べるとカープ女子と呼ばれる人は減ったのかもしれませんが、2023年現在でもカープを応援する女性ファンが数多く球場へ足を運んでいます。ユニフォームの変更、マツダスタジアムの開場、SNSの浸透が重なったことでカープを応援するファン、その中でも女性ファンが増えたのだと思います。

◯実際、いつからカープの観客動員数は増えたのか

 ここでは具体的にいつからカープの観客動員数が増えたのかを考えていきます。まずは2009年以降のMAZDAスタジアムの観客動員数を見ていきます。MAZDAスタジアムの開場以来、常にカープは満員の観客を動員していると思っている人もいるかもしれなせんが、そんなことはありません。以下は2009年〜2016年に開催されたカープの主催試合の年間観客動員数と1試合平均の観客動員数です(※MAZDAスタジアム以外の球場で開催した主催試合も含みます)。


2009年 1873046人(1試合平均26015人)

2010年 1600093人(1試合平均22224人)

2011年 1582524人(1試合平均21980人)

2012年 1589658人(1試合平均22079人)

2013年 1565598人(1試合平均22051人)

2014年 1904781人(1試合平均26455人)

2015年 2110266人(1試合平均29722人)

2016年 2157331人(1試合平均29963人)


 2009年こそ新球場バブルで多くの観客を動員していますが、2010年からの4年間は1試合平均22000人前後に落ち着き、広島市民球場時代よりは多くの観客が球場へ足を運ぶようになったものの、この時期はまだ人気球団といえる状況ではありませんでした。

 2014年のカープは5月終了時点まで首位を快走、23年振りのリーグ優勝が現実的にあり得る状況でしたが、交流戦の9連敗が響き、優勝争いから脱落。しかし、最終戦まで2位の可能性があった中での3位だったこともあり、大きく観客動員数を伸ばしました。

 そして迎えた2015年、カープが人気球団に変貌したのはこの年です。チームのスター選手であった緒方孝市さんの監督就任、新井貴浩さんのカープ復帰、前田健太投手のカープ最終年(シーズン前の段階で2016年からMLBへ移籍することが確実視されていました)、何といっても黒田博樹さんのMLBからのカープ復帰、ファンの優勝への期待が最高潮に達した2015年は春季キャンプ開始前の段階でMAZDAスタジアムの年間シートが完売、MAZDAスタジアムで開催されるカープ戦のチケットを確保することが難しくなったのはこの年からです。

 では、他の球場でカープファンの観客動員数が増えたのはいつからなのでしょうか。2009年〜2016年に神宮球場で開催されたスワローズVSカープの試合の観客動員数を見ていきます。


2009年 165031人(1試合平均16503人)

2010年 183077人(1試合平均15256人)

2011年 194278人(1試合平均19428人)

2012年 234809人(1試合平均23481人)

2013年 279707人(1試合平均23309人)

2014年 263886人(1試合平均21991人)

2015年 364231人(1試合平均30352人)

2016年 309134人(1試合平均25761人)


 年別の観客動員数を見ると、2012年に大きく増えていることが分かります。2009年〜2011年の3年間に神宮球場で開催されたスワローズVSカープの試合の1試合の最多観客動員数は2011年10月9日(日)の27405人だったのですが、2012年は5月4日(土)・5日(日)に33000人以上を動員しています。関東で開催されるカープ戦の観客動員数が増えていることがメディアでも注目されるようになり、2013年9月30日にNHKで放送された『ニュースウォッチ9』で首都圏でカープを応援しているファンについて特集が組まれました。カープ女子という言葉が使われたのはこの時からだとされています。

 2014年は2012年・2013年と比べると観客動員数が下がっていますが、実はこの年に神宮球場で開催されたスワローズVSカープ戦は全て(火・水・木)に開催されました。それでも1試合平均で20000人以上を動員できるのは以前のスワローズVSカープ戦では考えられなかったことです。

 カープ戦の観客動員数が増えたことで他球団のカープに対する姿勢も変化しています。スワローズは2012年シーズンまではスワローズ主催のカープ戦を年間数試合は愛媛県松山市の坊ちゃんスタジアムで開催する年が多かったのですが、2013年〜2020年、2023年は全て神宮球場でカープ戦を開催しています。神宮のカープ戦は多くの観客動員数が見込めるため、他の球場でカープ戦を実施することが減っているのだと思います。

 MAZDAスタジアムの観客動員数、神宮球場でのスワローズVSカープ戦の観客動員数を見ると、2012年に広島県内よりも先に関東でカープファンが増えて、2014年に逆輸入的に広島県内でもカープファンが増加、黒田博樹さんのカープ復帰が決定的なきっかけとなり、2015年に正真正銘の人気球団に生まれ変わったというのが私の意見です。

◯カープに今後取り組んでもらいたいこと

 多くのファンに愛される球団となったカープですが、私はカープの取り組みに関して改善してもらいたいことがあります。チケットの販売方法などいくつかあるのですが、1つに絞るなら、ビジターチームに対する配慮が足りないと感じる出来事が多いことです。

 例えば、2018年9月24日、MAZDAスタジアムで開催されたカープVSベイスターズ戦、この試合に勝てばカープはセ・リーグ3連覇、直近2年間は実現できなかった地元での胴上げが決まるということで、当日は満員のカープファンが詰めかけていました。しかし、試合はベイスターズに逆転負け。何と試合終了の約5分後、ベイスターズの選手のヒーローインタビューをすることもなく、ナゴヤドームで開催されているドラゴンズVSスワローズの試合映像を流し始めたのです。これに関して、カープ側がベイスターズ側に事前に話をつけていたという報道もあるのですが、そもそも、そのような要望を出すこと自体が失礼ですし、ベイスターズが勝利した場合にヒーローインタビューを実施しないことは観客にも周知がされていなかったようです。

 プロ野球は相手チームがあって成り立つことですし、SNSが浸透している現代ではこのような出来事はすぐに拡散されます。このような配慮の無さが続けば、MAZDAスタジアムへ足を運ぶビジターチームのファンはどんどん減っていくと思います。今はカープファンの動員だけでも満員にできるでしょうが、今後カープファンが減った場合、マツダスタジアムへビジターチームのファンが足を運ばない球場という状況になってしまえば、最終的にはカープが損をすることになります。

 私はライオンズファンなのですが、ベルーナドームでカープとの交流戦を開催する時は本当にたくさんのカープファンが足を運ぶため、ライオンズは運営の面でカープにかなり助けられていますし、「カープファンに負けないように応援に行かないと!!」という思いでカープ戦に足を運ぶライオンズファンもいます。2009年・2010年は西武ドームでカープとの交流戦を合計4試合開催したのですが、4試合全てで31000人以上を動員しました。「なんでこんなにカープファンがいるの!?」と当時は思いましたが、この時からカープファンは確実に増えていたのだと思います。

 多くのビジターチームのファンが楽しくマツダスタジアムへ足を運べる環境を作り、他球団のファンにとってもカープが魅力ある球団になることができれば、プロ野球がさらに盛り上がるはずです。


◯出典
・広島東洋カープ 公式サイト 2023年10月10日
https://www.carp.co.jp/

・プロ野球Freak 2023年10月10日
https://baseball-freak.com/

・『ニュースウォッチ9』2013年9月30日(NHK)

・J CASTニュース 配信 2018年9月25日
https://www.j-cast.com/2018/09/25339507.html?p=all


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