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ベイスターズが人気球団に生まれ変われた理由

 私は1999年から野球を観るようになりました。前年の1998年に横浜ベイスターズは38年振りのリーグ制覇と日本一を達成、1997年〜2001年まで5年連続でAクラスになった当時のベイスターズに対して、強いチームという印象がありました。実際、当時はライオンズファンになるか、ベイスターズファンになるかで迷うくらい、ベイスターズには魅力を感じていました。この時期は阪神タイガースが低迷期真っ只中だったこともあり、甲子園球場で開催されるタイガースVSベイスターズの試合はタイガースファンのほうが圧倒的に数は多いものの、ベイスターズファンのほうが勢いがあり(当時のベイスターズの応援歌が名曲揃いで応援団の演奏が上手かったのも大きいと思っています)、レフトスタンドの一角はいつも盛り上がっていました。

 しかし、2002年以降、ベイスターズは長らく低迷期を迎えます。低迷期というよりも暗黒期という表現のほうが的確でしょうし、当時からベイスターズを応援し続けている人に対して、球団は何かしらの表彰をするべきだと私は思います。おそらく、ここ10年間でベイスターズファンになった人や野球を観るようになった人は当時のベイスターズの悲惨な状況をイメージしにくいと思いますので、まずは当時のベイスターズを振り返っていきます。

◯ベイスターズ暗黒期を象徴する3つの出来事


①2002年〜2015年までの14年間で10度の最下位、4度の年間90敗以上、Aクラスは2005年の1度のみ。

②特に2008年〜2011年は4年連続の最下位(2008年〜2010年は90敗以上、2011年は86敗)に沈む。

③2011年に主催試合での観客動員数が1102192人で12球団最下位。

 ①と②についてはこれ以上説明のしようがない悲惨なことなので、割愛します。問題は③です。これが横浜に本拠地を置くセ・リーグの球団が記録してしまったということを忘れてはいけません。

 例えば、埼玉西武ライオンズは2011年に主催試合で1591651名の観客を動員しました。ライオンズは所沢のアクセスが非常に不便な場所に本拠地があります。一方、ベイスターズは横浜の中でもアクセスが非常に便利な場所に本拠地があります。市の人口で比べても、2011年の所沢は343103名、横浜は3686481名と横浜は所沢の10倍以上の人口があります。街のポテンシャルを考えれば、ベイスターズが横浜の街から大きく見放されていたことが分かります。しかも、ベイスターズは年間を通して横浜スタジアムで動員力のあるジャイアンツやタイガースとの試合があり、ドラゴンズがリーグ優勝を決めた試合も横浜スタジアムでの試合でした。これだけの要素がありながら、観客動員数がパ・リーグの球団にも負けていたのです。しかし、2023年現在、ベイスターズは多くの試合で満員御礼となり、球場のキャパシティに対する動員力では12球団の中でもトップクラスを誇ります。ベイスターズが人気球団に生まれ変わり、横浜の街で愛されるようになった要因は何だったのかを考えていきます。

◯ベイスターズが人気球団へ生まれ変われた大きな要因

①それでもこだわった横浜の地

 2011年のシーズン終了後、ベイスターズの親会社を担っていたTBSがベイスターズを手放し、ディー・エヌ・エー(DeNA)がベイスターズを買収して、運営をしていくことになりました。DeNAの存在がベイスターズを人気球団へ生まれ変わらせる大きな転機になったのは間違いありませんが、今思えば横浜から球団を移転させなかったことは超ファインプレーだったと思います。

 現在ではDeNAがベイスターズを運営する企業として、多くの人に認知されていますが、2011年のシーズンオフ、ベイスターズ買収へ向けて最初に動き出したのは別の企業でした。それは住生活グループです。しかし、TBS側から出された条件の中に本拠地を横浜スタジアムから移転させないことが含まれていました。住生活グループはそれでもベイスターズ買収に前向きだったのですが、社内の検討チームから「本拠地が横浜スタジアムではダメだ。現状のかたちでは誰がやっても上手くいかない。」という報告があり、結果的に住生活グループによるベイスターズ買収は幻となりました。当時は住生活グループに対して「実は最初からベイスターズを買収する気はなく、売名行為だったのではないか」という批判がありましたし、正直、私も良い印象を持ちませんでした。しかし、現在では住生活グループがベイスターズ買収を断念した背景を理解できます。実際、当時のベイスターズが横浜スタジアムと結んでいた契約でベイスターズが利益を上げるのは不可能でした。年間約8億円の使用料、看板広告や物販収入などの収入のほぼ全てがスタジアム側にしか入らない、この契約では横浜スタジアムで主催する全ての試合で満員の観客を動員しても、ベイスターズが黒字を出すのは不可能だったそうです。

 そのような条件を一旦受け止めて、横浜の球団として運営を続けたDeNAは凄いと思います。そして、DeNAは自らの力で利益が出せる体制を作り、ベイスターズが横浜で愛される人気球団へ生まれ変わらせていきました。

②2016年1月にDeNAが横浜スタジアムに対して有効的TOBを実施、球団とスタジアムの一体運営を実現

 DeNAはベイスターズを買収後、家族や友人、会社の同僚などグループで観戦を楽しむことができるボックスシートやパーティースカイデッキなどの座席を横浜スタジアムに新設、YOKOHAMA STAR☆NIGHTなど様々なイベントの実施、魅力溢れるグッズの商品開発など多くの取り組みにより、2015年シーズンはチーム成績こそ最下位に沈んだものの、年間71試合の主催試合のうち、大入りが43試合、22試合がチケット完売と集客面でも確実に成果を上げました。しかし、それでも球団の赤字は3億円。買収当時の30億円と比べれば、大幅に減らすことができましたが、当時の横浜スタジアムとの契約ではこれが限界でした。そこでDeNAは2016年1月に横浜スタジアムを有効的TOBにより、球団とスタジアムの一体運営を実施していく礎を築くことができました。そこから、座席をオレンジ色からチームカラーの青色へ変更、ウイング席の設置によって収容人数が28966名から34046名にアップ、球場を一周できる回遊デッキやバリアフリー化などの改修を実施して、スタジアムの魅力を上げました。そして、球団とスタジアムの一体運営によって、スタジアムに入る収入が球団にも入るようになりました。その結果、宮崎敏郎選手や山﨑康晃投手など、複数年契約でチームに残留をする主力選手が増えて、良い循環が生まれるようになりました。

 今では魅力溢れるスタジアムを球団が運営することで観客動員を増やし、経営を安定させて、主力選手の残留や他球団の選手や外国人選手を補強するというのは誰でも思い浮かぶ発想ですが、DeNAがベイスターズを買収した当時はその考えが日本ではまだ浸透していませんでした。当初はよく分からないIT企業がベイスターズを使って、儲けようとしているだけだと煙たがられたり、批判に晒されることもあったはずです。横浜スタジアム側からも最初から前向きな姿勢で見られていたわけではなかったことは容易に想像できます。しかし、2012年〜2015年の間に大きく観客動員をアップ、横浜の街で愛される球団へ生まれ変わらせたこと、横浜スタジアムや株主へ地道な説明を何度も実施して、前向きなかたちでTOBを実施したことで球団とスタジアムの一体運営を実現させることができたのです。


◯出典
・セントラル・リーグ 年度別入場者数(1950〜2022) 2023年4月24日
https://npb.jp/statistics/attendance_yearly_cl.pdf

・パシフィック・リーグ 年度別入場者数(1950〜2022) 2023年4月24日
https://npb.jp/statistics/attendance_yearly_pl.pdf

・横浜DeNAベイスターズ年度別成績(1950〜2023) 2023年4月24日
https://npb.jp/bis/teams/yearly_db.html

・埼玉県所沢市年次別世帯数人口調書 2023年4月24日
https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/shiseijoho/data/jinkou/jinkoutoukei/nenjibetu.files/nenjibetu0412.pdf

・横浜市人口ニュース No.1016(平成23年4月1日) 2023年4月24日
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/tokei-chosa/portal/jinko/maitsuki/kako/h23news.files/1104-j.pdf

・東洋経済ONLINE 露と消えた横浜ベイスターズ買収、住生活グループの次の一手--潮田洋一郎会長 2023年4月24日
https://toyokeizai.net/articles/-/5395

東洋経済ONLINE なぜDeNAの観客数は3年で42%伸びたのか 横浜DeNAベイスターズ・池田純社長に聞く 2023年4月24日
https://toyokeizai.net/articles/-/52011

・東洋経済ONLINE「横浜スタジアム」は、どう変わっていくのか 球団・スタジアム「一体運営」の狙いとは? 2023年4月24日
https://toyokeizai.net/articles/-/103656


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