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劇場版『名探偵コナン』が100億円コンテンツになるまで

※劇場版最新作以外のネタバレが一部含まれますので、ご注意ください。

 劇場版『名探偵コナン』の最新作、『黒鉄の魚影』の興行収入が6月12日時点で128億円、観客動員数は904万人を突破、現在もその数字を伸ばしています。子どもから大人まで多くのファンに愛される大人気コンテンツになりましたが、1997年に公開が開始された劇場版『名探偵コナン』シリーズは最初からこれほどの動員力があったわけではなく、人気が下降した時期もありました。低迷期を乗り越え、どのようにして100億円コンテンツへ上り詰めたのかを今回は考えていきます。

◯第1作〜第9作 人気コンテンツから低迷期へ

 『名探偵コナン』は1994年に『週刊少年サンデー』で連載が開始され、アニメは1996年に放送開始、劇場版は1997年に第1作目となる『時計仕掛けの摩天楼』が公開されました。『時計仕掛けの摩天楼』の興行収入は11億円、観客動員数は100万人、これが劇場版『名探偵コナン』シリーズのスタートでした。その後、着実に興行収入と観客動員数を伸ばしていき、2002年に公開された第6作『ベイカー街の亡霊』では興行収入34億円、観客動員数294万人を記録しました。しかし、ここから興行収入と観客動員数は下がっていき、2005年に公開された第9作『水平線上の陰謀』では興行収入21.5億円、観客動員数185万人と3年間で興行収入−12.5億円、観客動員数−109万人と人気は下降線を辿りました。

 ここでポイントになるのは、映画の評価と興行収入・観客動員数が必ずしも一致しないということです。『水平線上の陰謀』は小五郎のおっちゃんがコナンの推理を上回って事件を解決するという今までにない展開だったこともあり、おっちゃんのファンの方達からの人気が高く、私も個人的にとても好きな作品です。少なくともここまで興行収入と観客動員数が低迷するようなストーリーではないと思っています。

◯第10作〜第17作 単発でのヒットはあるものの迷走期へ突入

 2006年に公開された第10作「探偵たちの鎮魂歌』は劇場版10周年ということもあり、多くの主要キャラクターが出演、宣伝にも力を入れたため、興行収入30.3億円、観客動員数255万人を記録、2009年に公開された第13作『漆黒の追跡者』では黒の組織との対決を全面に押し出したことで話題となり、興行収入35億円、観客動員数298万人を記録、これまで興行収入、観客動員数が1位だった『ベイカー街の亡霊』の記録を7年振りに塗り替えました。しかし、この時期は大きな低迷こそしないものの、興行収入と観客動員数は頭打ち、ストーリーも長距離からサッカーボールを蹴って、ボールを受話器に当てて外し、発声によって110番に電話をするという物理的に可能ではあるが「・・・」なシーンがあったり、棒読みのJリーガーを声優として起用するなど、作品の方向性が迷走していました。

◯第18作〜第25作 作品ごとにメインキャラクターを据えて、リピーターを増やして、作品を応援するスタイルへ

 劇場版『名探偵コナン』の転機になったのは2014年に公開された第18作目『異次元の狙撃者』だと思います。この作品はメインキャラクターこそいなかったのですが、当時は生きていることが明かされていなかった赤井さんが回想シーンで出てきたり、昴さんの正体が赤井さんだということが分かる作品となっており、赤井さん・昴さん推しのファンの方達が何度もリピートして、劇場へ足を運んだことが興行収入41.1億円、観客動員数334万人と当時の劇場版『名探偵コナン』シリーズの最高記録に繋がったのだと思います。これ以降、劇場版『名探偵コナン』シリーズは怪盗キッド、安室さん、服部平次などをメインキャラクターに据えるというスタイルへ明確に変わりました。これによって、推しのキャラクターがメインとなる作品を人気作品にするために何度も劇場へ足を運ぶリピーターが増えて、劇場版『名探偵コナン』シリーズの興行収入が一気に上昇、2018年に公開された第22作目『ゼロの執行人』では興行収入が初めて90億円を突破、2019年に公開された第23作目『紺青の拳』では観客動員数が初めて700万人を突破する大ヒットコンテンツになりました。

◯最新作 劇場版『名探偵コナン』シリーズ初の興行収入100億円突破に導いた灰原哀の魅力とは

 2023年、最新作となる『黒鉄の魚影』は6月12日時点で興行収入128億円、観客動員数は904万人を突破、共に劇場版『名探偵コナン』シリーズの最高記録を達成しています。最新作のメインキャラクターは灰原さんです。『名探偵コナン』は赤井さんや安室さんの影響もあり、ある時から女性ファンが一気に増えて、ORICONの調査によると、2019年の段階で7割は女性ファンが占めるとされています。そのため、男性キャラを劇場版のメインキャラクターに据えることが多かったのですが、今回は灰原さんをメインに据えた初めての作品となりました。これは『名探偵コナン』のファンにとって、待望の作品だと思います。灰原さんは女性からも男性からも人気があり、「コナン(新一)は蘭ではなく灰原さん(宮野志保)と結ばれてほしかった」と考えている人もおり、作品の中でも特別な存在となっています。灰原さんの声優を担当している林原めぐみさんが以前に『名探偵コナンラジオ』で「らぁーん!!ではなく、1回くらい、あーいっ!!とか言ってみたらどうなんだ」と冗談半分でおっしゃっていましたが、おそらく、これを待っていたファンは多かったと思います。クールだけど可愛さもある、口調が厳しい時もあるがとても気が利く、好きなサッカー選手のことになると乙女になるところなどのギャップ、そして、コナンと灰原さんが結ばれることはないという境遇から彼女は絶大な人気を得ているのだと思います。

◯まとめ

 劇場版『名探偵コナン』シリーズは以前と比べて推理の要素が減り、アクション映画になったと感じている人もおり、私も正直そのように思うことはあります。しかし、今は推理による謎解きよりもキャラクターの良さを引き出すことでファンに喜んでもらうことを大切にしており、それが何度も劇場へ足を運ぶリピーターを増やすことにも繋がっているのだと思います。今はタイパなどの言葉が流行り、娯楽を楽しむことすら短い時間で効率良くという時代になっています。そのことから、多くの人に足を運んでもらうよりも、リピーターに何度も足を運んでもらうほうが戦略としては正しいと思います。もちろん、それに対して批判的な意見もありますが、私が小学校低学年の時に放送が始まり、夏休みの午前中に学校の宿題に取り組みながら、再放送を楽しんでいた作品が今でも多くのファンに愛され、劇場版が100億円コンテンツになったのは凄いことですし、長く作品が続くように私も細々と『名探偵コナン』を応援していこうと思います。


◯出典
・「名探偵コナン 黒鉄の魚影」のビジュアル(C)2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

・名探偵コナン(アニメ)-Wikipedia 2023年6月22日
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%82%B3%E3%83%8A%E3%83%B3_(%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1)#%E5%8A%87%E5%A0%B4%E7%89%88%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA

・MANTANWEB-名探偵コナン 黒鉄の魚影:興収128億円突破 歴代興収26位に 904万人動員 2023年6月22日
https://mantan-web.jp/article/20230612dog00m200034000c.html

・アニメ&ゲームby ORICON NEWS 女性ファンが7割強、『名探偵コナン』女性がハマる3つの理由 2023年6月22日
https://www.oricon.co.jp/confidence/special/52870/

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