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スターバックスとコメダ珈琲が人気の理由

◯スターバックスの歴史と日本進出

 スターバックス コーヒーは1971年にアメリカのシアトルで1号店がオープンしたところから歴史が始まりました。1982年にハワード・シュルツ(現:社長兼CEO)がスターバックス コーヒー社の小売・マーケティング部門の役員として入社、ここからシュルツはスターバックスを世界的な企業に押し上げていきます。1983年、シュルツはイタリアのミラノに出張をした際、エスプレッソバーの人気の高さに感銘を受けました。ミラノに1500軒ものエスプレッソバーがあることを知り、それだけのニーズがあることから、アメリカでもコーヒーバーを浸透させる構想を持ちました。

 1984年にスターバックスの創業者を説得し、シアトルの繁華街にオープンする店舗でコーヒーバーのコンセプトを試験的に実施、これが大成功を収めました。1985年にシュルツがコーヒーチェーン イル・ジョルナーレ社を設立して、スターバックス コーヒーの豆を使ったコーヒーとエスプレッソドリンクの販売を始めます。1987年にイル・ジョルナーレ社が地元の投資家たちの支援を受け、スターバックス コーヒー社の資産を買収、社名をスターバックス社に改めます。

 日本へ進出したのは1995年のことです。スターバックス コーヒー ジャパンが設立され、1996年に日本第1号店の銀座松屋通り店をオープンしました。当時、スターバックスはアメリカとカナダに1000店以上を構えていましたが、銀座松屋通り店はスターバックスが北米以外で出店した最初の店舗でもあります。その後、日本でも店舗数を増やして、2023年9月末時点でスターバックスは日本に1885店舗を構えています。

◯コメダ珈琲の歴史と全国進出

 コメダ珈琲は1968年に創業者である加藤太郎さんが名古屋でコメダ珈琲店を開店したところから歴史が始まりました。コメダ珈琲が創業した1968年の時点で名古屋では喫茶店文化が浸透していましたが、当時は個人が経営している小さな店舗が多く、コメダ珈琲の1号店は駐車場を完備しており、車ユーザーが出勤前などに立ち寄ることができたため、他店との差別化が図れていました。

 1993年からフランチャイズでの店舗拡大を図り、2003年に関東初進出、2006年に関西初進出、その後、2010年に北陸、2012年に四国、2013年に中国、九州、東北、2016年に北海道、2018年に沖縄に進出し、2023年2月末時点で968店舗を全国に構えています。

◯スターバックスもコメダ珈琲も根本は【空間を提供している】

 スターバックスとコメダ珈琲の共通点として挙げられるのが、根本的には空間を提供するサービスであるということです。ただ、そのアプローチには違いがあります。

①利用すること自体に価値を見出したスターバックス

 スターバックスが日本で愛されているいちばんの理由はスターバックスを利用することがステータスになっている点です。スターバックスは多くの店舗がガラス張りになっており、店舗で過ごす人が外から見えるレイアウトになっています。

 雑誌が売れていた時代、コンビニが立ち読み客を外から見えるレイアウトにしていたのは、お店に入りやすくする狙いがありました(お客さんがいないと店舗に入りにくさを感じる人が一定数いるため)。しかし、スターバックスの場合はスターバックスを利用することに価値を見出している人の気持ちを満たすために、ガラス張りのレイアウトが不可欠なものになっています。スターバックスでMacBookを使って仕事をしている人、勉強をしている大学生を思い浮かべる人もいるでしょうが、これはスターバックスの戦略が成功している証なのです(店舗によっては勉強に使用することを禁止している場合もあります)。消費者の承認欲求に着目して成功をしたのがスターバックスです。

 スターバックスがこのようなブランドになったのは偶然ではありません。例えば、コメダ珈琲はフランチャイズ店が多いですが、スターバックスが多くの店舗を構えているにも関わらず、日本の店舗は基本全て直営です(駅・空港・高速道路のSAやPA・レジャー施設など、何らかの利用で直営での運営が困難な商業圏等は除きます)。

 スターバックスの店舗デザインは社内のデザイナーが担当しており、アルバイトの社員さんへの教育も厳しく、スターバックスの世界観を崩さないようにしています。スターバックス ジャパンの会社案内には「ペーパーカップやタンブラーを手に街を歩くスタイルや、家でも職場でもない「サードプレイス」の提案など、時代ごとの空気をつぶさに感じ取りながら、新たな価値を生み出し、文化を育んできました。」と書かれています。

 しかし、過ごしたくなる空間を提供することで、お客さんの滞在時間が長くなり、利益に繋がりにくくなるというデメリットが生まれます。では、快適な空間を提供するサービスでどのように利益を出しているのでしょうか。

 商品の話に限定すれば、スターバックスで多くの利益を生み出しているのはテイクアウトです。スターバックスに限らず、ほとんどの飲食店が店内を利用しても、テイクアウトで持ち帰っても、商品の値段は変わりません(消費税率が変わる飲食店はたくさんあります)。これを当たり前だと考える人も多いと思いますが、実際はテイクアウトで購入する人のほうが、提供されるサービスに対して多くの対価を支払っています(販売しているものによってはパッケージに経費が掛かり、そこまで差が出ない場合もあります)。なので、店内を利用する人はテイクアウトで購入する人にもっと感謝をしましょう(笑)

 スターバックスのブランド戦略として素晴らしいのが、街でスターバックスのコーヒーを持ち歩くことにも価値を見出した点です。先ほど、スターバックス ジャパンの会社案内に記載されている内容を紹介しましたが、「ペーパーカップやタンブラーを手に街を歩くスタイル」という文言が最初に書かれています。サードプレイスはスターバックスにとって非常に大切な概念ですが、それよりも先にテイクアウトについて記載しているのです(持ち歩くことも広義の意味ではサードプレイスだと思います)。スターバックスは世界各国に店舗を構えていますが、日本はその中でもテイクアウト率が高いそうです。もちろん、店内を利用したくても、既に満席で利用ができない人も一定数いるでしょうが、スターバックスのコーヒーを持ち歩くことにも価値を見出して、店内が利用できないなら買わないという人を減らすことができているのが、日本でのスターバックスの繁栄に繋がっているのだと思います。

②幅広い層に愛される店舗作りのコメダ珈琲

 一方、コメダ珈琲は各テーブルが仕切られ、多くの席で電源コンセントを使用することができ、あらゆる層が過ごしやすくなる店舗作りに力を入れています。どこか昔ながらの雰囲気があり、おしゃれ過ぎずに入りやすい、誰もが利用しやすいという点がコメダ珈琲の魅力です。

 コメダ珈琲は長居を歓迎するスタイルなため、過ごしやすくすることでお客さんの滞在時間が長くなり、利益率が下がる恐れもありますが、コメダ珈琲の2023年2月期(2022年3月1日〜2023年2月28日)は売上高約378億円・営業利益約80億円・利益率約21.2%、スターバックスの2022年度は売上高約2539億円・営業利益約251億円・利益率9.9%なので、コメダ珈琲の利益率はかなり良いです。

 コメダ珈琲の利益率の高さの秘訣はいくつかあるのですが、商品に関してはグルメが充実しており、そのことで客単価が高くなることが大きいです。ここ数年、SNSやメディアでコメダ珈琲のグルメが取り上げられる機会が増えていますが、コメダ珈琲のグルメはそこまで安いわけではありません。しかし、支払う金額以上の価値があると感じている人が多く、特に最近はステルス値上げと呼ばれる、値段は据え置きで量を減らす飲食店や商品が増えているため、値段はそれなりだが、写真以上のボリュームがあるメニューが提供されるコメダ珈琲が評価され、多くの人に愛される要因になっています。

 コーヒーを飲みたい人、のんびり過ごしたい人、パソコン作業や勉強に取り組みたい人、スマホの充電をしたい人、満腹になりたい人、様々なニーズを満たしていることがコメダ珈琲の魅力だと思います。

◯最後に

 スターバックスとコメダ珈琲が日本で多くの人に愛されている理由として、空間を提供しているという点を挙げましたが、それだけ日本には何かに取り組んだり、のんびり過ごせる空間が少ないのだと改めて感じました。

 空間を提供するという同じテーマを持っているにも関わらず、全く違うアプローチで多くの人から愛されているスターバックスとコメダ珈琲、それぞれ違った魅力があるからこそ、顧客を奪い合うことなく、共存をしているのかもしれません。


◯出典
・スターバックス コーヒー ジャパン 会社概要 2024年1月21日
https://www.starbucks.co.jp/company/summary/

・株式会社コメダホールディングス 2024年1月21日
https://komeda-holdings.co.jp/

・Forbes JAPAN コーヒーのテイクアウト率、最も高いのは「忙しい」日本 配信 2017年8月16日
https://forbesjapan.com/articles/detail/17356?read_more=1

・東洋経済ONLINE スタバVSドトール「店舗数」に大きな差が出たワケ 出店加速のスタバに対し、閉店の多いドトール 配信 2023年12月5日
https://toyokeizai.net/articles/-/719319?display=b

・株式会社コメダホールディングス 有価証券報告書 2024年1月21日
https://komeda-holdings.co.jp/securities/


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