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現役小説家&編集者の実業家に学ぶ!稼げる電子書籍レーベルの作り方

【前書き】

皆さま初めまして、須藤(すどう)裕美(ひろみ)と申します。私は現役の小説家で編集者であり、数々の事業に携わっている実業家でもあります。もちろんそのどれにもきちんと商業の実績があります。そんな私が皆さまにお伝えできることは何かと考え、今回この記事を公開するに至りました。シリーズ作品になる予定ですので、今後も楽しみにしていてくださるととてもうれしいです。
 
昨今、小説の電子書籍レーベルが乱立していることはご存知でしょうか。それはまるで雨後(うご)の筍(たけのこ)のようです。そんな中で、電子書籍レーベルとは結局のところ儲かるのかという疑問を抱いていらっしゃる方も多いかと思います。結論から申し上げると、電子書籍レーベルは儲かりました。具体的には電子書籍レーベルの「運営」が儲かったのです。私は約2年間、電子書籍レーベルの運営をしてきたのですが、身内以外には打ち明けていませんでしたが、実は一(ひと)財産(ざいさん)築くことができた次第です。ではそのためには具体的に何をしていたのか、これから順序立ててお話していこうと思います。

【電子書籍レーベル起ち上げ前の準備】

初めに断っておかなければならないことは、私は当時個人事業主で、あくまで個人でレーベルを起ち上げた次第です。つまり厳密には社会的に商業ではなく同人レーベルにあたるかと思います。そしてそれはAmazon KindleのKDPで誰でも簡単に始められることにありました。KDP出版の手順は次の通りです。
 
1:アカウントを登録する
Amazonにアカウントがある場合でも、新たに作ることでも登録することが可能です。キンドル・ダイレクト・パブリッシング、通称KDPにアクセスしてアカウントを作ってください。
 
2:著者・出版社情報を入力する
次に「アカウント情報が不完全です」と出ている項目の「今すぐ更新」をクリックして、著者・出版社情報を記入していきます。
 
3:支払いの受け取り方法を入力する
地域はもちろん「日本」を選択します。銀行口座の入力の項目では、支払いを受けるご自身の銀行を選択します。すると「支払いの設定が完了していません」と出ますが、ほかのマーケットプレイスなどは関係のない項目ですので「いいえ」をクリックしてください。緑色の文字で「もうすぐ完了です」の画面が出たら、忘れず保存しておきましょう。
 
4:税に関する情報を入力する
おそらくここが一番難しい項目ですので、注意して進めてください。「税に関する情報を登録する」をクリックすると「変更が保存されていません」と出ますので、「保存して続行」にします。「仲介代理人、または別人の代わりに支払いを受け取る代理人、あるいは橋渡しするだけですか?」の質問は「いいえ」と答えます。身元情報に関しては、ローマ字で入力してください。源泉徴収税率の軽減措置を受けるためには、米国の税に関するインタビューで納税者番号、通称TINを入力する必要があります。アメリカのTINを持っている場合はその番号を入力する必要がありますが、居住国の税務機関から発行された納税者番号、つまりマイナンバーカードの番号を入力することになります。最後に署名してプレビューで入力内容に間違いがないかチェック、問題がないようでしたらフォームを送信します。「インタビューを終了」をクリックすると、最初の画面に戻ります。
 
 以上で電子書籍レーベル起ち上げ前の準備は完了となります。いよいよ次の章からは実際の運営方法を説明していきます。

第1章 発行所名・レーベル名を付ける、レーベルコンセプトを考える

小説を電子書籍で配信していく上で、大切なのはレーベル名を付けることと、そのレーベルのコンセプトが必要です。なぜならなんの理念もないレーベル、それも個人事業主が作った同人レーベルなどには、作家さんや絵師さんたちも書きたいとは思ってくれないからです。
 
私には作家さん友達も絵師さん友達も決して多かったとは言えませんでした。むしろどちらかと言うと孤高に活動していたので、少ないどころかいなかったと言えるでしょう。
 
そもそも私が小説の電子書籍レーベルを起ち上げようと思ったのは、とある出版社に首を切られたことが起因しています。それは作家なら誰もが焦がれる、紙書籍の企画でした。企画書が通り、原稿ができあがり、絵師さんを決めるところで出版社ともめてしまい、企画自体をなかったことにされてしまったのです。件名に「最悪です」と書かれたメールをもらったのは、人生において最初で最後であってほしいと思います(笑)。いまでも私は悪くなかったと思っているのですが……なぜなら編集長の独断と感情だけで排除されてしまったからです。
 
この事件があり、私は作家にはなんの保証もないことに気がついたのです。原稿を書き上げても、出版されるまで契約書がないので本当に世の中に出るのかどうかわかりません。そんな不条理な現状に、私はプロの作家の居場所を創りたいと考えるようになりました。それが発行所の『明日出版』、レーベル名は『アスブックス』という小説の出版レーベルだったのです。
 
レーベル名を付けるとき、実はあまり迷わなかったのです。作家さんが明日も変わらず書いていけるように、これだけを願って創ったレーベルだったので明日出版としました。アスブックスは明日(あした)の本という意味ではありませんが(笑)、明日出版の本だったのでそのままアスブックスを採用しました。アス文庫などほかにも案はありましたが、結局ここに落ち着いた次第です。
 
私が初めて小説で電子書籍の出版を商業でさせていただいたのは2015年のことです。あれから8年、一部はすでに契約解除しておりますが、各社さまより70冊以上の電子書籍を出すに至っています。原作を担当した漫画を含めると、もう少し多いです。蛇足ですが、私は漫画原作も多く手がけているのです。だから私には、小説漫画ともども電子書籍で第一線を闘ってきたという自負があります。当然、会社を通してではありますが自分で電子書籍を出していたので、売れ線、書き方、適切な文字数、価格帯など、勝手にノウハウを培(つちか)ってくるに至りました。
 
「プロによるプロのためのレーベル」こそが、明日出版の基本理念であり、コンセプトです。最初の“プロによる”は、私のことを指してもいます。私はもちろん紙書籍も出しているので、堂々とプロを名乗っているのですが、もちろん冊数は電子とは比べ物になりません。なにせ紙6冊と電子70冊以上なので、その差は歴然です。しかし裏を返せば、電子書籍はそれほど出版しやすいとも言えます。ゆえに電子書籍に強いと、いまでも思っているのです。だからこそ電子書籍の事業を起ち上げようと思い立った次第です。これが起ち上げの理由です。
 
正直、当時は話を聞いて去っていく方も多かったです。当然だと思います。得体の知れない人間が急に電子書籍レーベルを起ち上げると言っても、契約とか支払いとか、不安になるに決まっているでしょう。それでも賛同して残って、一緒に闘ってくださる作家さん絵師さんデザイナーさんらと仕事ができることは、何よりも代えがたい喜びがありました。人生で初めて、同じ志(こころざし)を持つ仲間を得られた気分だったのです。そして皆さん口をそろえてうちの理念に共感したと言ってくださいました。だからこそレーベルを起ち上げるときは、絶対的に基本理念、コンセプトが大事なことがわかっていただけるかと思います。ただ、ただ作品が世に出ればいいという層も一定数はいるので、大仰な理念を掲げなくともある程度は人が集まってくるかもしれません。
 
現在、小説の電子書籍レーベルは女性向けが全体の多くを占めています。それは女性向け作品のほうが圧倒的に売れるからなのです。電子書籍を読む層が女性に偏っているという統計が出ているわけではないのですが、さくっと電子書籍で手軽に読みたい層がおそらく女性には多いのだと思っています。またティーンズラブというジャンルが特に売れるのですが、これは性描写が含まれるので紙で現物を持つよりも、アプリの中に入れてしまうほうが手軽でいいのかもしれません。電子書籍を読む層も増えてきたと言います。だからこそ余計にこの分野には可能性が秘められているのです。
 
しかしながらも新規参入しては消えていくレーベルが毎年存在しています。女性向けが受けるからと言って、女性向けを出していればいいわけではないのです。だから明日出版では商業紙書籍出版歴のあるプロのみを起用し、強みを活かしていただくことで、マーケティングを構築していきたいと思いました。プロのみのレーベルはその当時、うちしかありませんでした。いまほかに存在するとしたら、それはうちの模倣ですから、真似されるだけうちには影響力があったのだと思っています。他社がまだそこに可能性を見出していないところを見計らい、業界独り勝ちを狙っていたのです。結果は前書きで述べた通り、2年間で数百万の利益を生み出すに至りました。私ひとりが始めた事業で、本当に独り勝ちができてしまったのです。

第2章 作家さん絵師さんデザイナーさんを探す・見つける・採用する

電子書籍レーベルを運営する上で絶対的に必要なのは、実際に起ち上げたレーベルで書いてくださる作家さん絵師さん、そしてロゴ入れをしてくださるデザイナーさんらを探すことです。小説を配信する上で重要なのは、原稿とそれを彩るカバーになります。特にカバーとなる表紙イラストは作品の顔なので大切です。
 
事業を始めるならできれば利益を出したいと思うことが普通ですから、なるべく売れる作家さん絵師さんにお願いしたいところです。しかし売れている方々はもちろんご多忙で同人レーベルなどに関わっている暇がないものです。だからといって売れていない作家さんや絵師さんらを集めたというわけでもありません。その当時なんの知名度もなかった明日出版がSNSで募集をかけたところ、思いのほか反響をいただきました。そこで簡単な経歴やポートフォリオをご提出いただき、じっくり拝見して所属メンバーを決めていきました。第1章で述べたように、私が掲げる理念に賛同してくださった方が多かったこともあります。
 
皆さんプロですから、それなりの実績がある方ばかりです。でも商業で1冊切りの憂き目に遭っているとか、なかなか現状に燻(くすぶ)ってしまっているとか、うちにコンタクトしてくださる作家さんたちの事情はさまざまでした。私は、マザーテレサでもなんでもないただの実業家ですが(笑)、このときはすべての作家さんを救ってあげたいと思ったんですね。受け皿になりたいと、心から思っていました。だから大きな問題のない限りは、ほとんどすべての方を採用していました。これは私の場合ですが、作家さん絵師さんデザイナーさんを探すことに苦労はあまりなかったように感じています。
 
ただ絵師さんを探すのは結構骨が折れました。絵師さんの知り合いはほとんどいなかったので、それこそSNSで流れてくるイラストを見て、なるべく商業で活躍はしていないけれどうまい人、という基準でこちらから声をかけていったのです。そのほうが金額的に折り合いが付きやすいと思ったからです。幸い絵師さんたちもうちの理念に共感してくださり、低価格でもお請けしてくださる方が多かったのです。
 
デザイナーさんだけは前々からの知り合いに頼むことができました。その方はこの本の表紙も担当してくださっているのですが、長い付き合いで安くても快くお引き受けくださり、本当にいつも感謝しています。事業が続くに従い、デザイナーさんも増えていきました。
 
作家さんにしても絵師さんにしてもデザイナーさんにしても、1から自分で見つけるのは本当に大変ですので、日頃から積極的にフォローしたり仲良くしたりしてみることをお勧めします。たぶん私よりスムーズに交渉が進むのではないでしょうか。
 
私の場合ですが、人を探したり交渉したりすることがまったく苦ではないのです。それどころか可能性が広がっていく過程を味わえると、ぞくぞくするという性癖を持っています(笑)。もし作家さんや絵師さんやデザイナーさんとの交渉がスムーズにいかない場合は、窓口の方を雇うことをお勧めします。私は自分が苦手なことは絶対やらない主義なんです。苦手なことをできるようにする時間があるならば、できることを伸ばすことに時間を割きたいのです。そうした私の性格も功を奏して、明日出版には続々とメンバーが集まり始めたのです。晩年期は再来年の予定まで埋まってしまうほどでした。それほどまでに明日出版は業界で注目を集めるようになっていったのです。
 
しかしながらも安易に採用して失敗したことは何度もありました。そうした方々とはレーベルとの相性、つまり私とは合わなかったものとしています。まず契約書に不満や不安を抱く方、うちは個人レーベルなので大手出版社のようにいかないと申し上げたら去っていかれました。また手探りの状態な中での運営を不満に感じる方もいました。SNSのアカウントのフォロワー数が少ないので代わりに運用させてくれと言ってきた図々しい方もいますし、運営の中のことは外部に漏らすなと苦言を呈した方もいます。編集長と作家さんや絵師さんという間柄とはいえ、基本的には同じ人間なので対等でいたいものですが、ご自身の文句の多さを棚に上げて「私は私の仕事をしているだけ」と正当化される方もいらっしゃいました。一番堪(こた)えたのは、取引前にもかかわらずこちらの方針が気に入らず、思いつく限りの罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)を投げつけてきた方がいたことです。レーベル運営には人間関係が必須です。特に上に立って指揮する者の裁量にかかってきますので、それが苦痛に思う方には難しいかもしれません。

第3章 刊行スケジュールや企画を立てる

無事に作家さんと絵師さんデザイナーさんらが見つかったら、まずは刊行スケジュールを立てます。この時期に配信したいので、いついつまでに原稿を、イラストをお願いしますとそれぞれに打診しなければなりません。明日出版の刊行は毎月3作と決めていたので、毎月3作、作業に追われていました。個人的に本業である小説家の仕事もあったので、かなり大変だったことをいまでも覚えています。
 
私はスケジュールは先の先まで決めるタイプでした。手帳が文字ですべて埋まるほど予定があると安心するのです。なぜならいつうちの作家さん絵師さんが花開き、多忙になるかわかりませんので、あらかじめスケジュールを押さえておく必要があったからです。できるだけ明日出版に時間を割いてほしいと思っていました。
 
刊行スケジュールが立ち次第、作家さんには企画の提出をお願いしました。具体的にはなんの作品を書くのか、書きたいのかを明確にしてもらう必要があったのです。プロットにまとめてもらい、ご提出いただき、編集長の私が目を通して、いけそうと判断した場合にはGOサインを出し、修正が必要な場合は改めて提出をお願いしていました。
 
また2つから3つほど企画書を出してくれる作家さんもいました。そうしたやる気のある作家さんに恵まれていたと思います。企画を選定するのは、もうこれは感覚としか言いようがありません。私は長年ライターや編集者として仕事をしてきているので、感覚で善し悪しを決めていました。ただいい企画を何本も出してくださる作家さんには、次作で使いましょうとすべて採用していたこともあります。
 
明日出版の理念は「プロによるプロのためのレーベル」です。だから「ダメ」という言葉は一度も使いませんでした。基本的に作家さんの書きたいものを書いてもらう方針を取っていたのです。しかしこれにはもちろん問題があって、書きたいものイコール売れるものとは限りませんでした。だから明日出版は最終的に小説は78作品出しましたが、売れない作品が8割だったのです。実は2割のヒット作のおかげで、明日出版は存続できていたのです。
 
蛇足ですが、明日出版ではアスコミックスと言って、漫画も数冊ですが出版していました。これがまた漫画と小説では勝手が違い、ぜんぜん売れなかったんですね。私の勉強不足にも原因はあると思いますが、正規の商業出版社と競争するのは、とても大変だということが身に染みた結果でした。もちろん小説も同じです。競合他社はすべて正規の商業出版社なんです。個人が電子書籍レーベルを起ち上げたところで、勝てる見込みはそもそもほとんどないわけです。それでも利益を出すことができた明日出版ですが、いよいよ次の章からは実際に電子書籍を作る過程を紹介していきたいと思います。

第4章 実際に電子書籍を作る①―原稿と書誌データの作成―

小説の電子書籍配信なので、小説作品がなければ話になりません。作家さんに原稿を書いてもらう必要があります。アスブックスの作品はすべて3万字前後の短編、その後450円になりますが、最初は300円と決めていました。これが一番読みやすく売りやすい文字数、価格帯だと思ったからです。入稿データはテキストですが、執筆ツールは何を使っていただいても対応できるように、私は自分のパソコンにWordだけでなく一太郎も入れていました。
 
刊行スケジュールに沿って締め切りを設定し、締め切りまでに作家さんに原稿を上げてもらいます。上がってきた原稿は書誌データとともにご提出いただきました。書誌データというのは、その小説の情報になります。内容は以下のようなものです。
 
まずは「シリーズ名」、これは作品がシリーズ化するためのときの項目です。次に「作品名」、これは当該作品のタイトルになります。ただ書誌データを出していただいた時点では仮の名称が多いので、ご提出時はあまり重視していませんでした。また「電子書籍上での表示」には、縦書きか横書きか推奨されるほうにチェックをしてもらいます。これは読者さんが読みやすいように設定するための大事な項目になります。次に「主な登場人物」(キャラクター、プロフィール、登場人物同士の相互関係などを簡単に記載する)という項目です。一目で作品がわかるように書いてもらう必要がありました。そして「著者名(カタカナ)」、「著者名(ローマ字)」です。カタカナのほうは読み仮名がわかればいいのですが、なぜローマ字が必要かと言うと、著作権の表記に関わってくるからです。(C)(マルシー)記号とは万国著作権条約で権利主張が認められるためのマークのことを言います。著作権表示のことです。(C)のあとに第一発行年と著作権者の名前の表示があれば、一定の方式を満たさないと保護を受けられない方式主義の国でも保護を受けることができるのです。
 
次に必要なのが「著者プロフィール」です。これは明日出版の実績にかかわらず、宣伝のために別社での実績や宣伝もできるようにしました。そして「検索のためのキーワード」です。電子書店であるAmazon Kindleに電子書籍が並んだとき、読者さんは検索を利用することがあります。そのときにキーワードを設定しておくと、検索に引っかかるような仕組みになっているのです。だからできれば10個ぐらい書いてくださいとお願いしていました。
 
またこれは本当は編集の仕事なのですが、私はひとりで明日出版を運営していたため、作家さんにご負担いただいた部分があります。それが「作品のあおり文」と「作品の紹介文・あらすじ」です。あおり文は重要な展開や台詞の抜粋などがお勧めです。また紹介文・あらすじは、読者向けに作品の読みどころやPRなどを書いていただきました。しかし作家さんによってはあおり文や紹介文が苦手な人も多かったので、私が手直しすることもよくありました。でも元を書いていただいていたので、修正は容易に行えました。作家さんにはご負担いただくことになりましたが、これにはとても助けられました。以上が書誌データの作り方になります。

第5章 実際に電子書籍を作る②―表紙イラスト・表紙イラスト要望書の作成―

表紙イラスト要望書とは絵師さんへの指示書のことで、文字通り絵師さんに表紙イラストをお願いするものになります。これもまた作家さんが書く資料のひとつになります。絵師さんに原稿を読んでもらうことも大事ですが、表紙にはなるべく作家さんの要望を入れて差し上げたいと思ったからです。特に目や髪の色はイラストの重要な点になってくるので、間違いがあっては困ります。そうしたときのために細かく指示書を作っておけば、絵師さんは安心して作業に没頭することができるわけです。
 
表紙イラスト要望書にはまず、「作品名(仮)」、「著者名(PN(ペンネーム)))」、「作品のジャンル」を作家さんに書いていただきます。それから「希望する表紙全体イメージ」を考えていただきました。絵師さんにまったくお任せ、という作家さんも何人かいましたが、絵師さんが書くときに困ってしまうので、なるべく埋めてもらうようにお願いしていました。次に必要なのが「キャラクターの特長」です。ここが一番必須だと言っても過言ではありません。先に述べたように目や髪の色、キャラの名前、人外がいる場合の種族、性別、年齢、髪色、目色、体格、一人称と、イラストの表現にはとても大切な項目なので、細かく記入をお願いしました。
 
また明日出版では途中からモノクロイラストを挿入することになったので、そちらも指示書に書き加えました。「モノクロ口絵(くちえ)を希望するシーンの抜粋」です。作家さんが自分の作品で、ここが絵で見てみたい!というところを書いていただきました。「モノクロ口絵への要望など」では、モノクロに対して必要であることを記入していただいていました。また表紙イラスト要望書ですが、「作品のあらすじ」も必須でした。絵師さんが簡単にどういう物語か把握できるようにするためです。
 
最後に入れたのが、「タイトルロゴの希望」です。これはデザイナーさんが担当するのですが、どういったロゴのイメージがよいか作家さんの意見も取り入れたかった次第です。この項目があるので、もちろんデザイナーさんにも表紙イラスト要望書はお渡ししていました。それを参考にロゴを作っていただいていたのですが、やはりかわいい感じとか格好いい感じとか、結構あいまいな部分が多かったので、デザイナーさんもご苦労されたことと思います。私はそれに加えて既存の作品の例の画像を添付して、参考資料にしてもらっていました。アスブックス作品の表紙の評判がよかったのは、これだけの労力をかけたからだと自負しています。以上が表紙イラスト要望書の作り方になります。
 
作家さんに出していただく書類は、原稿と書誌データ、そしてこの表紙イラスト要望書の3点になるわけです。これをそろえていただき、ご提出いただいていました。最初は戸惑っていた作家さんもおられましたが、明日出版のやり方に徐々に慣れてくださり、不満や不安は特に出なかったと記憶しています。書き忘れや書き漏らしはよくありましたが、皆さん一生懸命取り組んでくださり、本当に助かりました。
 
ちなみに表紙イラストの仕様書は以下のようになります。
サイズ:横2400、高さ3388ピクセル 解像度:72dpi
ファイル形式:PSD
人物と背景をレイヤーで分けていただくこと、背景がない場合は人物のレイヤーのみで背景透過でお願いしました。モノクロ口絵はグレースケールです。

第6章 実際に電子書籍を作る③―小説原稿の編集・校正する―

実際に作家さんから原稿が上がってきましたら、その原稿を編集・校正する必要があります。私は幸いにして、ライター業を2023年現在15年ほどやってきていたのでどちらも得意分野でした。だからどちらも私が担当しています。ただ校正はひとりでやるとどうしても人間ですから見逃してしまうこともあります。そのときにはレーベルスタッフに協力をお願いしていました。校正だけは二段構えだったのです。
 
原稿の編集はしましたが、実は私、アスブックス作品には矛盾(むじゅん)や齟齬(そご)がない限り、あまり赤を入れないようにしていたのです。なぜかと言うと、明日出版の印税還元率は業界では低いほうで、とてもではありませんがプロ作家相手にそこまでの修正を強いることができなかったからです。それに仮にも皆さんプロですから、あまりに酷い原稿というものを見るのは本当に稀(まれ)でした。皆さん構成もうまく、起承転結がきっちりとしており、きちんとオチがついている、どれもすばらしい作品だったからです。さすがプロだと舌を巻いたことは片手では数えきれません。ただその稀の原稿には頭を抱えました。1作だけどうしてもこれは……と思ってしまう作品があり、タイトルとイラストを工夫することでなんとか売り上げを出したことを覚えています。
 
編集と校正をしたことがない方の場合、外注するほうがいいかと思いますが、やはり費用がかかるので要検討していただきたいです。電子書籍1冊作るだけでも結構なお金が飛んでいきますので、できるだけ自分の能力にあった運営方法を模索することをお勧めします。そうでないと「出版社は編集校正したのか?」などという辛辣(しんらつ)なレビューをもらってしまうことにもなりかねませんので。幸いにして明日出版は、そんなマイナス評価はもらったことがありません。それが自慢でもありました。
 
校正はもう目を皿にして原稿と向き合わなければなりません。ただどうしても人間ですから、しつこいようですが、見逃してしまうことはあります。二段構えの体制を取っても、どうしても誤字脱字は出てきてしまうものです。大手出版社でもあることですから、それだけはどうか読者さまには温かい目で見守っていただけないかと思う次第です。アスブックスでは誤字脱字チェックと、簡単な校閲をしていました。
 
校閲とは誤字脱字などの文章表記の確認や修正を行うだけではなく、書かれている内容にまで踏み込んで確認をして、記述内容が正しいかどうか、差別表現など不適切な表現が使われていないかなどの緻密なチェックを行うことを言います。前述してきたように、私は文筆業の経歴が長いので校閲にも携わっていたことがあるのです。私が明日出版をひとりで運営し続けてこられたのは、私の歩んできた経歴自体も大きかったのかもしれません。

第7章 実際に電子書籍を作る④―EPUB(イーパブ)データに変換する―

原稿とイラスト、諸々のデータがそろったら、電子書籍を入稿するためのEPUBデータに変換する必要があります。変換するためには元原稿に専用のタグを打ち込まなければなりません。これは検索すれば出てきますが、例えば改行なら改行のタグがあり、必要な箇所に挿入しなければならないのです。Word原稿だけでも入稿できるはずなのですが、なぜかめちゃくちゃな表記になるので、明日出版ではタグを導入していました。この作業を私はスタッフに頼んでいたので詳しいことはわからないのですが、慣れれば非常に簡単にできるということでした。タグが入れ終わったテキストデータをEPUBデータに変更するとき、私の場合は無料でサービスを提供しているところを使いました。
 
そもそも明日出版は個人事業主である私が運営する同人レーベルだったので、Amazon(アマゾン)専売でした。Amazon Kindle(キンドル)のみで作品を配信していたということです。Kindle(キンドル) Direct(ダイレクト) Publishing(パブリッシング)とは、AmazonのKindleストアで本を出版し、販売するためのサービスのことです。略してKDPと言います。セルフ・パブリッシングの代名詞的なサービスでもあり、Amazonにアカウントを持っているユーザーであれば誰でも利用することが可能になっています。これは最初に説明した通りです。明日出版が同人レーベルだというのは、このKDPを利用していたからです。法人化して株式会社になると、取り次ぎ先と組むことができますので、お任せすることができるようになります。商業でやっている会社さんは皆さんそのようにしているかと思います。
 
さてこのKDPの入稿データが、EPUBというファイル形式でなければいけないのです。EPUBに変換するために、インターネットを検索するとさまざまなフリーサイトが出てきます。使いやすいサイトで変換することをお勧めいたします。ちなみに私は、「電書ちゃんのでんでんコンバーター」というサイトにお世話になっていました。アスブックスの作品はすべてこちらのでんでんさんでEPUBに変換させてもらいました。まずはタグを入れたテキスト形式の原稿をアップロードして、タイトルと作成者を記入します。このとき作成者に自分の名前を入れないようにしてください。ここは作者さんのお名前を入れなければなりません。電子書籍は縦書きで読まれることが多いので、ページ送り方向は基本的に縦書きの「右から左」を選択します。あとはお好みでどうぞの項目に、「扉ページ」と「目次ページ」がありますので、必要な場合はチェックしてください。アスブックスはどちらもチェックを入れていたので、タイトルと著者名が入る扉ページ、目次が自動で生成されました。でんでんさんにはそのほかにも機能がありますが、アスブックスで使用していたのは以上になります。
 
ちなみにでんでんさんのそのほかの機能を紹介しておくと、「表紙ページをスキップする」や「自動縦中横(たてちゅうよこ)を有効にする」が選べるようになっています。明日出版では作業が大変になるので「!(感嘆符)」や「?(疑問符)」しか使わないようお願いしていたのですが、一般の書籍では「!?(ダブルだれ)」や「!!(二重感嘆符)」が普通に使われています。これにチェックするとおそらく前出のふたつが有効になるはずです。うまく作れる自信がある方はチェックしてみるのもいいかと思います。

第8章 作品を配信する

入稿データがそろったら、いよいよ作品を配信します。KindleのKDPのページを開き、タイトルの新規作成の欄で「電子書籍または有料漫画」を選びます。すると3つの入力先が出てくるので、順番に情報を入れていきます。「本のタイトル」に加えて、「レーベル名」という項目があるので、ここにはご自身のレーベル名を記入します。すると配信ページのタイトルの最後に括弧(かっこ)でレーベル名が表示されるようになるのです。「シリーズ」、「版」は必要であれば記入します。記入するとこれもまた配信ページに表示されるようになるからです。「著者」の欄には作品の作者さんを、「著者等」の欄にはイラストの項目を選択して、当該作品のイラストを描いてくださった絵師さんの名前を入力します。「内容紹介」の欄には、書誌データで作ったあおり文と紹介文を入れましょう。
 
ここでひとつ、重要な項目があります。「出版に関して必要な権利」というものです。「私は著作権者であり、出版に関して必要な権利を保有しています」と「これはパブリックドメインの作品です」のどちらかにチェックを入れる必要があります。作品を配信するためには「私は著作権者であり、出版に関して必要な権利を保有しています」にチェックを入れる必要があるのですが、出版の契約内容により問題が出てくる場合がありますので、契約書は必ず確認するようにしてみてください。ちなみにパブリックドメインとは、通常は権利の期限が切れたことによって知的所有権または著作権による保護の対象から除外された本を指します。
 
次に「主な対象読者」を設定します。全年齢作品の場合は「露骨な性的表現を含む画像またはタイトル」に関して「いいえ」を選択します。性描写がある場合、児童向けの場合は閲覧に適した年齢を入力する必要があります。
 
「カテゴリー」の項目は最近では3つ設定できるようになったようです。その作品に合うジャンルを設定して、ランキングや新着などに作品が入るようにしてください。「キーワード」は7個入れることができます。できるだけすべてを埋めるようにしましょう。そのほうが検索で引っかかってくれる率が上がるからです。
 
「本の発売オプション」では、その本をすぐに配信するか、予約配信にするか選ぶことができます。アスブックスは一時期のみ15日配信でしたが、毎月1日配信だったので、予約設定していました。毎月1日は競合他社の多くと配信日が重なるので、あまり好ましくないのですが、売り上げに影響したため、私は1日配信にすることに決めたのです。末に近づくほど、月が変わり、新刊が古く見えてしまうと思ったからです。
 
以上を終えたら保存して、次は「Kindle本のコンテンツ」に移動します。ページを読む方向の縦書きにチェックを入れ、電子書籍のEPUB原稿をアップロードします。同時に表紙イラストもアップロードします。この作業の完了には少し時間がかかるので、おとなしく待ちましょう。すべてがアップロードされると、プレビューアーを利用することができます。実際にアプリ上でその電子書籍がどんなふうに表示されるのかを確認することができるのです。必ずチェックするようにしてください。ここで間違いを発見することもよくあるので気をつけましょう。
 
電子書籍にISBNのコードは必要ないので、ここは空欄で大丈夫です。出版社の項目にはご自身の発行所名を入力しましょう。私はもちろん明日出版と入れていました。それが終わったら、最後の項目になる「Kindle本の価格設定」に入ります。
 
「KDPセレクト」は、新規読者の獲得、売り上げの促進、販売機会の拡大に役立ちます。KDPセレクトに登録すると、その電子書籍はKindleストアの独占販売となります。もしほかでも配信したい場合はチェックをしないほうがいいですが、独占販売になるとリターンも大きいのでチェックすることをお勧めします。「出版地域」はあらゆるところで売れる可能性を考慮して、すべてにチェックを入れてください。実際に外国で売れる例が、アスブックスでもたくさんありました。
 
最後に「価格設定」を決めていきます。明日出版は最初、3万字の短編なので300円で一律配信していました。ただ利益率を上げたいと思い、モノクロイラストとSS(ショートストーリー)を入れて、最終的には450円で配信しています。税込みのワンコインで買えることにはこだわっていたので、500円以上に設定する気はありませんでした。この作戦が功を奏して、明日出版は売り上げをどんどん伸ばしていくことになったのです。
 
ここまでの作業、入力お疲れさまでした!あとは「Kindle本の出版」というボタンを押すだけで、Amazon側が適切に処理してくださいます。処理には少なくとも2~3日かかりますので、決まった期日に電子書籍を出したい方は余裕を見て登録するようにしてみてください。

第9章 宣伝のためのホームページやSNS、YouTube動画などを作成する

いざ作品を配信しても、宣伝しなければ読者には気づいてもらえません。Amazonのほうで新着作品には載せていただけますが、売れないと埋もれる一方だからです。事業を起ち上げたばかりの金銭的に余裕がないときはSNSしか発信手段がなかったのですが、最終的に明日出版はホームページやYouTube動画を作成して広告を補いました。
 
SNSは主にTwitter(X)を使用していました。そのころのTwitter(X)はもっと自由で幅広くできたので、フォロワーも500人ほどまでに増えてくださり、明日出版はそれだけでも大きく認知されたことがわかります。ただ一度、お節介な作家さんにTwitter(X)はフォロバしないとフォロワーは伸びないから運営をやらせてくれと言われまして……あのときは困りました。同人レーベルだったからこそ、運営者である私と作家さんの距離が近かったこともいけなかったのですが、そんなような提案や指摘をされることがよくありました。ですが、私は私の事業を他人の色に染める気はなかったので、そのすべてを突っぱねて自分を貫き通しました。無名のレーベルが積極的にフォロバをしなくてフォロワー500人もいったのですから、かなりがんばったほうではないかと思っています。
 
次に手を出したのはYouTubeでした。作品のあらすじ動画を展開していったのです。動画制作者にお願いして毎月作ってもらい、視聴者も少しずつ増えてくださり、一番人気な作品は1万回再生になりました。ただ動画から電子書籍購入までの動線が弱かったので、あまり効果は感じられませんでした。自己満足だったと思っています。かけがえのない仲間ができたことだけは、いまの私の財産になっていますが。
 
最後に手がけたのがホームページです。なぜ最後になったかと言うと、ホームページの作成にはお金と時間がかかったからです。なかなか最初は余裕がなかったので、公式ホームページを作ることができませんでした。金銭的に余裕ができてから、ようやく着手することができた次第です。ただこれも、ホームページ制作の会社などに頼むとかなりの出費が見込まれたので、身内に協力を仰ぎました。素人臭いと自分で揶揄(やゆ)していましたが、それなりに立派なホームページとなったので、私はとても満足していました。デザイナーさんにトップページの画像を作ってもらったり、新刊情報を更新したり、とにかく皆が一丸となってがんばってくれました。それが明日出版、アスブックスだったのです。

第10章 電子書籍レーベルで売り上げ、利益を出すには

おそらく皆さまが知りたいのはこの章だと思います。利益が経費を除いて数百万も出たということは、当然ながらアスブックスはヒット作を何作か出すことができていました。しかしながら私にもヒット作がなぜヒットしたのかわからない部分が多いのです。だから売り上げを出すために、これをした、というのは正直ありません。ただただ愚直に理念に則(のっと)り、出版を続けてきただけです。
 
ただできることはすべてやってきたと自負しています。例えば編集長である私をVTuber化させて、声優さんを起用して小説の書き方などを配信したり、デザイナーさんに表紙イラストを使ってしおりをデザインしてもらい、読者プレゼントにしてみたりと、かなりたくさんの企画をやってきました。
 
レーベルは諸事情により約2年間で閉じることになりましたが、私はその間、所属作家さんや絵師さんらに誠実でいようと努力していました。例えば作品は必ず褒める、メールのレスポンスを早くするなどは当然として、お誕生日に図書カードを送っていたこともあります。また年間の売り上げ第1位~3位までは表彰し、些少(さしょう)ですが賞金も差し上げていました。ありがたいことに所属メンバーの皆さんが皆、明日出版に属していることを誇りに思い、作品に向き合ってくれたからこそ、売り上げにも反映されてきたのではないかと思っています。

【後書き】

最初に電子書籍レーベルは儲かるのかという問いに私は儲かると答えましたが、もちろん時流や運が大きく関係していたとも思っています。私が電子書籍レーベルを運営していたのは、2020年10月~2022年12月まででした。起ち上げた当初はまだ電子書籍レーベルはいまほど乱立していたとは言えず、個人事業主でそのような試みをしている方もいなかったので、業界としては新進気鋭であり、現にレーベルを閉じたときはあちこちの会社が運営する商業の出版社から声をかけられたほどだったのです。うぬぼれるならば、同人には違いありませんでしたが、それほどまでに注目されていたレーベルに育て上げられた私の手腕も大きかったのでしょう。
 
私が2年間で築けた財産は数百万円にのぼります。つまり電子書籍レーベルはうまく運営さえしていければ、それなりの利益が見込める分野なのです。これまで見てきたように、電子書籍を出版することはとても簡単で、未経験者でも入っていきやすい分野でもあります。ちょっとしたコツさえつかめば、淡々と毎月配信することができるようになるはずです。あなたもぜひ電子書籍レーベルを作って稼いでみませんか?

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