飛び降りたあの子
今くらいの季節になると思い出すことがある。
4年前くらいの初夏、21時頃。仕事のあと英会話のレッスンを終えた私は、都内某ターミナル駅のホームを歩いていた。
ホームにはすでに乗客が3列くらいずつ列をつくり、私はその前を南へ向かって歩いていた。
突然、私の正面に20代前半くらいの女の子が飛び出してきて、そのまま線路に落下した。
列に並んでいた人らしい。
私含め並んでいた乗客は驚き、一瞬時が止まったが、我に返った私が「非常停止ボタン!」と言うとボタンの近くにいた人が押してくれた。
けたたましいブザーが鳴り響く中で、ひとりの男性が線路に降り、彼女を起こしてホームへと押し上げた。
彼女は男性数人の手で無事に引き上げられ、駅員さんに保護されて歩いて行った。
電車は遅れることなく、私たちはそれぞれの帰路についた。
正面で目撃した私は、彼女が落ちた時のことを憶えている。
少しふらつくような足どりではあったが、彼女は意志を持って線路へ向かったように見えた。そしてくるっと振り返り、背中から落下したのだ。
本当のことはわからないが、彼女は自ら飛び降りたような気がしている。
引き上げられた彼女は「大変なことをしてしまった」という表情でへたり込んでいた。
非常停止ボタンが押されていたとはいえ、彼女を助けるためにひとりの男性が危険をかえりみず線路に降りた。
あの時もしあの子が人生に絶望して飛び降りたとしても、今「あの時死ななくてよかった」と思える人生を生きられていたらいいな。
思い出すたびに、そんなことを思う。
もしかしたら、あのホームにいた人たちの中にも、こうしてふとした瞬間にあの子のことを思い出す人がいるかもしれない。
誰もが、誰かに支えられて生きていると思う。
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某駅に向かう30分の電車の中で、ふと思い出して書きました。
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