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ライブレポート:そのステージは明日を照らす私たちの光

2023年1月1日、ライブ会場では、開演を告げる場内アナウンスを待たずして、客席を埋めた人たちの間から、手拍子が起こり始めた。

コロナ禍の影響で、3年もの間、開催が見合わされてきた年末ライブ「冬の大感謝祭」。この日のステージは、6日間にわたったライブの締めくくりとなる、最終日だった。

……と書いて、ふと思った。

いや、違う。6日間どころじゃない。

始まりの日は、もっと前。彼と一緒に、泣いて笑って、みんなが駆け抜けた日々は、もっとずっと長いものだった。

2020年3月。横浜アリーナでのライブを皮切りに、夏の長崎・稲佐山を経てデビュー30周年の全国ツアーが、11月から始まるはずだった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、開催が延期に。この3月こそが、今思えば「始まり」だった。

2021年12月には、全国ツアーを敢行し始めるも、「無観客」「オンライン配信」というイレギュラーなスタイルに。その後、ようやく有観客での開催が可能になっても、今まで経験したこともないほどの空席が目立つ会場に、切なさでいっぱいになった。

非常時のエンターテインメントの在り方とはーー。正解の見えない、戸惑いの日々を重ねながら、少しずつ、少しずつ、取り戻し始めた日常の中、やっとみんなでたどり着いた、2022年の「冬の大感謝祭」。

トンネルの出口を求め、長い長い時間を手探りで走り続け、ようやく迎えようとするフィナーレの瞬間を、待ちきれないみんなの想い。

あの手拍子は、彼が無事に有終の美を飾れるようにと祈り願う、みんなの後押しだった。

会場を埋め尽くした人たちの、手首に巻かれたライトバングルが放つ、とりどりの色が、真っ暗な海の底に咲いた光の花のようだ。

広く、濃く、どこまでも深い海の中で、手拍子と共にゆらゆらと揺れる無数の花々。

「なんて、美しいの!」と思ったその時、ついに開幕の瞬間がやってきた。

パフォーマンスを続けてきた疲れも、歌い重ねた喉のダメージも感じさせない、軽やかな足取りと伸びやかな歌声。前夜の紅白歌合戦で、大トリを務めたステージの興奮と感動が、鮮やかによみがえる。

体が自然にリズムを刻む、心地よい始まりの一曲は「心color」。

曲が終わると一転、「聖域」「化身」が彩るエロティックな大人の世界へ。冒頭から、会場のボルテージは一気に高まってゆく。

「出会うことが許されない苦しい時期も、共に前を向いて乗り越えよう」

歌詞と、無数のライトバングルが放つ輝き、そして誰もの心が一つになり、会場が「光」のうねりに飲み込まれた後は、「虹」から「幸福論」へ。心が弾む名曲が続く。

後に、彼が「ライブの柱だった」と振り返ったのは、「PEACE IN THE PARK」から「HUMAN」「Beautifle life」へと続くパートだった。

被爆地に生まれ、平和への想いを抱いてきた背景から、生み出される「命」と「祈り」の歌たち。綴られているのは、平穏な時代に命を紡ぎ、生きることの意味。

受け取る私たち一人一人が、それぞれの生きる時代に、それぞれが感じたい想いを持っていることを、改めて気付かせてもらった気がしている。

「美しいあなたといると、生まれ変われる気がするんだよ……」

静かに、しかし力強く響く「Beautifle life」から、「最愛」へ。ライブも中盤に差し掛かった会場は、一気に「ガリレオ」ワールドへ入っていった。

「ヒトツボシ」のスローバラードに、インストルメンタル「覚醒モーメント」、「恋の魔力」「KISSして」のキュートなラブソングを経て、ガリレオの象徴曲「vs.2022~知覚と快楽の螺旋」のギターパフォーマンスに酔わされる。

ギターをかき鳴らす手元も、一つひとつの音を吟味し、楽しんでいるかのような表情も、何もかもが美しい。楽曲と共に息づき、育まれてきた、“湯川先生”との15年間の思い出が駆け巡った、愛おしい時間だった。

そして、ライブは終盤へと向かっていった。

「ステージの魔物」「零」へと続いたステージに、暗転によって消えた姿が再びライトに照らし出され、黒いシルエットが浮かび上がる。

「あの曲だ!」

待ちに待っていた最新曲を、誰もが予感したに違いない。妖艶な歌声、挑発するしなやかな指、“魔王”感たっぷりのパフォーマンスが詰まった「妖」に、会場の盛り上がりが最高潮に達したところで、いよいよラストソング。

「Dear」の懐かしいメロディと、一人ひとりに語り掛けるような歌声に包まれながら、エンターテインメントの持つ力の大きさを、思わずにはいられなかった。

非常時に語られるのは、決まってエンターテインメント不要論。この度のコロナ禍にあっても、中止や延期は当たり前といった風潮だった。

一方で、非常時のつらい日々だからこそ、非日常の世界が必要なのだと、実感させられた3年間でもあった。例え一瞬でも、現実を忘れさせ、疲弊しきった心をリセットさせてくれたもの。それが私にとっての、エンターテインメント。

つらいことの多かった日々も、逃げ場のない苦しい時間も、再び力を蓄え、乗り越えることができたのは、まぎれもなく、届け方を模索し続け、新たな形に挑んでくれた、彼のエンターテインメントのおかげだった。


「共に音楽を育てていく時間」

彼は、ツアーをそう表現する。数日間あるいは数カ月間、歌い、奏で続けるツアーでは、私たちオーディエンスもまたライブの一部。大団円まで駆け抜けていく伴走者だ。

歌とは、たとえ同じ楽曲であっても、耳にする年齢や環境、経てきた経験、生きてきた人生によって、受け取るメッセージが異なるもの。届け手の歴史が、受け取り手にとっても同じだけの歴史として積み重なり、育まれてゆく愛おしさと幸せに、気づかせてくれる。


この日のアンコールは、「HELLO」「少年」そして「桜坂」。誰もが楽しみにしていた、ダブルアンコールのラストソングは、再会を誓う一曲「約束の丘」。アコースティックギターの音色と、マイクを通さない生の歌声に包まれた会場のぬくもりに、涙があふれた。

「またやろう、また逢おうな」

いつもの別れのやさしい語り掛けが、名残惜しさにいっそう拍車をかける。いつかきっと、本当の日常が戻り、ステージと観客席が歌声で一つになれる日を夢みながら、3時間に及んだステージは終わりを告げた。

観客の光に覆われていた姿が、少しずつ小さくなり、ステージの奥へと消えてゆく。その背中は、まぎれもなく、エンターテインメントの力で明日を照らしてくれる、私たちの「光」そのものだった。       (終)


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