▼ゆうしゃ は せかい を すくった! なぎコミュ企画第二弾『出発』

「うおおー-っ!喰らえ魔王!超極鬼神冥送烈壊斬りー--っ!!」
「な、なにいぃー-っ!?」

▼ゆうしゃ の こうげき!
▼かいしん の いちげき!
▼まおう に なんかものすごいダメージ!

「......やった!?」

▼まおう は たおれた!

「......やった!やったぞ勇者!」

▼まおう の きょうい は さった!

「これで......!これで皆救われるんだ!」

▼せかい に へいわ が もどった!

「頑張った甲斐があったな......!これで、死んでいったやつらもうかばれるだろ......!」

▼ゆうしゃたち は きかん した!

「おお勇者達!よく無事で戻った!国を挙げて労おうぞ!」

▼ゆうしゃたち は えいゆう に なった!

「ねぇ勇者」
「なんだ?」

▼そして

「これからどうしよう、私たち......!」
「あぁ......!」

▼むしょく に なった!


「平和になったはいいがこれからどうするよ......」

魔王の討伐が確認され、世界に平和が戻った。帰還した勇者達一行を迎えた宴は三日三晩、国中で行われたが、やがて終わり、国民はそれぞれの生活へと戻っていった。

魔王の脅威が去ったとはいえ、前線から離れていたこの街では国民の生活において大きな変化はなかった。いや、実感できない、というべきか。ともかく、宴が終わればゆっくりとまたいつもの日常が戻ってきたのである。

その中にあって、勇者は頭を抱えた。勇者のしょくぎょうは“勇者”であるが、それは魔王がいなければ成り立たない。その魔王がいなくなったとあれば、その名は名乗れない。

早い話が無職になってしまったのである。

「しかし、国の英雄ともあればもうこのまま一生働かないでもいいんじゃないか?」

戦士が腕を組みながらそう言う。王国の騎士団出身の彼は、魔王討伐の実力を買われて近衛騎士団への異動が決まっていた。

「甘いぞ戦士!魔王を倒せる程の力を持つ者、つまりそれは魔王よりも強大な存在ということ!そういう理屈で戦後始末されるなんてよくある話だ!英雄として余生を過ごすよりさっさと一市民に戻った方がいいと思う!」

▼ゆうしゃ は しんちょう だった!

「あと報奨金も正直一生暮らしていけるって程じゃなかった」

▼せちがらい!

「戦後の新しい生活なんて考えてなかったなぁ、ここにいない人たちはどうなったの?」
魔法使いが戦士に言葉を放る。

「神官は中央教会の祭祀に昇進、盗賊は恩赦で罪を許されて例の孤児院の経営者になった。商人はまぁ元の鞘に収まったってトコだな」
「くそ......皆地に足ついてるなぁ......!」
「まぁそんで俺は近衛騎士団へ異動......ってトコだが。なんなら俺が騎士団に推薦してやろうか?」
「お願いしたいところなんだけど」

勇者が顔を伏せる。

「騎士になるには士道免許がいるだろ......?」
「あぁ、帯剣するのに必要な免許か。それがどうした?」
「僕突然勇者にされたから持ってないんだよ......!」
「うっそだろお前!?」

戦士が素っ頓狂な声を上げる。

「まさか!?そんなことあるかよ!?なんかこう......特例とか認められないのか!?」
「最初僕もそう思って旅に出る前宰相閣下に聞いたんだよ......そしたらさ」
──え?そうですなぁ、免許制ですし、特例はちょっとなぁ......まぁ、聖剣に選ばれたのが免許みたいなもんでしょうし、大丈夫大丈夫!
「って言われて」

「適当だなオイ!?」
「聖剣は魔王との戦いで放った最後の一撃で砕けちゃったし」
「あぁ、超極ナントカ斬で......」
「超極鬼神冥送烈壊斬り」

▼ゆうしゃ は こだわり が つよかった!

「とにかく、免許を取りに行くにしても最低でも三年はかかる。だから剣に関わる仕事はその間できない。そもそもいくら国の英雄だからって三年もプーは許されないでしょ」
「じゃあこっちはどう?」

ふと、魔法使いが椅子から立ち上がり、勇者の前に杖を突きつけて見せる。

「魔法?こいつは......」
「使ってないだけで勇者は魔法も使えるよ?」
「そうなのか?」
「とりあえずファイグリアは使えるようにした」
「街一つ吹っ飛ばせるヤツだろそれ!?」

戦士がまた大げさに驚く。そのレベルの魔法は本業の魔法使いでさえも習得できるかどうかといったところ。十分戦後の食い扶持として使える技術ではないだろうか。

「そ。だから私と一緒に魔法都市に来ない?ファイグリアが使えるまで火属性魔法を極めたならきっとアカデミーにポストがあるよ!」
「それもなんだけど」

勇者が頭を抱える。

「僕ファイグリアしか使えないんだよ......!」
「うっそでしょ!?」

魔法使いが叫ぶ。

「えっ!?なんで!?普通火属性魔法ってファイ、ファイナ、ファイナガラ、ファイナザールってきて初めてファイグリアじゃないの!?」
「強い魔法の方が皆の役に立てるかなって最初からファイグリアの勉強しかしてなかったんだ......!覚えた後も勉強したんだけど、何故かファイグリアしか......!」

▼ゆうしゃ は きよう に ぶきよう だった!

「え、じゃあ待って、勇者、キミのMPって測定値いくつだったの?」
「三十」
「一発撃ったらおしまいじゃん!」

魔法使いの絶叫。いくら最強の火属性魔法が使えるとはいえ、それしか使えない、加えて一発使えばしばらく何も使えないとなると、魔法都市に居場所は無いだろう。

「ふがいない勇者で申し訳ない」
「今更何言ってんの。でも参ったなぁ......想定外」
「他に、何か資格とかは持ってないのか?」
「何も。森で聖剣を引き抜くまで僕ただの農村の子供だったんだよ?その農村だってなくなっちゃったしなぁ......まぁ、現実的な所で考えるなら西部の開拓地に行くか......」
「魔王討伐の英雄がそんな哀れな末路を辿るなんてヤだな」
「じゃあもうどうすればいいんだよぅ!」

▼ついに ゆうしゃ は ヤケ に なった!

「あぁもういいよ!じゃあもう僕が次の魔王になるよ!そんで次の勇者が出てきて超極鬼神冥送烈壊斬りで僕を倒せばいいんだ!もう殺せえええぇぇぇっ!」
「落ち着けよ」
「うん......」

鼻を赤くしながら勇者がのそりと立ち上がる。

「まぁ流石にそれは冗談だけど、これから僕は何をすればいいんだ......」
「あれ、でも勇者さ」
ふと、魔法使いが手に持った小さな石板に目を落としながら言う。仲間についての情報が逐一記されるマジックアイテムだ。

「何さ」
「勇者のしょくぎょう、まだゆうしゃのままだよ?」
「え?」

見ると、確かに勇者の石板には“しょくぎょう:ゆうしゃ”と刻まれていた。

「え?じゃあ何だ?まだ魔王死んでないのか?」
「そもそも魔王は魔力の塊だよ。殺すことはできないから封印したわけだけど、にしたって復活が早すぎない?まさかもう新しい魔王が生まれたとか?」

その時である。

「気づかれたか......」
「......その声は」

外から聞きなれた声がする。勇者は聖剣の代わりに腰に差したナイフに手をかける。

「魔王!」

扉を勢いよく開く。同時にナイフを構え、臨戦態勢を取った。

「いかにも!」

▼まおう が あらわれた!

──何故か子供の姿で。

「......は?」
「どうした勇者、魔王だぞ。もてなせ」
「え?いや......は?」

魔王を名乗る子供はぽてぽてと足音をたてながら室内へ入り込むと、先ほどまで魔法使いが腰かけていた椅子に大儀そうに座った。

「いやいやいや」
「君、家はどこかな──」
「余は本物の魔王だ。見てわからんか」
「わかんねぇよ!」

戦士が頭を抱える。

「ねぇ、勇者、キミからも......」
「魔王......!?」
「なんで信じてるの?」

▼ゆうしゃ は うたがいしらず だった!

「まぁ、そうなるのも無理はない。以前貴様らと相対したときは魔力の塊を纏っていた。醜い姿ではあるが、これが本来の余の姿だ」
「それじゃ......」
「私たちが封印したのは」
「うむ、余の魔王としての力だな。従って、今現在、余はその力の大部分を失っている」

あくまで尊大に語る魔王を前に、勇者はナイフを収めて言葉を続けた。

「......で、そんな状態の魔王がどうしてここに?」
「うむ、早い話がな......」

瞬間、建物の窓という窓がはじけ飛んだ。

「ヒャッハーーー!」
「なんだこいつら!?」
「魔王様ァ!お命ちょうだいつかまつるウゥーーッ!」

口々にそう叫び、魔物達が部屋になだれ込んできた。

「魔物達!?」
「......助けて欲しいのだ」
「は!?なんで!?」

「魔族のルールでな。魔王とは先代の魔王を倒した者に与えられる称号なのだ。お前たちに力の大部分を封印された今、魔王を目指す者にとっては千載一遇のチャンスなのだ」
「で、死にたくないから僕たちを巻き込むってわけかい」
「話が早いな、そういうことだ」
「なるほどね」

と、勇者が魔王の襟首をむんずと掴む。

「はい。僕にメリットないから好きにしな」

▼ゆうしゃ は はくじょう だった!

「待て待て待て勇者、待て勇者。取引をしよう」
「取引?」

魔物たちが突き出された魔王へと襲いかかる。

「余を守ってくれたら、手伝ってやろう」
「何をさ」
「お前の就職活動だ。一カ月以内に何かしらの職につけてやろう」
「保証がないな」
「まだこの世界には余の息がかかった人間や国がある。その人脈を使えるとしたら?」

瞬間、魔物たちが吹き飛んだ。

「取引成立だな」

魔王がそう呟く。心なしか少し青い顔をしていた。

「いいの勇者?こいつ魔王なんでしょ?」
「罠だったらその時なんとかするさ、まずは職!とりあえずまともな就職先を探さないと......ってことで」
「またずいぶんとリスキーな」
「まぁそれに、なんか魔族側も立て込んでるみたいだしね。とりあえずまずは戦士の国へ行こうか!準備はいい?」

勇者が小さくなった魔王を放り、鞄を担ぎあげる。戦士と魔法使いも、呆れたように小さく笑った。

「出発だ!」


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