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凡庸な絶景

飛行機の窓から外を見ると一面に広がる白い水面のような雲の上にいた。はるか向こうに少しグラデーションのかかった青い空との境界線がある。
小さな長方形の窓から見える景色はどこか既視感のあるネットの写真やインスタグラムでおすすめされる興味のひかれない絶景写真のようでもあった。
この世のどこかにあるのだろうけど自分とは全く関係のない神秘的なものが沢山あるらしいことはSNSの普及で写真集を広げなくとも一般人に広く知れ渡ることとなり、絶景というものの価値が低くなった。

だけど、私が今見ているこの景色は“今自分の目の前にある”ことでそれらの平べったい軽薄な絶景とは違う超現実性を持った特別なものに感じたのだ。

私はiPhoneのカメラでそれを撮ってSNSに載せて誰かに見せたりしたいなと思ったが、こんな景色は自分以外の他人にとってどうでもいいものであり、先程自分でも思ったように「見たことがあるし、その上で話題にもしないような凡庸なもの」であることに気がつく。写真ではこの神秘性は伝わらないし、その伝わらない写真を公開して失敗している輩はこの世に沢山いるのだ。同じ轍は踏みたくない。
この自意識が私の共有欲を抑えてくれる。そしてこの感動は飛行機を降りた途端に溶けて無くなるのだ。

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