春のバス停

バス停に向かいながら、ぼーっと、春が隠し持っている狂気について考えていた。

上着を着る手間がなくなり、気温について文句を言う必要がなくなり、ただ無の中(たまに花粉に襲われるが)を歩き続けられることができる春が好きだ。

しかし、なぜか春になると精神が安定していない気がする。穏やかな季節は穏やかな気持ちになれるはずだ。しかし、春がもつ何かに影響され、この世の全てをぶん殴るぞ!といったような自らの手で何かを破壊したい願望が強くなる。ナイフでぶった斬ってやる!や釘バットで血だらけにしてやる!でもなく、私の手で、拳で破壊したくなるのだ。

春は恐ろしいな〜、春に騙されたくないよ〜などと考えているとあっという間にバス停につき、ベンチに腰を下ろした。

ベンチに座ってからもしつこい私は、春について考えようとしていたのだが、先に座っていた年配の女性に声をかけられた。

「〇〇行きに乗りますか?」と私が乗るバスについて聞かれたので、はいと答えた。
そこから、目的地が栄えていること、目的地にある公園には花見をするために人が溢れていること、出身地の話や気温の話などをした。たった5分ほどの待ち時間に、たくさんの話題がぎゅっと詰まっている満足感のある会話だった。

年齢が離れている初対面の女性と会話をすることは、バスを待っているときくらいだ(なぜかバス停でバスを待っていると年配の女性に声をかけられやすい)。

全く知らない人とでも、会話の中で何度も笑顔になり幸せな気持ちになれることが嬉しい。人間として生まれてよかったなーと思う。人間以外も知らない人と仲良く会話をするのかもしれないけれど。

春について考えようとしていたが、そんなことはどうでもよくなった。知らない人と会話をして、その中で何度も笑顔になった、こんなほのぼのした経験を与えてくれた春はどう考えても穏やかである。

拳で破壊したい気持ちなんてどこかに消えてしまった。ありがとう、淑女。


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