バレンタイン

甘いものが苦手な父が、私の手作りお菓子を食べてくれている姿に愛を感じます。

私は必ず、2/14付近になるとお菓子作りをします。好きな人がいても、いなくても、渡したい相手は1人しかいません。

初めて父にお菓子をあげたときのことは覚えていません。しかし、父が私が作ったお菓子を食べてくれた時の喜びは、忘れられないのです。父が甘いものを食べるのは、バレンタインのときだけでした。私が作ったお菓子だけ、食べてくれるのです。苦手なものが、私の愛で、父からの愛で飲み込まれていきました。

幼い頃のように、父のために作ったと正直に渡すことはできなくなりました。作ったお菓子の写真をLINEに送り、父からの反応を伺います。父も父で、「頂戴」や「お父さんのために作ったの?」なんてことは聞かずに、「美味しいそうじゃん」といった感想が送られてきます。毎年あげているのだから、本当は自分のために作っていることを知っているのでしょう。

失敗したものでも、余ったものでもなく、1番上手にできた美味しそうな見た目のものを選んで渡しています。作っているときも、父のことを思い浮かべています。そのとき恋人がいたとしたら、恋人に失敗作やあまり物を渡していました。それでも嬉しそうに食べている恋人を見ても、少しも心が痛みませんでした。バレンタインは父からの愛情を受け取るための日だからです。

今年は、手作りクッキーを渡しました。父は、わざわざ私からクッキーを受け取るために車で家まで来てくれました。私が渡して、父が受け取り、ありがとうと言われます。たったそれだけのコミュニケーションを取り、ものの数分で解散します。それでもいいのです。これから父から、味の感想が送られてくるでしょう。それだけで、いいのです。

私は来年も再来年も父のためにお菓子を作ることでしょう。一年に一度、私の甘さを受け止めてほしいのです。

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